
~RBRが考える、弱者のマネジメント論~
はじめに

私は25年以上、飲食業界で働いてきました。
その中で、多くの繁盛店を見て、多くの失敗も経験してきました。
以前の私は、
「もっと効率良く。」
「もっとオペレーションを改善しよう。」
「もっとマニュアルを整備しよう。」
そんなことばかり考えていました。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、ある経営戦略との出会いが、私の考え方を根本から変えました。
それが、
ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーです。
この考え方を学んだ時、
私は一つの疑問を持ちました。
「なぜ私たち中小飲食店は、大手が一番得意な土俵で勝負しようとしているのだろう。」
その瞬間から、
私の飲食店経営は大きく変わりました。
マニュアルを否定するようになったわけではありません。
オペレーションを軽視するようになったわけでもありません。
そうではなく、
「何を競争力にするのか。」
その考え方が変わったのです。
そして私がたどり着いた答えが、
ホスピタリティと、考える飲食人を育てること。
これこそが、中小飲食店が大手と戦うための武器だと考えています。
この記事では、その理由を私なりの考え方でお伝えします。
この記事のテーマを、動画シリーズ「小さな飲食店の勝ち方」の第1回でもお話ししています。
1.大手と同じ経営を目指してはいけない

個人店や中小零細企業が運営する飲食店は、大手飲食チェーンと同じ経営を目指すべきではない。
私はそう考えています。
ただし、これは大手の経営手法を否定しているわけではありません。
大手企業の経営には、学ぶべきことが数多くあります。
商品品質の安定。
衛生管理の徹底。
教育制度。
数値管理。
仕入れの仕組み。
店舗オペレーション。
ブランドの統一。
複数の店舗で、一定水準以上のサービスを提供し続けるために、大手企業は長い時間と多額の費用をかけて仕組みを作っています。
その完成度は非常に高い。
だからこそ、私たちは大手から学ばなければなりません。
しかし、学ぶことと、そのまま同じ経営を目指すことは別の話です。
大手と個人店では、そもそもの条件が違う
大手企業と個人店では、持っている経営資源が大きく異なります。
資金。
人材。
知名度。
広告予算。
商品開発力。
仕入れ力。
システム。
教育にかけられる時間と費用。
一つの店舗で問題が起きたときに、それを支えられる本部機能もあります。
大手飲食チェーンは、こうした豊富な経営資源を使いながら、多数の店舗を安定して運営する仕組みを作っています。
一方で、個人店や中小の飲食企業は、限られた人数と資金で店を運営しています。
経営者が商品開発を行い、採用を行い、教育を行い、広告を考え、現場にも立つ。
店長も、管理だけではなく、調理や接客に入りながら店舗を動かしていることが少なくありません。
同じ飲食店であっても、経営の前提が違います。
前提が違うのに、同じやり方だけを追いかければ、どこかで無理が生じます。
大手の完成形を小さく再現しても、大手にはなれない
中小飲食店が経営を学ぼうとすると、どうしても大手の成功事例が目に入ります。
マニュアルを作る。
業務を標準化する。
接客用語を統一する。
誰が働いても同じ商品を出せるようにする。
作業を細かく分解し、個人の判断を減らす。
これらは、多店舗を展開するうえでは非常に有効な方法です。
しかし、それを個人店がそのまま再現しようとしても、大手より精度の高い仕組みを作ることは簡単ではありません。
大手には、仕組みを作る専門部署があります。
現場の問題を集め、マニュアルを更新し、研修制度を改善し、数百、数千店舗で検証できる環境があります。
個人店が同じ土俵で、
「どちらのマニュアルが優れているか」
「どちらのオペレーションが安定しているか」
という勝負をしても、資本と経験の差がそのまま出てしまいます。
大手が得意とする戦い方で、大手以上の成果を出そうとする。
これは、弱者の戦い方ではありません。
同じことをして、価格まで負ければ選ばれる理由がなくなる
大手飲食チェーンには、安心感があります。
どの店舗へ行っても、ある程度同じ料理が出てくる。
接客や店内環境も大きく外れない。
初めて入る店舗でも、利用方法が分かりやすい。
しかも、仕入れ量や生産効率を生かし、価格を抑えられる場合もあります。
個人店が大手と同じような商品を提供し、同じような接客を行い、同じような店づくりをしたとしても、価格や知名度、安心感では不利になりやすい。
そこでお客様から、
「この店でなければならない理由は何か」
と問われたとき、答えられなくなります。
料理も似ている。
サービスも似ている。
雰囲気も似ている。
それなのに価格は少し高い。
知名度もない。
駐車場や立地も大手ほど良くない。
それでは、選ばれる理由を作ることができません。
中小飲食店が大手の劣化版になってしまえば、勝負は始まる前から決まっています。
小さいことは、弱みだけではない
中小飲食店は、大手より資金が少ない。
人も少ない。
設備も限られている。
確かに、不利な条件はあります。
しかし、小さいことは弱みだけではありません。
意思決定が早い。
今日気付いたことを、明日から変えられる。
目の前のお客様に合わせて対応を変えられる。
地域のお客様の声を直接聞ける。
経営者の考えを、現場まで近い距離で伝えられる。
スタッフ一人ひとりの個性を生かせる。
新しい商品やサービスを、小さく試すこともできます。
大手企業が全店舗で変更を行うためには、多くの確認や準備が必要です。
しかし、個人店なら、現場で得た気付きをすぐに改善へつなげることができます。
この柔軟性こそ、小さな会社が持つ大きな能力です。
問題は、この強みを捨てて、大手と同じようにすべてを固定してしまうことです。
マニュアルをなくせと言っているのではない
ここは明確にしておかなければなりません。
私は、マニュアルが不要だと言っているわけではありません。
料理の分量。
調理方法。
衛生管理。
清掃基準。
アレルギー対応。
金銭管理。
事故やクレームが発生した際の対応。
こうした部分には、明確な基準が必要です。
人によって判断が変わってはいけない仕事は、仕組み化しなければなりません。
マニュアルは、品質と安全を守るために必要です。
ただし、マニュアルは経営の目的ではありません。
あくまで、店を運営するための土台です。
その土台の上で、何を競争力にするのか。
ここを考えなければなりません。
大手は、標準化によって店舗数を増やし、品質を安定させることに強みがあります。
では、個人店は何を強みにするのか。
私は、その答えの一つが、人が考えて生み出すホスピタリティだと考えています。
お客様一人ひとりに合わせられることが、小さな店の強さ
お客様は、全員が同じサービスを求めているわけではありません。
静かに食事をしたい人もいます。
料理について詳しく知りたい人もいます。
急いでいる人もいます。
小さなお子様を連れている人もいます。
常連のお客様もいれば、初めて来店されたお客様もいます。
すべてのお客様に、決められた言葉と決められた動作だけで対応しても、本当に喜んでいただけるとは限りません。
目の前のお客様を見て、
今、何を求めているのか。
何をすれば安心していただけるのか。
何をすれば、より快適に過ごしていただけるのか。
それをスタッフ自身が考え、行動する。
これは、標準化だけでは生み出しにくい価値です。
そして、小さな店だからこそ実現しやすい価値でもあります。
経営者と現場の距離が近く、スタッフ同士の関係も近い。
お客様の反応を直接受け取り、店全体で共有できる。
一つの気付きが、その日のうちに店の行動へ変わる。
この速さと柔軟性は、大手には簡単にまねできません。
弱者は、大手にできないことを強くする
弱者の戦略とは、大手と同じことを少ない資金で行うことではありません。
大手が強い場所を避け、自分たちが強くなれる場所を選ぶことです。
広告費で勝てないのであれば、地域のお客様との関係を深くする。
仕入れ価格で勝てないのであれば、商品に独自の価値を加える。
知名度で勝てないのであれば、一度来店してくださったお客様を徹底的に大切にする。
マニュアルの完成度で勝てないのであれば、目の前のお客様を見て判断できる人を育てる。
自分たちが持っていないものを嘆くのではなく、自分たちだからこそ持てる能力を磨く。
それが、中小飲食店に必要な経営だと私は考えています。
目指すべきは、大手の縮小版ではない
個人店や中小飲食企業が目指すべきなのは、大手チェーンを小さくしたような店ではありません。
大手には大手の強さがあります。
個人店には個人店の強さがあります。
両者は、同じ飲食業でありながら、磨くべき能力が違います。
大手から学ぶべき仕組みは学ぶ。
品質、安全、数値管理など、取り入れるべきものは取り入れる。
その一方で、自分たちの強みまで大手に合わせて捨ててはいけません。
小さいからこそできる対応。
一人ひとりのお客様に向き合う姿勢。
スタッフが自分で考え、店を良くしていく力。
こうした能力を、意識して育てていく必要があります。
大手と同じ経営を目指してはいけないというのは、大手から何も学ぶなという意味ではありません。
大手の強みを理解したうえで、自分たちが同じ武器では勝てないことを認める。
そして、自分たちにしか作れない競争力を選び、磨き続ける。
それが、限られた経営資源で戦う個人店や中小飲食企業に必要な、最初の戦略だと考えています。
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この記事を書いた人 Wrote this article
新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性
RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。