経営者が本当に買うべきものは「時間」なのかもしれない|経営に必要な時間を数字で考える

- 1. 第0章 スーパー経営者なら「時間がかかる」ことは知っている
- 2. 第1章 経営には「時間でしか解決できない問題」がある
- 3. 第2章 「時間がかかる」と「何か月かかる」は全く違う
- 4. 第3章 初期投資は「金額」ではなく「回収時間」で見る
- 5. 第4章 新店には「育つまでの時間」が必要
- 6. 第5章 常連客は広告費だけでは買えない
- 7. 第6章 黒字化しても財務はすぐには回復しない
- 8. 第7章 だから経営者は「時間を買う」
- 9. 第8章 すべての時間を買えばいいわけではない
- 10. 第9章 経営には「縮める時間」「待つ時間」「買う時間」がある
- 11. 第10章 一番危険なのは「時間切れ」
- 12. 第11章 経営計画には「金額」と一緒に時間を書く
- 13. 最終章 経営者が管理するのは「金」だけではない
第0章 スーパー経営者なら「時間がかかる」ことは知っている

熟練経営者なら、商売には時間がかかることを知っています。
新しく店を出したからといって、翌月から理想の売上になるとは限りません。
店の存在を知ってもらい、実際に来店してもらい、商品やサービスを評価してもらう。その積み重ねによって、少しずつ店は地域に定着していきます。
設備や内装に使った初期投資も同じです。
数百万円、場合によっては1,000万円を超える資金を投入して店を作っても、その金額を数か月で取り戻せるケースは多くありません。
1年、2年、3年。
事業によっては、さらに長い期間をかけて回収していきます。
人を育てることにも時間が必要です。
新しく入ったスタッフに仕事を教えたからといって、翌日からベテランと同じように働けるわけではありません。
店の評判も、ブランドも、取引先との信用も同じです。
商売には、今日やったことが今日結果になるものと、時間の経過によって初めて形になるものがあります。
だから、
「経営には時間が必要です」
という話だけなら、熟練経営者にとって特別新しい話ではありません。
では、なぜ改めて「時間」について考える必要があるのでしょうか。
私は、重要なのは時間がかかることを知っているかどうかではないと考えています。
重要なのは、
経営に必要な時間を、経営者が管理できているか。
ということです。
たとえば経営では、
「しばらくすれば売上は安定するだろう」
「そのうち投資も回収できるだろう」
「利益が出ていれば、いずれ会社の財務も良くなるだろう」
と考える場面があります。
もちろん、その考え自体が間違っているわけではありません。
問題は「しばらく」「そのうち」「いずれ」が、経営数字になっていないことです。
経営では売上を数字で管理します。
原価率も、人件費率も、利益率も、現預金も数字で確認します。
ところが時間だけは、
「もう少しかかる」
「あとしばらく頑張ろう」
という感覚で扱われることがあります。
しかし本来、時間も経営資源の一つです。
そして金や人と違って、使った時間を後から取り戻すことはできません。
だからこそ、
何を急ぐのか。
何には時間をかけるのか。
どこまで待てるのか。
必要な時間をどう確保するのか。
経営者は、それを判断する必要があります。
この記事では、「時間を大切にしましょう」という話をするつもりはありません。
そんなことは、多くの経営者がすでに知っています。
考えたいのは、
時間を経営の中でどう扱うのか。
ということです。
売上、利益、キャッシュ、人材。
経営者が管理するものはたくさんあります。
そこにもう一つ、
「時間」
という経営資源を加えてみます。
すると、今までとは少し違った角度から、会社の状態が見えてくるはずです。
第1章 経営には「時間でしか解決できない問題」がある

経営が苦しくなれば、経営者は改善策を考えます。
売上が足りなければ、集客を強化する。
客単価が低ければ、商品の構成や価格を見直す。
原価率が高ければ、仕入れ先や使用量、メニュー構成を見直す。
人件費が高ければ、シフトや営業時間、オペレーションを改善する。
このように、多くの経営課題には「打てる施策」があります。
しかし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。
施策を打った日と、その効果が完成する日は同じではありません。
たとえば、毎月30万円の利益が出る状態まで経営を改善できたとします。
これは大きな前進です。
しかし、過去に300万円の損失を抱えていたとすれば、30万円の利益が出た瞬間に300万円が戻ってくるわけではありません。
単純計算なら、
300万円 ÷ 30万円 = 10か月。
改善には成功していても、その成果が積み上がるまでには10か月かかります。
ここは経営を考えるうえで非常に重要です。
「改善できた」ということと、「回復した」ということは同じではありません。
顧客についても同じことが言えます。
新規客を増やすために広告を出すことはできます。
再来店を促す仕組みを作ることもできます。
商品や接客を改善することもできます。
しかし、今日初めて来店したお客様が、今日のうちに5回来店した常連客になることはありません。
一度来店してもらい、また来てもらう。
その次も選んでもらう。
こうした結果は、施策だけで作られるものではなく、一定の期間を通過することで形になっていきます。
投資も同様です。
新しい設備を導入した。
店舗を改装した。
新店舗を出した。
その判断が正しく、実際に利益を生み始めたとしても、投入した資金を回収するには利益を積み重ねていかなければなりません。
つまり経営には、
行動によって変えられる部分と、行動したあとに経過を必要とする部分がある。
この二つを分けて考える必要があります。
経営者ができるのは、改善策を考え、実行し、成果が出る状態を作るところまでです。
そこから先は、その成果を積み上げていく期間が必要になることがあります。
ここを無視すると、
「改善したのに、なぜ楽にならないのか」
「利益が出ているのに、なぜ資金が増えないのか」
「評判が良くなっているのに、なぜ売上が一気に伸びないのか」
という疑問が生まれます。
しかし、それは施策が失敗しているとは限りません。
まだ成果が積み上がる途中なのかもしれないのです。
経営では、正しいことをすれば必ずその場で答えが返ってくるわけではありません。
原因を改善する。
成果が生まれる。
その成果が蓄積される。
そして、ようやく経営状態が変わる。
この間には、どうしても省略できない期間が存在します。
だから経営を見るときには、
「何をすれば改善するのか」だけではなく、「改善したあと、結果が完成するまでどれだけかかるのか」まで考える必要があります。
経営には、努力や資金だけでは一瞬で埋めることのできない領域があります。
そこに存在しているもう一つの変数。
それが、
「時間」です。
第2章 「時間がかかる」と「何か月かかる」は全く違う

経営の現場では、時間について曖昧な言葉を使うことがあります。
「もう少し続ければ良くなる」
「そのうち軌道に乗る」
「いずれ回収できる」
「しばらく様子を見よう」
日常会話なら、これで問題ありません。
しかし、経営判断として考えるなら話は別です。
「時間がかかる」と分かっていることと、「あと何か月必要なのか」を把握していることは全く違います。
たとえば、新店舗を出して3か月が経過したとします。
まだ目標売上には届いていない。
それだけを見て、
「もう3か月も経った」
と考えるのか、
「計画では損益分岐点到達まで6か月だから、現在は予定の途中」
と考えるのか。
同じ状況でも、判断は大きく変わります。
逆の場合もあります。
半年くらいで軌道に乗る想定だったのに、10か月経っても数字が変わらない。
それでも、
「商売は時間がかかるから」
と考え続けていたら、今度は「時間が必要」という考え方そのものが、問題を先送りする理由になってしまいます。
だから時間には、基準が必要です。
たとえば、
黒字化まで6か月。
目標月商到達まで12か月。
初期投資回収まで36か月。
新しい社員が一つのポジションを任せられるまで3か月。
こうして期間を設定すると、初めて予定と実績を比較できます。
予定より早いのか。
予定通りなのか。
遅れているのか。
そして遅れているなら、何が原因なのか。
ここまで見えて初めて、経営者は次の判断ができます。
これは売上目標と同じです。
「もっと売上を上げたい」
では、経営目標としては弱い。
月商500万円を目指す。
現在400万円なら、あと100万円必要。
だから、その100万円を客数、客単価、時間帯、曜日などに分解して考える。
数字にすることで、初めて具体的な行動へ落とし込めます。
時間も同じです。
「いつか」を「12か月」にする。
「しばらく」を「3か月」にする。
「そのうち回収する」を「36か月で回収する」にする。
すると時間は、ただ過ぎていくものではなく、計画と比較できるものになります。
そして、ここでもう一つ重要になるのが、
期限を決めることは、未来を正確に予言することではない
という点です。
商売ですから、計画通りにいかないことはいくらでもあります。
半年の予定が8か月になることもあれば、逆に4か月で達成することもあります。
大切なのは、最初に基準を持っていることです。
基準があれば、
「2か月遅れている」
と認識できます。
基準がなければ、
「まだ時間が必要なのかもしれない」
という判断を延々と続けることもできてしまいます。
これは経営において怖い状態です。
時間そのものには、良いも悪いもありません。
必要な時間なら待てばいい。
予定より遅れているなら原因を探せばいい。
想定より早ければ、その理由を分析して次に生かせばいい。
その判断を可能にするのが、時間の数値化です。
売上に目標額を置くように、経営には目標期間を置く。
「いくら必要なのか」と同じくらい、
「いつまでに、どこまで到達するのか」
を決めておく。
時間を経営に組み込む最初の一歩は、ここから始まります。
第3章 初期投資は「金額」ではなく「回収時間」で見る

飲食店を一店舗作ろうと思えば、大きなお金が必要になります。
物件取得費。
内装工事費。
厨房設備。
家具や食器。
POSレジなどのシステム。
看板。
採用費。
開業時の販促費。
店舗の規模や業態によって違いますが、これらを合わせれば1,000万円を超えることも珍しくありません。
では、1,000万円かけた店は「投資額の大きな店」なのでしょうか。
もちろん金額だけを見れば大きな投資です。
しかし、経営者が本当に見るべきなのは、その金額だけではありません。
その1,000万円を、何年で取り戻せる事業なのか。
ここまで見て、初めて投資の意味が分かります。
たとえば、同じ1,000万円を使って作った二つの店舗があるとします。
A店は、営業によって年間400万円のキャッシュを生み出せる。
B店は、年間150万円しか生み出せない。
単純化して考えれば、
A店は約2年6か月。
B店は約6年8か月。
同じ1,000万円の投資でも、経営者から見える景色はまったく違います。
つまり、
「いくら使ったか」だけでは、投資の良し悪しは判断できない。
回収する力までセットで考える必要があります。
これは店舗改装でも同じです。
300万円を使って改装するとします。
300万円という金額だけを見れば、
「高い」
「安い」
という話になりがちです。
しかし、その改装によって毎月10万円のキャッシュが新たに残るなら、単純計算で回収には30か月かかります。
毎月30万円残るなら10か月です。
逆に、売上は増えても利益がほとんど増えないのであれば、回収にはかなり長い期間が必要になります。
だから投資判断では、
売上がいくら増えるのかだけを見るのでは不十分です。
最終的にいくら残り、その結果として何年で投資額を取り戻せるのか。
ここを見る必要があります。
特に多店舗展開を考える経営者にとって、回収時間は重要です。
一店舗目に投じた資金が長期間固定されたままなら、次の店舗に使える自己資金はなかなか増えません。
反対に、投資を早く回収できるモデルを作ることができれば、そこで生まれたキャッシュを次の投資へ回せます。
一店舗目で生んだ資金を二店舗目へ。
二店舗目で生んだ資金を三店舗目へ。
こうして考えると、出店スピードを決めているのは売上だけではありません。
投資した資金が戻ってくる速度も、事業成長のスピードを決めています。
ここで注意したいのは、「回収が早ければ何でも良い」という話ではないことです。
大きな投資が必要でも、長期間にわたって安定した利益を生む事業もあります。
反対に、少額で始められても、利益がほとんど残らなければ資金は戻ってきません。
見るべきなのは、投資額の大小だけではなく、
投資額と、そこから生まれるキャッシュと、回収に必要な期間のバランスです。
店舗を作るとき、どうしても「いくら必要なのか」に目が向きます。
しかし、出店した瞬間から、そのお金は回収する側に回ります。
だから出店計画には、
「開業に1,000万円必要」
だけではなく、
「この1,000万円を何年で回収するのか」
まで書いておく。
投資額を見るだけでは、店を作るための計画です。
回収期間まで見ることで、初めて事業としての計画になります。
第4章 新店には「育つまでの時間」が必要

新しい店をオープンするとき、多くの経営者が最初に考えるのは開業資金です。
物件を借りる。
内装を作る。
厨房機器を入れる。
スタッフを採用する。
食材を仕入れる。
そして店をオープンする。
ここまでに必要なお金は比較的見えやすい。
ところが、本当に資金が必要になるのはオープンまでとは限りません。
店はオープンした瞬間に完成するわけではないからです。
新店には、育つまでの期間があります。
まず地域の人に店の存在を知ってもらう必要があります。
その中の一部の人が興味を持ち、初めて来店します。
料理を食べ、サービスを受け、価格も含めて店を評価する。
営業を続ける側も、お客様の反応を見ながら商品やサービスを修正していきます。
「この商品はよく出る」
「この価格では選ばれにくい」
「この時間帯に注文が集中する」
「このオペレーションではピークを処理できない」
「想定していた客層と実際の客層が違う」
こうしたことは、開業前の事業計画だけでは完全には分かりません。
実際に営業して初めて見えてくるものがあります。
だから新店の立ち上げでは、
営業しながら店を市場に合わせていく期間
が必要になります。
ここで経営者が注意したいのが、開業時点の売上をその店の実力だと決めつけないことです。
オープン直後は、新店への興味で一時的に客数が増えることもあります。
反対に、まだ認知されていないため、本来持っている力より売上が低い場合もあります。
どちらにしても、最初の数字だけでは判断しにくい。
何週間、何か月と営業を続けることで、曜日ごとの売上、時間帯ごとの客数、客単価、商品構成、再来店の動きなど、その店本来の姿が少しずつ見えてきます。
ここで一つ、大きな問題があります。
店が育つより先に、資金が尽きてしまうことです。
たとえば、開業から半年程度かけて店を安定させる計画を立てているとします。
その計画なら、当然その半年間にも家賃が発生します。
給与も必要です。
水道光熱費も、仕入れ代金も、広告費も支払わなければなりません。
売上が計画より低ければ、その不足分をどこかから補う必要もあります。
つまり開業時に必要なのは、
「店を作るためのお金」だけではありません。
店が自分の力で十分に回り始めるまでの資金も必要です。
私は、ここを分けて考えた方がいいと思っています。
一つは開業資金。
もう一つは育成資金です。
開業資金は、店をスタート地点まで連れていくためのお金。
育成資金は、スタートした店を軌道に乗せるまで支えるためのお金。
この二つは役割が違います。
開業資金をすべて店舗づくりに使い切ってしまえば、オープンした翌日から売上に追われます。
そうなると、本来なら半年かけて改善すべき店を、1か月や2か月の数字だけで判断しなければならなくなる。
焦って値下げする。
広告を乱発する。
コンセプトを変える。
メニューを次々に増やす。
必要な改善ではなく、資金不足による焦りが経営判断を動かし始めることがあります。
これは非常に危険です。
新店を出すということは、店舗を完成させることだけではありません。
その店が市場の中で育つところまで含めて、出店です。
だから開業計画を作るときには、
「オープンまでにいくら必要か」
だけで終わらせない。
「この店が安定するまで、どれくらいの資金を持っておく必要があるのか」
ここまで考えておく。
新店経営では、豪華な内装や最新設備以上に、オープン後の試行錯誤を許してくれる余力が重要になることがあります。
店を育てるには時間が必要です。
そして、その時間を確保するためには、
店が育つまで耐えられる資金を、最初から用意しておく必要があります。
第5章 常連客は広告費だけでは買えない

飲食店の集客には、お金を使って速度を上げられる部分があります。
Google広告を出す。
SNS広告を出す。
グルメサイトに掲載する。
チラシを配る。
クーポンを発行する。
方法はいろいろあります。
うまく使えば、何もしない場合より早く店の存在を知ってもらうことができます。
広告費を増やせば、より多くの人に店を見てもらうこともできます。
つまり、新規客との接点はお金で増やせます。
しかし、広告費をいくら使っても、その日に常連客を100人作ることはできません。
なぜなら、常連客になるためには来店という工程が必要だからです。
初めて店を知る。
一度利用する。
もう一度利用する。
別の商品を試す。
家族や友人を連れてくる。
何度か利用するうちに、
「この店なら安心できる」
「今日はあそこに行こう」
と選択肢の中に店が入っていく。
ここまで来て、ようやく店とお客様の関係が強くなっていきます。
広告は、その最初の入口を作ることには強い。
しかし、入口から先は実際の店舗体験が中心になります。
料理がおいしかったか。
価格に納得できたか。
接客は気持ちよかったか。
店内は清潔だったか。
注文から提供までストレスがなかったか。
もう一度来る理由があったか。
こうした一つひとつの体験が、次回来店の判断につながります。
だから集客を考えるとき、新規客の人数だけを見ていると店の成長を読み違えることがあります。
たとえば広告によって毎月500人の新規客を獲得できたとしても、そのほとんどが一度しか来店しないのであれば、翌月もまた500人を集め続けなければなりません。
反対に、その中から2回目、3回目と利用する人が増えていけば、新規客として獲得した一人が将来の売上にもつながっていきます。
この違いは大きい。
広告で作っているのは、その日の売上だけではありません。
本来は、
「店との関係が始まるきっかけ」
を作っています。
そして、そのきっかけを将来の売上へ変えていく仕事は、店側にあります。
ここで面白いのが、常連客はお金だけでは一気に増やせないということです。
広告予算を2倍にすれば、広告の表示回数や接点を増やせる可能性はあります。
しかし、お客様の来店回数を明日いきなり5倍にすることはできません。
一回来店した人には、次に店を選ぶ機会が来るまでの間があります。
その次にも、また選んでもらう必要があります。
常連客とは、一回の販売によって作られるものではなく、複数回の選択によって作られる顧客関係だからです。
これは口コミやブランドにも共通する部分があります。
「この店は良い店だ」
という評価は、店側が宣言したから完成するものではありません。
実際に利用した人の体験が積み重なり、その評価が他の人へ伝わり、地域の中で少しずつ認識されていきます。
もちろん、お金を使ってその速度を上げることはできます。
広告で認知を広げる。
キャンペーンで来店のきっかけを増やす。
設備やサービスに投資して店舗体験を良くする。
できることはいくらでもあります。
ただし、
お金で速度を上げることと、必要な工程を消すことは別です。
ここを理解しておくことが重要です。
飲食店は、新規客を獲得した瞬間にそのお客様の価値が決まるわけではありません。
一度目の来店を二度目につなげる。
二度目を三度目につなげる。
その積み重ねによって、顧客との関係は強くなっていきます。
だから集客では、
「今月何人来たか」
だけではなく、
「今月来た人が、これから何人残っていくのか」
を見る。
広告費で買えるのは、最初のきっかけまで。
その先にある関係は、実際の店舗体験と、お客様から何度も選ばれることで作られていきます。
そして、その積み重ねには、
どうしても一定の時間が必要なのです。
第6章 黒字化しても財務はすぐには回復しない

経営改善が進み、ようやく会社が黒字になった。
これは大きな転換点です。
赤字だった事業が利益を生み始めたということは、少なくとも現在の事業構造は改善しています。
しかし、ここで一つ勘違いしてはいけません。
黒字になった日と、会社の財務が回復する日は同じではありません。
赤字経営が続いていた会社では、その期間に失ったものがあります。
預金を取り崩しているかもしれません。
仕入先への支払いを待ってもらっているかもしれません。
金融機関から借り入れをしているかもしれません。
税金や社会保険など、これから支払わなければならないものが残っている場合もあります。
設備投資の返済が続いている会社もあるでしょう。
黒字化とは、基本的には現在の経営で利益を生み出せる状態になったということです。
それ以前に積み上がった負担まで、その瞬間に消えるわけではありません。
ここを簡単な数字で考えてみます。
過去の赤字などによって、会社の資金が600万円減っていたとします。
経営改善によって、毎月50万円ずつ現金を増やせる状態になった。
600万円 ÷ 50万円=12か月。
単純計算なら、以前の資金水準まで戻すだけでも1年かかります。
その会社は赤字ではありません。
むしろ毎月きちんとキャッシュを生み出しています。
それでも、財務が十分に回復するまでには期間が必要です。
この状態を知らずに数字を見ると、
「毎月利益が出ているのに、なぜ会社にお金がないんだ」
という感覚になります。
しかし、お金が増えていないのではなく、
生み出したお金が過去の負担を埋めている途中
という場合があります。
これは会社が悪くなっている状態とは違います。
回復している途中です。
ただし、回復途中だから安心していいという意味でもありません。
問題は、その期間を乗り切れるかどうかです。
仮に財務が安定するまで12か月必要なのに、手元資金が極端に少なければ、その間に予想外の支出が発生しただけで資金繰りが苦しくなる可能性があります。
厨房機器が壊れる。
売上が一時的に落ちる。
仕入価格が上がる。
税金の支払いが来る。
賞与や修繕費など、大きな支出が重なる。
事業が利益を出していても、財務に余力が戻っていない期間は、こうした変化への耐久力がまだ弱い。
だから黒字化した後に見るべきなのは、
「今月も利益が出た」
だけではありません。
この利益を積み重ねれば、いつ財務に余力が戻るのか。
ここを見る必要があります。
そして、財務が回復する前に新たな投資をするのであれば、その判断も慎重になります。
利益が出始めたからといって、すぐに設備を増やす。
新店舗を出す。
固定費を増やす。
もちろん、それが正しい場合もあります。
しかし、まだ過去の負担を整理している途中なら、利益を次の投資に使うより、まず会社の体力を戻す方が優先される場合もあります。
黒字化はゴールではありません。
黒字化によって、ようやく会社は財務を回復させる力を持ったとも言えます。
そこから利益を積み上げ、現金を戻し、支払いに余裕を作り、予想外の出来事にも耐えられる状態へ近づいていく。
この過程には一定の期間が必要です。
だから経営者は、
「黒字になったか」だけではなく、「黒字になってから、あとどれくらいで財務が安定するのか」まで見ておく。
利益を出せる会社を作ること。
そして、その利益を積み上げる期間を確保すること。
この二つがそろって、初めて財務は本当の意味で回復していきます。
第7章 だから経営者は「時間を買う」

ここまで見てきたように、経営では結果が出るまで一定の期間を必要とする場面があります。
そこで経営者が行うのが、
「時間を買う」という判断です。
もちろん、時間そのものを購入できるわけではありません。
ここでいう「時間を買う」とは、
必要な結果が出るまでの余裕を作ったり、自分や会社が使える時間を増やしたりすること
です。
実は、経営者が普段行っている判断の中には、この考え方に当てはまるものがたくさんあります。
たとえば、仕入れの支払条件です。
商品を仕入れたその日に現金で支払う場合と、月末締め翌月末払いの場合では、会社からお金が出ていくタイミングが違います。
さらに翌々月払いなら、資金が会社に残っている期間は長くなります。
支払総額が同じでも、支払う日が違う。
この差によって、会社は資金を持っていられる期間を確保できます。
これは一つの「時間を買う」方法です。
金融機関からの借入も、見方を変えれば同じです。
借入をすると会社の利益が増えるわけではありません。
しかし、手元資金は増えます。
その資金によって、事業を続けながら改善に取り組める期間を確保できます。
だから借入を見るときには、
「いくら借りられるか」
だけではなく、
「その資金によって何か月の余裕を確保できるのか」
という見方もできます。
一方で、時間を買う方法は資金繰りだけではありません。
人を雇うこともそうです。
経営者が毎日2時間かけて行っている仕事をスタッフに任せられれば、月25日なら50時間が生まれます。
その50時間を使って、
商品を考える。
数字を分析する。
採用をする。
取引先を開拓する。
新しい事業を考える。
経営者にしかできない仕事へ振り向けることができます。
設備投資も同じ考え方ができます。
一つの作業に毎日30分かかっていたものが、機械を導入することで10分になった。
1日20分の短縮です。
年間300日なら6,000分。
約100時間になります。
設備を購入したというより、
年間100時間を購入した
と考えることもできます。
システムやAIも同じです。
発注。
予約管理。
勤怠管理。
売上集計。
資料作成。
文章作成。
データ分析。
こうした仕事に使っていた時間を減らすことができれば、人間が使える時間は増えます。
外注もそうでしょう。
税務を税理士に任せる。
労務を社労士に任せる。
デザインをデザイナーに任せる。
専門家に費用を払う理由は、専門知識を買うためだけではありません。
自分で調べ、覚え、作業するために必要だった時間を買っているとも考えられます。
こうして並べてみると、
支払条件を変えること。
借入をすること。
人を雇うこと。
設備を入れること。
システムを導入すること。
外注すること。
一見すると、まったく違う経営判断です。
しかし「時間」という視点から見ると、共通点があります。
経営者は、お金を使ったり条件を変えたりすることで、会社に必要な時間を作っています。
そして重要なのは、作った時間を何に使うかです。
1か月の支払猶予を作った。
毎月50時間の作業を減らした。
半年分の運転資金を確保した。
そこで終わりではありません。
その余裕を使って何を改善し、何を生み出すのか。
ここまで設計して初めて、「時間を買う」という判断に意味が生まれます。
経営者がお金を使うとき、
「これはいくら得するのか」
という見方だけではなく、
「これは、どれだけの時間を生み出すのか」
という視点を持ってみる。
すると、今までコストにしか見えなかった支出が投資に見えることもあれば、逆に価値があると思っていた支出が、それほど時間を生んでいないことに気づく場合もあります。
経営者が買っているものは、商品や設備やサービスだけではありません。
その先にある、
会社が次の結果を出すための「時間」も買っているのです。
第8章 すべての時間を買えばいいわけではない

前章では、経営者がお金を使うことで時間を作れることについて書きました。
では、時間を作れるなら積極的にお金を使えばいいのでしょうか。
当然、そう単純ではありません。
時間にも「高い時間」と「安い時間」があるからです。
たとえば、ある作業を外注するとします。
自分でやれば毎月10時間かかる仕事を、月5万円で外注できる。
この場合、
5万円 ÷ 10時間 = 5,000円。
つまり、1時間あたり5,000円で自分の時間を取り戻していると考えることができます。
問題は、その取り戻した10時間で何をするのかです。
経営者にしかできない営業活動に使い、10万円、20万円の利益を生み出せるのであれば、5万円の外注費には十分な意味があるでしょう。
逆に、空いた10時間が何にも使われないのであれば、単純に毎月5万円の経費が増えただけになる可能性があります。
人を雇う場合も同じです。
月30万円の人件費を増やした結果、経営者の仕事が大幅に減った。
それ自体は悪いことではありません。
しかし、その人を採用したことで会社全体の生産性がどれだけ変わったのかは確認する必要があります。
経営者の時間が空いた。
店舗の処理能力が上がった。
売上機会の損失が減った。
新しい仕事を受けられるようになった。
既存スタッフの残業が減った。
こうした効果まで含めて考えることで、30万円の意味が見えてきます。
設備投資でも同様です。
100万円の設備を導入して、毎月20時間の作業を削減できたとします。
年間では240時間です。
その設備を5年間使うなら、単純計算で1,200時間。
100万円 ÷ 1,200時間なら、1時間あたり約833円で時間を作っていることになります。
もちろん実際には電気代、保守費用、修理費なども考慮する必要がありますが、こうして考えると設備投資の見え方は変わります。
「100万円は高い」
ではなく、
「100万円で何時間を生み出せるのか」
という判断ができるようになるからです。
一方、借入などによって会社に猶予を作る場合には、別の考え方が必要です。
借りたお金には返済があります。
利息も発生します。
そこで確保した期間の中で事業構造が何も変わらなければ、問題を先送りしただけになることがあります。
6か月の余裕を作ったなら、その6か月で何を変えるのか。
売上をどこまで伸ばすのか。
粗利をどこまで改善するのか。
固定費をどう見直すのか。
毎月のキャッシュフローをどこまで改善するのか。
そこまで決めておかなければ、6か月後に同じ問題が再び現れます。
つまり、
時間を買うこと自体には価値はありません。
価値を決めるのは、その時間によって会社がどう変わったかです。
これは経営者自身の時間についても同じです。
忙しいから人を増やす。
面倒だから外注する。
新しいからシステムを導入する。
それだけでは、経営判断として十分ではありません。
その支出によって生まれる時間を計算し、その時間の使い道まで考える。
そうすれば、
「この外注は高いのか」
「この採用は必要なのか」
「この設備投資は得なのか」
という判断を、単純な支出額だけではなく別の角度から見ることができます。
経営では、お金を節約するために自分の時間を大量に使っているケースもあります。
逆に、少しお金を使えば大きな時間を取り戻せる仕事もあります。
だから、
安いから自分でやる。
高いから外注しない。
という判断だけではなく、
「その仕事に、自分や会社の時間を使う価値があるのか」
まで考える。
時間を買う経営で重要なのは、たくさん買うことではありません。
必要な時間を、合理的な価格で買い、その時間をより価値の高い仕事へ移すこと。
そこまでできて、初めて「時間を買う」という考え方が経営に生きてきます。
第9章 経営には「縮める時間」「待つ時間」「買う時間」がある

ここまで「時間」という視点から経営を見てきました。
では実際に経営者が何かの問題に直面したとき、その時間をどう扱えばいいのでしょうか。
私は、大きく三つに分けて考えると整理しやすいと思っています。
「縮める時間」
「待つ時間」
「買う時間」
です。
この三つは似ているようで、経営者が取るべき行動はまったく違います。
縮める時間
一つ目は、工夫によって短縮できる時間です。
たとえば、毎日の集計作業に1時間かかっている。
料理の提供に15分かかっている。
発注作業に毎日30分かかっている。
会議に毎週2時間使っている。
こうした時間には、改善できる余地があります。
作業手順を変える。
不要な工程をなくす。
役割分担を見直す。
システムを使う。
そもそも、その仕事自体をやめる。
重要なのは、
「昔からこうしているから」という理由だけで時間を使い続けないことです。
10分短縮できる仕事が1日に20回あるなら、1日200分。
年間で考えれば、かなり大きな差になります。
小さな時間の改善でも、繰り返し発生する仕事ほど効果は大きくなります。
だから「縮める時間」は、積極的に改善対象にしていきます。
待つ時間
二つ目は、無理に短縮しようとしない方がいい時間です。
人が経験を積む。
お客様との関係が深まる。
新しい取り組みの評価が定着する。
こうしたものには、一定の過程があります。
ここで焦ると、本来必要だった積み重ねを壊してしまうことがあります。
たとえば、新しい施策を始めて数日しか経っていないのに、
「結果が出ない」
と判断して内容を変える。
さらに一週間後には、また別の施策を始める。
これを繰り返していると、どの施策が良かったのかさえ分からなくなります。
待つというのは、何もしないことではありません。
状況を確認しながら、
必要な工程が進んでいるなら、途中で壊さない。
これも経営判断です。
経営者は行動することを求められる立場だからこそ、あえて動かない判断が難しいことがあります。
しかし、時間の経過そのものが必要な場面では、待つことにも意味があります。
買う時間
そして三つ目が、外部の力を使って確保する時間です。
自社だけでは必要な速度を作れない。
経営者自身の時間が足りない。
今の状態では、結果が出るところまで持たない。
そういう場面では、何らかのコストを負担して余裕を作るという選択肢があります。
ここで見るべきなのは、
「時間を買う必要がある状態なのか」
ということです。
縮められる仕事なら、まず改善すればいい。
待つべきものなら、焦ってお金を使う必要はありません。
それでも不足する時間があるなら、そこで初めて買うという判断が出てきます。
この順番を整理しておかないと、経営判断がおかしくなります。
本当は作業改善で解決できる問題なのに、人を増やしてしまう。
本当は一定期間を見るべき施策なのに、広告費を追加し続ける。
反対に、本来なら外部の力を使うべき仕事を、経営者がすべて抱え込んでしまう。
同じ「時間が足りない」という問題でも、答えは一つではありません。
だから経営者は、時間が足りないと感じたとき、
まず考える。
これは縮める時間なのか。
次に、
これは待つ時間なのか。
そして、
これは買う時間なのか。
この三つに分けてみる。
時間はすべて同じように扱うものではありません。
急いだ方がいいものもあれば、急いではいけないものもあります。
お金を使った方が合理的なものもあります。
その違いを見極めることが、時間を経営するということです。
経営者に必要なのは、何でも速くすることではありません。
速くするべきものを速くし、待つべきものを待ち、必要なところでは時間を買う。
この使い分けができると、時間は単なる制約ではなく、経営判断の材料になっていきます。
第10章 一番危険なのは「時間切れ」

経営では、間違ったことをして失敗するとは限りません。
方向は合っている。
売上も伸び始めている。
利益率も改善している。
お客様の評価も上がっている。
それでも、事業が続けられなくなることがあります。
結果が出るより先に、会社の余力がなくなってしまうからです。
これが経営における「時間切れ」です。
たとえば、新しい事業を始めたとします。
計画では、損益分岐点を超えるまであと6か月必要。
数字を見ても、少しずつ計画に近づいている。
このまま改善を続ければ、十分に黒字化できる可能性がある。
ところが、現在の手元資金では3か月しか持たない。
この場合、事業の問題は「黒字化できるかどうか」だけではありません。
黒字化する日まで会社がたどり着けるか。
こちらの方が先に問題になります。
極端に言えば、
5か月後に成功する事業でも、3か月後に資金が尽きれば失敗です。
逆に、同じ事業でも6か月分の余力があれば、結果は変わるかもしれません。
この差は、商品力でも集客力でもありません。
残された時間の差です。
これは飲食店だけの話ではありません。
新商品の開発。
新規事業。
ECサイト。
YouTubeやSNS。
採用活動。
営業組織の立ち上げ。
新しい取り組みの多くは、始めてすぐに十分な成果が出るとは限りません。
だから事業を評価するときには、
「うまくいきそうか」
だけでは足りません。
もう一つ確認する必要があります。
「うまくいくところまで持つのか」
です。
ここを見ないまま事業を続けると、経営者は途中で選択肢を失っていきます。
資金に余裕があるうちは、
広告を増やす。
商品を修正する。
人員配置を変える。
営業時間を見直す。
専門家に相談する。
撤退する。
さまざまな選択ができます。
しかし余力がなくなるにつれて、その選択肢は減っていきます。
最後には、
「今月の支払いをどうするか」
という目の前の問題だけで経営判断をしなければならなくなる。
ここまで来ると、経営者が未来のために使える時間まで奪われます。
だから私は、経営における余力には大きな価値があると考えています。
余力があれば、考えることができます。
修正できます。
失敗した施策をやめることもできます。
次の手を試すこともできます。
場合によっては、条件の良いうちに撤退することさえできます。
つまり余力とは、
経営者が選択できる期間
でもあるのです。
だから事業計画を見るとき、
「成功したらいくら儲かるか」
という未来だけを見ない。
そこへ到達するまでに必要な期間と、現在持っている余力を並べて見る。
必要な期間が12か月。
会社が持つのは18か月。
それなら一定の試行錯誤ができます。
必要な期間が12か月。
会社が持つのは4か月。
それなら、同じ計画をそのまま続けること自体を考え直さなければなりません。
経営では、正しい方向へ進んでいることは重要です。
しかし、それと同じくらい、
目的地までたどり着けるだけの時間を持っていること
も重要です。
良い商品がある。
お客様から評価されている。
利益が出る可能性も見えている。
それでも時間切れになれば、そこで事業は止まります。
だから経営者が本当に避けなければならないのは、失敗だけではありません。
成功する前に、時間を使い切ってしまうことです。
第11章 経営計画には「金額」と一緒に時間を書く

事業計画を作るとき、多くの数字を設定します。
月商。
客数。
客単価。
原価率。
人件費率。
営業利益。
必要資金。
借入額。
こうした数字は、経営判断に欠かせません。
しかし、数字だけを並べても計画は完成しません。
そこに、
「いつまでに」
を加える必要があります。
たとえば、
「月商500万円を目指す」
という目標があったとします。
これだけでは、3か月後に500万円を目指しているのか、3年後なのか分かりません。
当然、その二つでは今日やるべきことも変わります。
そこで、
12か月後に月商500万円
と設定する。
すると、現在の月商が400万円なら、12か月で100万円を積み上げる計画になります。
ここから初めて、
どの時間帯を伸ばすのか。
客数を何人増やすのか。
客単価をどこまで上げるのか。
どの施策をいつ実行するのか。
という行動計画へ落とし込めます。
経営計画を書くときには、主要な目標に期限を付けてみます。
たとえば、
損益分岐点到達 6か月
月商500万円到達 12か月
営業利益率10%到達 18か月
初期投資回収 36か月
次店舗出店 36か月
という形です。
こうして並べると、目標同士の関係も見えてきます。
月商500万円になれば、どれくらい利益が残るのか。
その利益なら投資回収は予定通り進むのか。
次店舗を出す時点で、自己資金はいくら残っているのか。
それぞれを別々の目標として見るのではなく、一つの時間軸の上に並べることができます。
ここまでできれば、年間計画も作りやすくなります。
1〜3か月目は何をするのか。
4〜6か月目は何を達成するのか。
半年後にどの数字になっていれば順調なのか。
1年後には、会社がどの状態になっているのか。
ゴールだけではなく、途中の通過点を作るわけです。
私は、この「通過点」が非常に重要だと考えています。
たとえば1年後の目標だけを設定すると、半年経った時点で順調なのかどうか判断しにくい。
しかし、
3か月後。
6か月後。
9か月後。
12か月後。
と途中の数字を置いておけば、計画との差が早い段階で分かります。
予定より売上の伸びが遅い。
利益率の改善が早い。
客数は増えたが客単価が下がった。
採用が予定より遅れている。
こうしたズレを確認しながら、その都度計画を修正できます。
経営計画とは、一度作った未来予想図を守り続けるものではありません。
現在地を確認するための地図です。
実際の経営が計画と違えば、数字を見ながらルートを修正すればいい。
そのためには、
「どこへ行くのか」
だけではなく、
「いつ、どこを通る予定なのか」
まで書かれている必要があります。
そして、もう一つ加えておきたい数字があります。
それが、
「その計画を実行できる期間」
です。
目標達成まで12か月必要なら、その12か月を走れる資金、人員、設備、体制があるのか。
ここまで確認して、計画の現実性を見る。
目標だけなら、いくらでも大きくできます。
月商1,000万円。
10店舗展開。
年商10億円。
しかし経営計画で重要なのは、目標の大きさではありません。
現在地から、そこまでどうやって到達するのかを説明できることです。
だから経営計画には、
「いくら」を書く。
「いつまでに」を書く。
そして「そこまで持つのか」を確認する。
この三つをセットにする。
売上や利益だけだった経営計画に時間軸を入れると、単なる目標が「実行できる計画」へ変わっていきます。
最終章 経営者が管理するのは「金」だけではない

経営をしていると、どうしてもお金に目が向きます。
今日の売上はいくらだったのか。
今月はいくら利益が残るのか。
銀行にはいくらあるのか。
来月はいくら支払うのか。
もちろん、どれも重要な数字です。
しかし会社は、お金だけで動いているわけではありません。
経営には必ず「時間」が流れています。
今日決めたことが、明日すべて結果になるわけではない。
今月始めたことが、来月完成するとも限らない。
だから経営者は、現在の数字だけを見て判断するのではなく、その数字がこれからどう変化していくのかまで考えなければなりません。
ここで重要になるのが、
「あと、どれくらいかかるのか」
という視点です。
この問いを持つだけで、経営の見え方は変わります。
売上が伸びていない。
だから失敗。
利益が出た。
だから成功。
そんな一時点だけの判断ではなく、その事業が今どの地点にいて、どこへ向かっているのかを見ることができます。
そして経営者には、もう一つ仕事があります。
未来にたどり着くまでの道を途切れさせないことです。
事業には、自分たちの努力で速くできるものがあります。
一定の経過を受け入れた方がいいものもあります。
必要なら、お金を使って余裕を確保する場面もあります。
大切なのは、何でも急ぐことでも、何でも待つことでもありません。
その事業に必要な時間を見極めることです。
私は、経営における「余裕」とは単なるぜいたくではないと思っています。
余裕があれば、選べます。
考えることができます。
修正することができます。
新しいことを試すこともできます。
反対に余裕がなくなれば、経営者の判断は目の前の問題へ集中していきます。
来週の支払い。
今日の人員。
今月の売上。
それらに追われ続ければ、本来考えるべき半年後、一年後、三年後について考えることが難しくなります。
だから経営者が本当に確保したいものは、単なる暇ではありません。
次の一手を選べる余白です。
その余白を作るために、お金を残す。
仕組みを作る。
人に任せる。
必要な投資をする。
そして、会社が進む速度を見ながら次の判断をする。
売上を作ることも経営です。
利益を残すことも経営です。
キャッシュを守ることも経営です。
そして、
未来へ到達するために必要な時間を確保することも、経営です。
未来が予定通りになる保証はありません。
経営者にも、未来を正確に当てることはできません。
だからこそ、予測が外れたときに修正できる余白を持っておく。
その余白が残っている限り、経営者にはまだ次の手があります。
経営者の仕事とは、未来を当てることではありません。
未来にたどり着くまでの時間を設計することです。
この記事を書いた人 Wrote this article
新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性
RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。