飲食店経営者の仕事は、「この店でなければならない理由」を作ることである。

Restaurant Business Reform または 飲食店経営改善ブログ

飲食店経営者の仕事は、「この店でなければならない理由」を作ることである。
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1.ブランドとは、高級品のことではない

「ブランドを作りましょう。」

そう言われると、多くの飲食店経営者は少し身構えてしまいます。

ブランドと聞けば、

高級店。

有名店。

テレビで紹介される店。

立派なロゴやデザイン。

そんなイメージを持つ方が多いからです。

実際、飲食店の現場で、

「うちはブランド店を目指しています。」

と話す経営者は、それほど多くありません。

だから私は、この記事で「ブランド」という言葉を使う前に、何を意味しているのかをはっきり定義しておきたいと思います。

私が考えるブランドとは、高級品でも、有名店でもありません。

「この店だから。」

と、お客様に選んでいただける状態のことです。

例えば、お昼ご飯を食べようと思ったとき、

「どこへ行こうかな。」

と何軒かのお店を比べることがあります。

しかし、ある日ふと、

「今日はガブ飲み食堂へ行こう。」

と最初から店の名前が頭に浮かぶことがあります。

そこには、

価格を比べるわけでもありません。

料理の量を比べるわけでもありません。

口コミを見直すわけでもありません。

ただ、

「今日はあの店へ行きたい。」

そう思っていただける理由があります。

私は、この状態こそがブランドだと考えています。

つまり、ブランドとは商品ではありません。

ロゴでもありません。

広告でもありません。

お客様の心の中に、

「この店だから。」

という理由が育っている状態です。

私はこれまで、たくさんの飲食店を見てきました。

売上が伸び続ける店には共通点があります。

それは、他店より少し安いからでも、量が多いからでもありません。

お客様の中に、

「この店で食べたい。」

「この店へ行きたい。」

「またあの店へ行こう。」

という気持ちが育っています。

反対に、どれだけ料理が美味しくても、

「もっと安い店ができた。」

「もっと近い店ができた。」

という理由で簡単にお客様が離れてしまう店もあります。

この違いを、私はブランドという言葉で表現しています。

ブランドとは、高級品ではありません。

ブランドとは、有名になることでもありません。

「比較の結果選ばれる店」から、「この店だから選ばれる店」へ変わること。

私は、その状態を目指すことこそ、飲食店経営者の本当の仕事だと考えています。

2.飲食店は、放っておけば陳腐化する

では、なぜ経営者は「この店だから。」と思っていただける店を目指さなければならないのでしょうか。

理由は、とてもシンプルです。

飲食店は、何もしなければ陳腐化していくからです。

「陳腐化」という言葉を使うと難しく聞こえるかもしれません。

しかし、決して料理がまずくなるという意味ではありません。

お客様から見て、

「以前ほど特別ではなくなった。」

そう感じられてしまう状態です。

これは、どんな飲食店にも起こります。

まず一つ目は、料理は真似されるからです。

人気の商品があれば、競合店は研究します。

味付け。

盛り付け。

価格。

商品名。

今ではSNSのおかげで、そのスピードはさらに早くなりました。

昨日まで自店だけの強みだったものが、一年後には当たり前になっていることも珍しくありません。

二つ目は、お客様は慣れるからです。

初めて来店したときは、

「すごい。」

「こんなお店があったんだ。」

と感動したことでも、何度も通えば、その感動は日常になります。

これは、お店が悪くなったからではありません。

人は、どんな良い体験にも少しずつ慣れていく生き物だからです。

だから、昨日まで喜ばれていたことが、明日も同じように喜ばれるとは限りません。

三つ目は、世の中は止まってくれないからです。

新しい店がオープンする。

新しい商品が流行する。

SNSの見せ方も変わる。

最低賃金は上がる。

食材価格も変わる。

お客様の価値観も少しずつ変化していきます。

自分の店が何も変わっていなくても、周りだけがどんどん変わっていくのです。

つまり、現状維持とは、その場に立ち止まることではありません。

変化し続ける世の中に対して、少しずつ遅れていくことでもあります。

だから私は、飲食店経営とは「維持する仕事」ではないと思っています。

変化し続ける仕事です。

料理を磨く。

接客を磨く。

店を磨く。

商品を育てる。

新しい価値を作る。

そうした改善を積み重ねながら、お客様に

「この店だから行きたい。」

と思っていただける理由を増やしていく。

その努力をやめた瞬間から、お店は少しずつ陳腐化していきます。

私は、ブランドとは格好をつけるためのものではないと考えています。

飲食店が時代の変化に埋もれず、お客様から選ばれ続けるために必要な経営そのものです。

だからこそ、ブランドは「あれば良いもの」ではありません。

飲食店が長く生き残るために、育て続けなければならないものなのです。

3.比較される店は苦しくなる

では、陳腐化が始まると、お客様は何を基準に店を選ぶようになるのでしょうか。

多くの場合、比較しやすい条件です。

価格。

料理の量。

クーポン。

駅からの距離。

営業時間。

人は、違いが分かりやすいものほど比較します。

そして、お客様が価格で比較し始めると、店側も価格で応えようとします。

「もう少し安くしよう。」

「ご飯を大盛り無料にしよう。」

「クーポンを配ろう。」

もちろん、これらの施策が悪いわけではありません。

価格を下げることで来店につながることもあります。

ボリュームを増やすことで喜んでいただけることもあります。

クーポンが新しいお客様との出会いになることもあります。

私自身も、必要だと思えば取り入れます。

しかし、一つだけ忘れてはいけないことがあります。

お客様が価格で来店したなら、次も価格で判断されるということです。

量で来店したなら、次も量で比較されます。

クーポンで来店したなら、次もクーポンを期待されます。

つまり、最初に選ばれた理由が、そのまま比較され続ける理由になります。

そして、その比較は終わりません。

もっと安い店が現れるかもしれません。

もっと量の多い店が現れるかもしれません。

もっと大きな割引をする店が現れるかもしれません。

そのたびに同じ土俵で勝負を続ければ、店は少しずつ疲弊していきます。

利益は減り、人件費は苦しくなり、新しい投資もできなくなります。

だから私は、価格競争そのものを否定したいわけではありません。

問題は、

価格しか選ばれる理由がないこと。

量しか理由がないこと。

クーポンしか理由がないこと。

ここに危険があると考えています。

例えば、お客様が、

「今日はガブ飲み食堂へ行こう。」

と思った理由が、

料理。

スタッフ。

居心地。

おかわり自由。

大人のドリンクバー。

安心感。

これら全部だったとします。

その状態なら、近くに100円安い店ができても、お客様は簡単には離れません。

しかし、

「安いから。」

その一つだけで選ばれていたなら、もっと安い店が現れた瞬間に比較されます。

私はこれまで、たくさんの飲食店を見てきました。

苦しくなっていく店には共通点があります。

それは、価格が高いことでも、料理が悪いことでもありません。

お客様が、その店を一つの条件だけで選ぶようになっていることです。

一つの条件は、必ず真似されます。

一つの条件は、必ず比較されます。

だから経営者は、比較される条件を一つ増やすのではなく、

比較だけでは決められない店を目指さなければなりません。

それが、次にお話しする「ブランド」という考え方につながっていきます。

4.経営者の仕事は「この店だから。」を増やすこと

では、どうすれば「この店だから。」と思っていただける店になれるのでしょうか。

私は、飲食店経営者の仕事はたった一つだと考えています。

「この店だから。」という理由を増やし続けることです。

多くの経営者は、

料理を考える。

価格を考える。

広告を考える。

それぞれを別々の仕事として捉えています。

しかし私は、全部同じ仕事だと思っています。

すべては、お客様の中に

「この店だから。」

という理由を一つずつ増やしていく活動です。

例えば、お客様が店を利用するまでには、いくつもの選択があります。

まずは、

「この店へ行こう。」

と思っていただく理由。

店構え。

外観。

駐車場。

口コミ。

ホームページ。

SNS。

ブランド商品。

これらは、お客様が来店を決める理由になります。

次に、

「これを注文しよう。」

と思っていただく理由。

メニューの見せ方。

商品名。

写真。

おすすめの伝え方。

スタッフの一言。

どれも注文を後押しする理由です。

そして、

「また来よう。」

と思っていただく理由。

料理の満足感。

居心地。

接客。

オペレーション。

常連制度。

安心感。

これらが積み重なることで、再来店につながります。

さらに、

「あの店、一緒に行こう。」

と思っていただければ、お客様は大切な人へ店を紹介してくださいます。

ここまで来ると、お客様はただ料理を買っているのではありません。

その店で過ごす時間や体験そのものを選んでいます。

つまり、飲食店経営とは料理を売る仕事ではありません。

お客様が、

「この店へ行く。」

「この料理を注文する。」

「また来る。」

「誰かを連れてくる。」

その一つひとつの行動に理由を作る仕事です。

理由が一つしかなければ、その理由は真似されます。

しかし、理由が十個あれば、その店は簡単には真似できません。

だから私は、

新しい商品を作ることも、

接客を磨くことも、

店内を改善することも、

ブランド商品を育てることも、

すべて同じ目的だと考えています。

「この店だから。」

その理由を、一つずつ増やしていくこと。

それこそが、飲食店経営者の本当の仕事なのです。

5.ブランドは、一つの商品では作れない

「ブランド商品を作ればブランドになる。」

そう考えてしまう経営者は少なくありません。

しかし、私はそうは思いません。

たしかに、看板商品は大切です。

「あの店へ行ったら、あれを食べたい。」

そう思っていただける商品は、大きな武器になります。

でも、それだけではブランドにはなりません。

料理が美味しい。

接客が気持ちいい。

店構えが入りやすい。

オペレーションが安定している。

居心地がいい。

スタッフが明るい。

常連さんが楽しそうに過ごしている。

店の雰囲気が好き。

こうした一つひとつの体験が積み重なって、

お客様の心の中に、

「この店だから。」

という気持ちが育っていきます。

ブランドとは、ロゴでもありません。

看板商品でもありません。

広告でもありません。

お客様が店を利用するたびに積み重なった信頼の総量です。

だから私は、

新商品を開発するときも、

接客を改善するときも、

店内を掃除するときも、

オペレーションを見直すときも、

すべて同じ仕事だと考えています。

その一つひとつが、

未来のブランドを育てる活動だからです。

ブランドは、一日で完成するものではありません。

毎日の小さな改善を積み重ねた先に、

気づけばお客様から

「この店だから。」

と選んでいただけるようになる。

私は、その状態こそが本当のブランドだと考えています。

6.これがケイパビリティ・ベースド・ストラテジー

ここまで読んでいただいて、

「結局、料理だけではないという話なんだな。」

そう感じられた方もいるかもしれません。

その通りです。

そして実は、この考え方には経営学でも名前があります。

ケイパビリティ・ベースド・ストラテジー(Capability-Based Strategy)です。

難しい言葉に聞こえますが、考え方はとてもシンプルです。

企業が競争に勝つのは、一つの商品が優れているからではありません。

一つの能力が優れているからでもありません。

商品開発。

接客。

教育。

オペレーション。

マーケティング。

ブランド。

改善する力。

こうした様々な能力が組み合わさり、他社には簡単に真似できない強みになったとき、本当の競争力が生まれます。

私は、この考え方に出会ったとき、

「飲食店経営もまったく同じだ。」

と強く感じました。

多くの飲食店は、

料理だけを磨こうとします。

価格だけを考えます。

SNSだけを頑張ります。

しかし、本当に長く選ばれ続ける店は違います。

料理も。

接客も。

店構えも。

オペレーションも。

スタッフも。

ブランド商品も。

常連づくりも。

そのすべてを少しずつ磨き続けています。

だから簡単には真似されません。

私はこれまで、その考え方を現場で何度も試してきました。

そして今では、

飲食店経営者の仕事とは、

「この店だから。」という理由を増やし続けること。

その積み重ねによって、他店には真似できない競争力を育てることだと考えています。

それが、私がRBRで伝え続けたい飲食店経営の考え方です。

この記事を書いた人 Wrote this article

新田 敏之

新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性

RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。