飲食店はなぜ、売上が落ちるほど「お客様目線」を失うのか

Restaurant Business Reform または 飲食店経営改善ブログ

飲食店はなぜ、売上が落ちるほど「お客様目線」を失うのか
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第1章 売上が落ちると、経営者が見ている景色が変わる

飲食店を経営していると、売上によって経営者が見ている景色そのものが変わることがあります。

売上が順調なときは、比較的前向きに店を見ることができます。

「もっとお客様に喜んでもらうには?」

「次はどんな商品を作ろう?」

「店をもっと良くするには?」

「新しいサービスを始めてみようか?」

こうした発想が自然に出てきます。

なぜなら、経営者の頭の中に考える余白があるからです。

ところが、売上が落ち始めると状況は変わります。

月末の給料はいくら必要なのか。

家賃の引き落としはいつなのか。

仕入れ先への支払いはいくらあるのか。

借入金の返済日はいつなのか。

そして、銀行口座には今いくら残っているのか。

店に立ってお客様を見ていても、頭の片隅にはずっと「支払い」があります。

これは飲食店経営者であれば、経験したことがある人も多いのではないでしょうか。

売上が十分にあるときの100万円と、資金繰りが苦しいときの100万円は、同じ100万円でも経営者にはまったく違って見えます。

後者では、

売上が「お客様からの評価」ではなく、「今月の支払いを乗り越えるための数字」に変わっていく。

ここが非常に重要です。

本来、飲食店の売上はお客様の行動の結果です。

来店してもらう。

商品を選んでもらう。

追加注文してもらう。

また来てもらう。

その一つひとつが積み重なって、最終的に売上という数字になります。

ところが資金繰りが苦しくなると、その順番を考える余裕がなくなってきます。

「あと50万円足りない」

「今週20万円作らないと厳しい」

「今日10万円は欲しい」

経営者の視線が、お客様の行動よりも必要な売上金額へ向かっていきます。

すると、店を見る基準も少しずつ変わります。

この商品をお客様はどう感じるだろう。

この価格なら満足してもらえるだろうか。

このサービスならまた来てもらえるだろうか。

そうした問いより先に、

「これをやったら、いくら売上になるだろう」

という問いが出てくるようになります。

もちろん、売上を考えること自体は経営者として当然です。

問題は、売上を作っているのはお客様だという視点まで薄れてしまうことです。

売上が苦しい。

だから売上を作りたい。

売上を作りたいから、施策を打つ。

この流れだけを見れば何も間違っていません。

しかし、その施策がお客様にとって魅力的なのかという確認が抜ければ、経営者の都合だけで店が動き始めます。

そして厄介なのは、経営者本人がその変化になかなか気づけないことです。

本人は店を守ろうとしている。

従業員の給料を払おうとしている。

仕入れ先への支払いを守ろうとしている。

だから必死に考えている。

その必死さゆえに、判断の中心が少しずつ「お客様」から「自分たちの都合」へ移っていく。

私は、売上が落ちている店を見るとき、数字だけではなくここも非常に重要だと考えています。

売上が落ちたから、お客様目線を失う。

そして、お客様目線を失った施策によって、さらに店が選ばれにくくなる。

こうして経営が苦しくなるほど、判断まで苦しくなる循環が生まれていきます。

だから売上が落ちたときほど、一度確認してほしいことがあります。

今、自分は何を見て店を経営しているのか。

お客様の顔なのか。

それとも、口座残高なのか。

資金繰りが苦しい以上、口座残高を見る必要は当然あります。

ただ、その数字を改善してくれるのは最終的にはお客様です。

経営が苦しいときほど、この当たり前の関係を見失わないこと。

ここが、店を立て直す最初の分岐点になります。

第2章 キャッシュがない店は「売上を落とす」という選択ができない

売上が落ちて資金繰りが苦しくなってくると、多くの経営者は利益を改善しようとします。

原価率が高い。

人件費が高い。

固定費が重い。

だから、経費を見直して利益を残そうとする。

これは当然の判断です。

ただ、ここには一つ大きな問題があります。

キャッシュがない店ほど、「一時的に売上が落ちるかもしれない改善」を選びにくい。

たとえば、原価率を改善するために値上げをするとします。

数字だけを見れば正しい。

1,000円の商品を1,100円にすれば、同じ原価なら原価率は下がります。

しかし、お客様がその価格をどう感じるかは別の話です。

値上げによって客数が減るかもしれない。

注文数が減るかもしれない。

来店頻度が落ちるかもしれない。

結果として、利益率は改善しても売上そのものが落ちる可能性があります。

量を減らす場合も同じです。

原価は下がります。

しかし、お客様から見れば、

「前より少なくなった」

「これなら高いな」

と感じるかもしれません。

仕入れ先を変えて原価を下げる方法もあります。

同じ品質を維持できれば問題ありません。

しかし、味や品質が落ちれば、お客様の満足度に影響します。

人件費もそうです。

人を一人減らせば、その分だけ人件費は下がります。

数字だけならすぐに効果が出ます。

しかし、料理提供が遅くなる。

片付けが追いつかなくなる。

接客が雑になる。

電話を取れなくなる。

店内の清掃まで手が回らなくなる。

そうなれば、人件費率は改善しても、お客様が感じる店の価値まで下がってしまう可能性があります。

営業時間の短縮も同じです。

売上の低い時間帯を削れば、人件費や光熱費は減ります。

しかし、その時間帯を利用していたお客様との接点も同時に失います。

つまり、飲食店の利益改善には常に、

「数字が改善すること」と「お客様がどう感じるか」

という二つの視点が必要になります。

そして資金に余裕がある店なら、多少の売上減少を覚悟してでも、中長期で利益構造を作り直すことができます。

一時的に客数が落ちても耐えられる。

新しい価格が浸透するまで待てる。

新しい商品を試して、失敗すれば修正できる。

人員配置を変更して、問題が出れば戻すこともできる。

つまり、キャッシュには「試す時間を買う」という役割もあります。

ところが、資金繰りがギリギリの店には、その時間がありません。

来月の家賃を払わなければならない。

給料も払わなければならない。

仕入れ代金も必要です。

だから、

「半年後には利益が出る」

では困る。

来月の売上が必要です。

場合によっては、来週の売上が必要です。

ここが、資金に余裕のある店とない店の大きな違いです。

キャッシュがない店ほど利益改善が必要なのに、利益改善によって売上が落ちるリスクを取れない。

ここに飲食店経営の難しさがあります。

だから私は、資金繰りが苦しい店ほど、

「原価率を下げよう」

「人件費率を下げよう」

という数字だけの改善には注意が必要だと考えています。

見るべきなのは、その改善によって何円コストが下がるかだけではありません。

その結果、お客様の利用理由が弱くならないか。

ここまでセットで考える必要があります。

たとえば月商300万円の店が、原価率を2%改善できれば6万円の改善です。

これはもちろん大きい。

しかし、その施策によって売上が300万円から280万円になればどうでしょう。

原価率だけを見れば改善していても、店全体の利益やキャッシュが悪化する可能性があります。

だから本当の経営課題は、

「利益率を改善すること」だけではありません。

売上を守りながら、利益率を改善することです。

値上げするなら、価格以上の価値をどう伝えるのか。

量を調整するなら、満足度をどこで補うのか。

仕入れを変えるなら、品質をどう維持するのか。

人員を減らすなら、サービスレベルをどう維持するのか。

営業時間を変えるなら、失う売上と削減できるコストをどう比較するのか。

すべて、お客様の行動まで考えて初めて経営判断になります。

そして、ここでも第1章で触れた問題につながってきます。

キャッシュが苦しくなるほど、経営者は数字を早く改善したくなる。

その結果、

「店にとって都合のいい改善」が、「お客様にとっても問題のない改善」に見えてしまうことがあります。

経営が苦しいときほど、この二つを分けて考える必要があります。

数字を改善する。

同時に、お客様がこの店を選ぶ理由を守る。

この両方を成立させる方法を探すことが、資金繰りが苦しい店に求められる本当の利益改善です。

第3章 だから経営は「どうやったら値上げに見えないか」を探すゲームになる

第2章で書いたように、キャッシュが苦しい店ほど売上を落とす余裕がありません。

しかし、原材料費は上がる。

人件費も上がる。

水道光熱費も上がる。

利益を確保するためには、どこかで価格を見直さなければならない。

そこで単純に、

「原価が上がったから100円値上げしよう」

と考える。

もちろん、それも一つの方法です。

ただ私は、ここでもう一段考える必要があると思っています。

どうすれば、1,000円の商品を1,100円にしても、お客様に「100円高くなった」とだけ感じさせずに済むのか。

ここからが経営です。

たとえば、盛り付けを変える。

器を変える。

商品名を変える。

付け合わせを見直す。

ソースを変える。

セット構成を変える。

提供方法を変える。

メニュー表での見せ方を変える。

同じ商品でも、こうした要素を組み合わせることで、お客様が感じる商品の価値は変わります。

つまり、

「1,000円の商品を1,100円にする」のではなく、「1,100円に見える商品へ作り直す」。

価格だけを変更すれば、お客様が見るのは100円の値上げです。

しかし商品そのものが変われば、

「前より良くなった」

「これなら1,100円でもいいな」

「ちょっと豪華になったな」

と感じてもらえる可能性があります。

ここで重要なのは、原価を100円増やして豪華にするという話ではありません。

100円値上げするために原価まで100円増えてしまえば、利益改善にならない。

だからこそ知恵が必要になります。

たとえば器を変えるだけなら、一度購入すれば繰り返し使えます。

盛り付けは、食材原価をほとんど変えずに改善できる場合があります。

商品名やメニュー写真、説明文も同じです。

ソースや薬味、付け合わせなら、数円から数十円の追加で商品の印象を大きく変えられることもあります。

原価を大きく増やさず、お客様が感じる価値を大きくする。

ここを考えることが商品設計です。

そして、これは値上げだけの話ではありません。

原価を下げるときも同じです。

たとえば、一皿から50円の原価を削減するとします。

50円分食材を減らして、そのまま50円分ショボくなった。

これでは、お客様から見てもコスト削減が分かります。

「前より小さくなったな」

「付け合わせが減ったな」

「なんか寂しくなったな」

そう思われれば、店としては50円を削減できても、商品の価値まで一緒に削ってしまっています。

だから経営者が考えるべきなのは、

50円原価を下げながら、以前より魅力的な商品にできないか。

ということです。

食材の組み合わせを変える。

原価の高い食材を少し減らして、原価の低い食材で彩りを加える。

皿を変える。

盛り付け方を変える。

高さを出す。

ソースの見せ方を変える。

付け合わせを変更する。

商品名を変える。

提供時の演出を変える。

探せば、できることはいくらでもあります。

もちろん、簡単ではありません。

むしろ簡単ではないからこそ、経営者が考える意味があります。

利益率は上げたい。

でも売上は落としたくない。

原価は下げたい。

でも商品価値は下げたくない。

人件費は抑えたい。

でもサービスレベルは落としたくない。

価格は上げたい。

でもお客様には以前以上に満足してもらいたい。

飲食店経営をしていると、こうした一見矛盾する条件が次々に出てきます。

どちらか一方だけなら、それほど難しくありません。

原価率だけを下げるなら、食材を減らせばいい。

人件費だけを下げるなら、人を減らせばいい。

客単価だけを上げるなら、価格を上げればいい。

しかし、それによって売上や顧客満足まで落ちたら意味がありません。

経営とは、

一つの数字だけを良くする仕事ではありません。

矛盾する条件を、できる限り同時に成立させる仕事です。

だから経営者は血眼になって探します。

原価を下げながら、もっと良く見せる方法はないか。

人件費を抑えながら、もっと便利にできないか。

価格を上げながら、もっと満足してもらえないか。

売上を守りながら、もっと利益を残せないか。

その答えは、店によって違います。

だからこそ、他店の成功事例をそのまま持ってきても、必ずしもうまくいくとは限りません。

自分の店の商品、自分の店のお客様、自分の店の数字を見ながら、その店なりの答えを探していく。

私は、この作業こそが経営だと思っています。

「どうやったら値上げに見えないか」を考える。

言い換えれば、

「どうすれば価格以上に価値を感じてもらえるか」を考える。

価格を触る前に、商品を触る。

コストを削る前に、価値の見せ方を考える。

利益を追いながら、お客様の満足も追う。

この矛盾を解くために知恵を絞ることが、飲食店経営の面白さであり、難しさでもあります。

第4章 経営者にとっての改善が、お客様には改悪かもしれない

ここまで、経営者側から店を見てきました。

原価が上がる。

人件費が上がる。

利益が減る。

キャッシュが苦しくなる。

だから、数字を改善するために様々な施策を打つ。

では今度は、同じ店をお客様側から見てみましょう。

お客様は、その店の原価率を知りません。

人件費率も知りません。

家賃も知りません。

借入金の返済額も知りません。

今月いくらキャッシュが足りないのかも知りません。

当然です。

お客様は経営者ではありません。

だから、お客様が見ているのは非常にシンプルです。

「この店に払う金額に対して、自分はどれだけの価値を受け取れるのか。」

基本的にはこれです。

たとえば、人件費を削ったとします。

経営者から見れば、人件費率が改善します。

月に20万円削減できた。

生産性も上がった。

数字だけを見れば、立派な改善です。

しかし、その結果としてホールスタッフが足りなくなったらどうでしょう。

注文を取りに来るのが遅い。

料理がなかなか出てこない。

空いた皿がいつまでも残っている。

呼んでもスタッフが来ない。

レジで待たされる。

お客様からすれば、

「前よりサービスが悪くなった店」

です。

人件費率が何%改善したかは関係ありません。

原価を削った場合も同じです。

食材を変更する。

量を減らす。

付け合わせを減らす。

経営者から見れば、原価率が1%、2%改善するかもしれません。

ところがお客様から見れば、

「前より小さくなったな」

「前より寂しくなったな」

「前の方がおいしかったな」

となる可能性があります。

店側の資料には、

「原価改善」

と書かれている。

お客様の頭の中には、

「前より悪くなった」

と残っている。

まったく同じ施策を見ているのに、評価が逆になることがあります。

営業時間の短縮もそうです。

売上の弱い時間帯を削る。

アイドルタイムを閉める。

閉店時間を1時間早める。

経営者からすれば、人件費や光熱費を抑えられる合理的な判断です。

しかし、その時間に利用していたお客様からすると、

「行きたい時間に開いていない店」

になります。

無料サービスを終了する場合もあります。

無料だったものを有料にする。

おかわり自由をやめる。

サービス品をなくす。

経営者側には当然、理由があります。

原価が上がった。

利用量が増えた。

利益が残らなくなった。

オペレーションが大変になった。

しかし、お客様が受け取る情報はもっと単純です。

「前は付いていたものが、なくなった。」

それだけです。

ここに、経営改善の怖さがあります。

経営者は毎日数字を見ています。

だから、

「これで原価率が改善した」

「これで人時売上高が上がった」

「これで固定費を削減できた」

と考えます。

一方、お客様はそんな数字を見ていません。

料理を食べる。

店員の接客を受ける。

店内で時間を過ごす。

会計をする。

そして、

「この店、前と比べてどうだったか」

を感じています。

経営者にとっては、

原価改善。
人件費改善。
生産性改善。

しかし、お客様にとっては、

料理が小さくなった。
待ち時間が長くなった。
サービスが減った。
使いにくくなった。

そして最終的に、

「以前より価値の低い店になった」

と判断されるかもしれません。

これが続くと、数字にも少しずつ表れてきます。

来店頻度が落ちる。

追加注文が減る。

再来店しなくなる。

口コミ評価が下がる。

そして売上が落ちる。

そこで経営者は、さらに数字を改善しようとする。

もう少し原価を削る。

もう少し人件費を削る。

もう少し営業時間を削る。

こうなると、非常に危険です。

利益を守るために行った改善が、お客様から見た店の価値を削り、その結果として売上をさらに弱くする。

経営者が数字を見て一生懸命改善しているのに、店は少しずつ弱くなっていく。

こういうことは実際に起こります。

だから何かを改善するときには、二つの方向から見る必要があります。

経営者から見て、この施策はどうなのか。

そして、

お客様から見て、この施策はどうなのか。

この二つの答えが一致しているなら、かなり良い改善です。

コストが下がった。

しかも、お客様は以前と変わらない。

あるいは以前より便利になった。

以前より魅力的になった。

そこまでできれば、本当の意味で店は強くなります。

反対に、

経営者側の数字だけが良くなって、お客様が受け取る価値が下がっているなら、一度立ち止まって考える必要があります。

それは本当に「改善」なのか。

経営者が改善と呼んでいるものを、お客様も改善だと感じているとは限りません。

同じ施策でも、立つ場所が変われば意味が変わる。

だからこそ飲食店経営では、数字を見る目と同じくらい、お客様側から自分の店を見る目が必要になります。

第5章 お客様は「改悪されました」と教えてくれない

経営者にとっての改善が、お客様にとっての改悪になっている。

もし、その瞬間にお客様が教えてくれるのであれば、まだ修正できます。

「前より量が少なくなりましたよ」

「最近、料理が出てくるの遅くなりましたね」

「このサービスがなくなったのは残念です」

「この値段なら前の方が良かったです」

こう言ってもらえれば、経営者も気づくことができます。

ところが実際には、多くのお客様は何も言いません。

小鉢を一品減らしたとしても、

「小鉢が減ったので、来月から来店頻度を月3回から月2回にします」

とは言いません。

スタッフを減らして提供時間が8分長くなったとしても、

「待ち時間が長くなったので、次から別の店を利用します」

とは言いません。

値上げした商品に以前ほどの価値を感じなくなっても、

「価格に対する満足度が下がったので、今後の利用を控えます」

と報告してくれるわけでもありません。

ほとんどの場合、お客様はもっと静かに行動を変えます。

なんとなく以前ほど満足しなくなる。

なんとなく店へ行く回数が減る。

なんとなく別の店も選ぶようになる。

そして、いつの間にか来なくなる。

ここが飲食店経営の非常に難しいところです。

お客様の不満は、必ずしもクレームとして表面化するわけではありません。

むしろ経営者として本当に怖いのは、何も言わずに利用頻度を下げるお客様です。

クレームを言ってくれるお客様なら、まだ問題を知ることができます。

何が嫌だったのか。

どこを改善すればいいのか。

少なくともヒントがあります。

しかし、何も言わずに来なくなったお客様からは、その情報すらありません。

店側には理由が分からない。

そして数週間、数か月経ってから数字だけが変わります。

客数が少し減った。

常連さんを最近見なくなった。

平日の売上が弱くなった。

夜の入りが悪くなった。

前年より売上が落ちた。

そこで初めて、

「最近、客が減ったな」

と気づきます。

しかし、その原因がどこにあるのかは簡単には分かりません。

景気が悪いのか。

季節要因なのか。

近くに競合店ができたからなのか。

値上げの影響なのか。

料理なのか。

接客なのか。

営業時間なのか。

以前行ったコスト削減なのか。

原因候補はいくらでもあります。

しかも、お客様の行動は一つの理由だけで決まるとは限りません。

小鉢が一品減ったから、翌日から突然来なくなるとは限らない。

100円値上げしたから、その瞬間に全員が離れるわけでもない。

料理の提供が少し遅くなった。

量が少し減った。

値段が少し上がった。

無料サービスがなくなった。

スタッフが忙しそうで声をかけにくくなった。

一つひとつは、「これくらいなら大丈夫だろう」と思える程度の変化かもしれません。

しかし、お客様の中ではそれらが少しずつ積み重なります。

そしてある日、

「前ほど、この店じゃなくてもいいかな」

という感覚になる。

私は、この状態が非常に怖いと思っています。

「嫌いになった」ではありません。

「二度と行かない」でもありません。

ただ、選ばれる理由が少し弱くなった。

飲食店にはたくさんの競合があります。

昨日まで月4回来ていたお客様が月3回になる。

月3回来ていたお客様が月2回になる。

月1回来ていたお客様が2か月に1回になる。

一人ひとりの変化は小さくても、それが何十人、何百人と積み重なれば売上には大きく影響します。

それでも経営者には、

「小鉢を減らしたから客数が3%落ちました」

という答えは届きません。

届くのは、

売上が落ちたという結果だけです。

だから経営判断は難しい。

店側は数字を改善するために様々な変更をします。

しかし、その変更をお客様がどう評価したのかは、すぐには数字に表れないことがあります。

しかも、悪影響が表れた頃には、変更した本人でさえその施策との関係を忘れているかもしれません。

「最近なぜか売上が弱い」

そう感じている店ほど、一度振り返ってみる必要があります。

数か月前から何を変えたのか。

価格を変えなかったか。

量を変えなかったか。

食材を変えなかったか。

人員配置を変えなかったか。

営業時間を変えなかったか。

無料サービスをなくさなかったか。

メニューを減らさなかったか。

一つひとつは合理的な経営判断だったかもしれません。

しかし、その判断をお客様側から見たときに何が変わったのか。

ここまで振り返る必要があります。

お客様は経営会議に参加してくれません。

改善案に意見もくれません。

そして多くの場合、

「あなたの店の価値が少し下がったので、利用頻度を落とします」

とも教えてくれません。

ただ静かに、行動を変えます。

そして最後に経営者の手元へ届くのが、

「最近、客が減った」

という数字です。

だから飲食店経営では、売上が落ちてから理由を探すだけでは遅いことがあります。

店側が何かを変えたときに、

お客様から見て、この店はどう変わったのか。

そこまで想像し続けることが、お客様目線を失わないために必要なのです。

第6章 こうして店は「もっと削らなければ」と考え始める

ここまでの話をつなげると、売上が落ちている飲食店で起こりやすい一つの流れが見えてきます。

最初は、単純な売上低下です。

前年より売上が落ちた。

客数が減った。

平日が弱くなった。

夜営業が伸びなくなった。

すると当然、店に残るキャッシュも減っていきます。

支払いが苦しくなる。

口座残高が減る。

資金繰りに余裕がなくなる。

経営者は焦ります。

そして、すぐに動かせる数字を探し始めます。

原価。

人件費。

営業時間。

サービス。

仕入れ。

販促費。

こうした項目を見ながら、

「どこを削れるだろう」

と考え始める。

ここから悪循環が始まることがあります。

売上低下

キャッシュ不足

焦り

コスト削減

顧客価値低下

客数・来店頻度低下

さらに売上低下

さらにコスト削減

非常に怖い流れです。

そして、この悪循環が厄介なのには理由があります。

一つひとつの判断だけを見れば、それなりに正しいからです。

売上が落ちた。

だから人件費を下げる。

当然の判断に見えます。

原材料費が上がった。

だから食材原価を見直す。

これも間違っているようには見えません。

売上の弱い時間帯がある。

だから営業時間を短縮する。

数字だけを見れば合理的です。

無料サービスの原価が高くなった。

だからサービスを終了する。

これにも理由があります。

つまり経営者本人には、

「店を悪くしている」という感覚がほとんどありません。

むしろ逆です。

店を守ろうとしている。

利益を残そうとしている。

支払いを乗り越えようとしている。

必死に経営改善をしているつもりです。

だからこそ、この悪循環から抜け出すのが難しい。

売上が300万円から280万円になった。

「売上が落ちたから、人件費をもう少し削ろう」

280万円から260万円になった。

「この売上では、この原価率は維持できない」

さらに原価を削る。

260万円から240万円になった。

「この時間帯は赤字だから閉めよう」

営業時間を短縮する。

その一つひとつには、ちゃんと理由があります。

そして経営者の中では、

「売上が落ちたから仕方なく削っている」

という認識になります。

しかし、ここで一度考える必要があります。

本当に、

売上が落ちたから削っているだけなのか。

もしかすると、

前に行った削減が、次の売上低下の一部を作っている可能性はないか。

ということです。

スタッフを減らした。

その結果、提供時間が長くなった。

お客様の満足度が少し落ちた。

来店頻度が少し下がった。

売上が落ちた。

そこで、さらにスタッフを減らした。

もしこうなっているなら、人件費削減は単なる「売上低下への対応」ではありません。

次の売上低下を作る原因の一つにもなっています。

原価削減でも同じことが起こります。

量を減らした。

付け合わせを減らした。

食材の品質を変えた。

一回の変更では、大きなクレームは起こらなかった。

だから経営者は、

「問題なかった」

と判断する。

しかし第5章で書いたように、お客様は必ずしも不満を伝えてくれません。

ただ少し満足度が下がり、少し来店頻度が下がる。

その変化が積み重なって数か月後に売上へ表れる。

すると経営者は、その原因を過去のコスト削減とは結びつけず、

「最近さらに売上が悪くなった。もっと削らないといけない」

と考えてしまう。

ここまで来ると、店はかなり危険な状態です。

削る。

売上が落ちる。

また削る。

さらに売上が落ちる。

そして最後には、

「これ以上、削れるものがない」

というところまで来ます。

人は最低限。

原価もギリギリ。

営業時間も短い。

広告費も使っていない。

サービスも減らした。

それでも売上は戻らない。

これが、飲食店経営で起こる袋小路の一つです。

問題はコスト削減そのものではありません。

無駄なコストは当然、削るべきです。

使われていない経費。

過剰な仕入れ。

意味のない作業。

効果のない販促。

非効率なオペレーション。

こうしたものは改善した方がいい。

重要なのは、

「何を削っているのか」

です。

店の無駄を削っているのか。

それとも、

お客様がその店を選ぶ理由まで一緒に削っているのか。

この二つは、まったく違います。

売上が苦しくなればなるほど、経営者は削減できる数字を探したくなります。

しかし、本当に見るべきなのは削減額だけではありません。

その削減によって、お客様から見た店の価値がどう変わるのか。

ここまで考えなければ、経営改善が次の売上低下を作る可能性があります。

そして最も怖いのは、それでも経営者本人には、

「売上が落ちたから仕方なくやっている」

と見えてしまうことです。

経営が苦しくなるほど、選択肢が減る。

選択肢が減るほど、目の前の数字を優先する。

目の前の数字を優先するほど、お客様を見る余裕がなくなる。

そして、お客様を見なくなるほど、さらに売上が弱くなる。

この袋小路に入る前に、どこかで流れを止めなければなりません。

第7章 苦しいときほど、自分の「感覚」を信用しすぎない

ここまで書いてきたような袋小路に入らないために、まず意識してほしいことがあります。

それは、

経営が苦しいときほど、自分の感覚だけで重要な判断をしないことです。

これは、経験や勘が必要ないという話ではありません。

飲食店を毎日運営している経営者だからこそ分かることは、たくさんあります。

「最近この商品が弱くなってきた」

「この時間帯のお客様が変わってきた」

「以前より注文のされ方が変わった」

こうした現場の感覚は、とても重要です。

ただし、キャッシュが苦しくなっているときは少し注意が必要です。

なぜなら、経営者自身が置かれている状況によって、同じ店でも見え方が変わるからです。

たとえば、ある日の夜営業が暇だった。

スタッフが3人いる。

お客様は少ない。

すると、

「今日こんなに暇なのに、3人も必要なのか?」

と思います。

資金繰りに余裕があれば、

「今日はたまたま暇だったな」

で終わるかもしれません。

しかし、キャッシュが苦しいと、

「人件費がもったいない」

「2人で回せるんじゃないか」

「一人減らそう」

という判断につながりやすくなります。

原価率も同じです。

ある商品の原価率を計算したら40%だった。

店全体の原価率を考えると高い。

すると、

「この商品は儲からない」

「値上げしよう」

「量を減らそう」

「メニューから外そう」

と考えたくなります。

しかし、その商品が集客商品かもしれません。

その商品を目当てに来店して、ドリンクや別の商品を追加注文しているお客様が多いかもしれません。

その商品がSNSや口コミで店を知る入口になっているかもしれません。

単品の原価率だけでは、その商品が店全体にどれだけ利益を生んでいるのかまでは分かりません。

営業時間も同じです。

14時から17時まで暇だから閉めよう。

その3時間だけを見れば合理的に感じます。

しかし、16時半に来て早めの夕食を取るお客様がいるかもしれない。

中途半端な時間でも利用できること自体が、店を選ぶ理由になっているかもしれない。

その時間帯に仕込みや清掃をしながら営業できているなら、単純に売上だけで判断できない場合もあります。

経営では、このようなことがいくらでもあります。

一日の売上だけでは分からない。

一商品の原価率だけでも分からない。

一時間の暇さだけでも分からない。

一部分だけを切り取れば、問題に見える。

しかし店全体で見ると、別の役割を持っていることがあります。

そして、キャッシュが苦しいときほど、この「一部分」が大きく見えます。

今日3万円しか売れなかった。

今月原価率が2%高い。

今この瞬間、スタッフが暇そうにしている。

目の前の問題が気になる。

これは当然です。

支払いが迫っている経営者に、

「長期的に考えましょう」

と言っても簡単ではありません。

来週の支払いがあるなら、来週までのキャッシュを考える必要があります。

だからこそ、

追い込まれているときの感覚ほど、短期的な問題へ引っ張られやすい

ということを、自分自身で知っておく必要があります。

私は、経営者が焦ることそのものが問題だとは思いません。

自分のお金を入れ、自分で借金を背負い、従業員の給料を払い、仕入れ先への支払いを抱えていれば、焦るのは当然です。

問題は、その焦りをそのまま経営判断に変えてしまうことです。

「今日暇だった」

と、

「この時間帯に人員は必要ない」

は別です。

「この商品の原価率が高い」

と、

「この商品は利益に貢献していない」

も別です。

「今月売上が悪い」

と、

「価格を上げるべき」

も別です。

最初の言葉は事実です。

その後に続く言葉は、解釈と判断です。

ここを混ぜないことが重要です。

まず事実を見る。

その事実が一時的なものなのか、継続しているものなのかを見る。

曜日別に見る。

時間帯別に見る。

商品別に見る。

客数を見る。

客単価を見る。

来店頻度を見る。

必要なら前年とも比較する。

そこまで確認してから、初めて判断する。

感覚は、

「何かがおかしい」と気づくためには非常に優秀です。

しかし、

「では何を変えるべきなのか」を決めるには、それだけでは足りないことがあります。

特に経営が苦しいときはそうです。

焦っている自分が見つけた問題だからこそ、一度数字で確認する。

今日感じた違和感を、1週間、1か月という単位でも確認してみる。

自分の仮説が正しいのかを確かめてから動く。

経営が順調なときには、多少判断を間違えても修正できます。

しかしキャッシュが少ない店では、一つの判断ミスが次の売上低下につながる可能性があります。

だから苦しいときほど、

「自分は今、事実を見ているのか。それとも焦りからそう見えているのか」

を確認する。

感覚を捨てる必要はありません。

感覚で異変を見つけ、数字で確かめる。

そして、お客様からどう見えるかまで考えてから決める。

この順番を持つだけでも、苦しいときの経営判断は大きく変わります。

第8章 経営には「型」がある。まずロジックに当てはめる

では、感覚だけで経営判断をしないとすれば、何を基準に考えればいいのでしょうか。

私はまず、経営のロジックに当てはめて考えることが大切だと思っています。

経営に絶対の正解はありません。

同じ施策をしても、立地が違えば結果は変わります。

客層が違えば結果も変わる。

店の規模、価格帯、商品、競合、スタッフの能力によっても変わります。

だから、

「これをやれば絶対に売上が上がる」

という万能な答えを探しても、なかなか見つかりません。

しかし、経営にはある程度のがあります。

たとえば、

「最近、売上が落ちた」

とします。

ここで、

「景気が悪いからかな」

「最近この辺、人が少ないからな」

「値上げした方がいいかな」

と感覚だけで考え始めると、いきなり選択肢が広がってしまいます。

だからまず、売上を分解します。

売上 = 客数 × 客単価

売上が落ちたのであれば、客数が落ちたのか。

客単価が落ちたのか。

あるいは両方なのか。

まずここを確認します。

客数が落ちているのであれば、さらに分解します。

客数 = 新規客 + 既存客

新しいお客様が減ったのか。

これまで来ていたお客様が減ったのか。

ここでは対策がまったく違います。

新規客が減っているなら、認知、検索、SNS、看板、口コミ、広告など、お客様が店を知って来店するまでの導線に問題があるかもしれません。

一方、既存客が減っているのであれば、店を知ってもらうことよりも、再来店に問題がある可能性があります。

さらに既存客について考えるなら、

既存客の売上は、顧客数と来店頻度に分けて考えることができます。

利用してくれているお客様そのものが減っているのか。

同じお客様は残っているけれど、月3回来ていた人が月2回になっているのか。

ここでも意味は変わります。

第5章で書いたような「なんとなく来店頻度が落ちる」という現象も、こうして数字を分解していけば見つけやすくなります。

客単価も同じです。

客単価 = 注文点数 × 平均商品単価

客単価が低いからといって、すぐ値上げする必要があるとは限りません。

平均商品単価は十分なのに、追加注文が少ないのかもしれない。

ドリンクが注文されていないのかもしれない。

デザートが弱いのかもしれない。

セット商品の設計に問題があるのかもしれない。

そうであれば、値上げ以外にも改善方法があります。

利益についても分解できます。

利益 = 売上 − 変動費 − 固定費

利益が少ない。

だから原価を削ろう。

だから人件費を削ろう。

そう考える前に、

どこに問題があるのかを確認する。

そもそも売上が足りないのか。

原価が高いのか。

人件費が高いのか。

家賃などの固定費が重いのか。

同じ「利益が少ない店」でも、原因によって打つべき手は変わります。

原価率が高い場合も、

「原価率が高いから仕入れを安くしよう」

だけではありません。

仕入価格。

一商品あたりの使用量。

廃棄量。

商品の販売構成。

販売価格。

そして、お客様が感じる付加価値。

いくつもの要素に分けて考えることができます。

仕入先を変更しなくても、廃棄を減らせば改善するかもしれない。

使用量を変えなくても、高原価商品と低原価商品の販売構成を変えれば店全体の原価率は変わるかもしれない。

第3章で書いたように、付加価値を高めることで販売価格を見直せる可能性もあります。

人件費も同じです。

「人件費率が高いから一人減らす」

では、まだ分析が足りません。

何曜日の人件費が高いのか。

何時から何時なのか。

その時間帯はいくら売れているのか。

何人配置しているのか。

投入している労働時間はいくらなのか。

一人あたり、あるいは一時間あたり、どれだけの売上を作れているのか。

そして、そのスタッフは何の仕事をしているのか。

ここまで分解していく。

もしかすると、人を減らす必要はないかもしれません。

注文方法を変える。

仕込み時間を変える。

動線を変える。

セルフサービスを取り入れる。

メニュー数を整理する。

作業そのものをなくす。

そうすることで、お客様へのサービスを落とさず生産性を上げられる可能性があります。

つまり、ロジックに当てはめる最大の意味は、

いきなり施策を決めないこと

にあります。

売上が落ちた。

だから広告を出す。

原価が高い。

だから量を減らす。

人件費が高い。

だから人を減らす。

客単価が低い。

だから値上げする。

こうした判断は、問題と施策の間が近すぎます。

間に分析を入れる。

売上が落ちた。

なぜ落ちたのか分解する。

どの数字が変化したのか確認する。

原因について仮説を立てる。

お客様への影響を考える。

施策を決める。

この順番を踏むだけで、経営判断はかなり変わります。

もちろん、ロジックに当てはめれば必ず正解が出るわけではありません。

数字では説明できないこともあります。

競合店の出店。

街の変化。

流行。

天候。

お客様の心理。

現場でしか分からない空気もあります。

そして、世の中には私たちがまだ知らない経営の考え方や、新しい方法もいくらでもあるでしょう。

だから私は、ロジックがすべてだとは思っていません。

それでも、ロジックを使う意味はあります。

正解を保証してくれなくても、大ケガする選択肢を減らすことはできるからです。

特にキャッシュが苦しい店ほど、一回の判断ミスが重くなります。

だからこそ、

感覚で異変を見つける。

ロジックで分解する。

数字で確認する。

お客様からどう見えるかを考える。

その上で施策を決める。

経営が苦しいときほど、この順番を崩さない。

それが、焦りによって自分の店をさらに苦しくしてしまわないための、一つの防波堤になります。

第9章 削るなら「お客様が価値を感じていないところ」から削る

ここまでの話を、実際の店舗運営に落としてみましょう。

利益を改善するためにコストを削る必要がある。

これは当然あります。

特にキャッシュが苦しい店では、

「何も削らずに頑張りましょう」

では経営になりません。

問題は、どこから削るのかです。

私はまず、店がお客様に提供している価値を分解して考えます。

たとえば、

商品。

ボリューム。

提供速度。

接客。

清潔感。

居心地。

利便性。

楽しさ。

安心感。

飲食店の価値は、料理だけで作られているわけではありません。

そして、お客様が何に価値を感じているのかも店によって違います。

とにかく安く、お腹いっぱい食べられることが価値の店もあります。

少し高くても、落ち着いて食事できることが価値の店もあります。

料理が出てくるスピードが重要な店もある。

スタッフとの会話を楽しみに来るお客様が多い店もある。

子どもを連れて安心して利用できることが選ばれる理由になっている店もあります。

つまり、コスト削減を考える前に、

「自分の店は、何に対してお金を払ってもらっているのか」

を理解しておく必要があります。

ここが分かっていない状態で削り始めると、非常に危険です。

たとえば、ボリュームが圧倒的な強みになっている店が原価改善のために量を減らしたらどうでしょう。

原価率は改善するかもしれません。

しかし、お客様がその店を選んでいた理由まで弱くなります。

提供速度が支持されている店で人員を減らし、料理が出てくるまでの時間が長くなれば、同じことが起こります。

子ども連れのお客様が多い店で、コスト削減のために子ども向けのサービスを減らせば、金額以上の価値を失う可能性があります。

だから何かを削ろうとしたとき、私は一度こう考えるべきだと思っています。

「これを削ったら、お客様から見た何が変わる?」

ここです。

たとえば、小鉢を一品なくす。

原価が30円下がる。

それだけならコスト削減です。

しかし、お客様から見たらどうでしょう。

定食の見た目が寂しくなるのか。

満腹感が下がるのか。

「いろいろ付いていてお得」という印象が弱くなるのか。

それとも、ほとんどのお客様が気にしていないのか。

ここまで考えて初めて、その30円を削るべきか判断できます。

人件費も同じです。

一人減らせば、一日8,000円削減できるとします。

では、その一人がいなくなったら何が変わるのか。

料理提供が5分遅くなるのか。

テーブルの片付けが遅れるのか。

電話を取れなくなるのか。

清掃が甘くなるのか。

それとも、オペレーションを組み替えればほとんど何も変わらないのか。

最後のケースなら、削減できる可能性があります。

つまり、

削っても、お客様が受け取る価値がほとんど変わらないところ。

まず探すべきなのはここです。

飲食店には、意外とこうしたコストがあります。

必要以上に多い仕込み。

使われていない食材。

過剰な在庫。

廃棄。

意味の薄い作業。

重複している作業。

ほとんど注文されないメニューのためだけに必要な食材。

効果を検証していない販促。

昔から続けているという理由だけで残っているサービス。

スタッフが毎日やっているけれど、お客様の価値にはほとんどつながっていない仕事。

こうした部分には改善の余地があります。

たとえば、毎日30分かかっている作業をなくしても、お客様が何も困らないのであれば、その30分は削減候補です。

10種類仕込んでいる食材のうち、ほとんど売れない商品にしか使わないものがあるなら、メニュー構成から見直せるかもしれません。

大量に仕込んで毎日廃棄しているのであれば、商品の量を減らす前に仕込み量を改善した方がいい。

お客様の皿から削る前に、厨房のゴミ箱から削る。

この順番は非常に重要です。

コスト削減というと、どうしても目につきやすいものから削りたくなります。

食材。

人数。

営業時間。

無料サービス。

しかし、目につきやすいコストほど、お客様が直接受け取っている価値とつながっている場合があります。

だから、まず店の価値を分解する。

何がお客様に選ばれているのか。

何が満足につながっているのか。

何が再来店につながっているのか。

そして、それぞれのコストがどの価値を支えているのかを見る。

そのうえで、

残すものと削るものを決める。

すべてのコストを守る必要はありません。

むしろ、価値を生んでいないコストは積極的に改善した方がいい。

そこで浮いたお金や時間を、お客様が本当に価値を感じている部分へ回すこともできます。

意味の薄い作業を減らして、接客する時間を増やす。

廃棄を減らして、商品の品質を守る。

売れないメニューを整理して、人気商品の提供速度を上げる。

こうなれば、コスト削減と顧客価値の向上を同時に進めることもできます。

第3章で書いた、

「矛盾する条件を同時に成立させる」

という考え方です。

削ること自体が目的ではありません。

目的は、利益を残せる店を作ることです。

そして、その利益を生み続けてくれるのはお客様です。

だから削減を考えるときほど、

「いくら削れるか」より先に、「これを削ったら、お客様から見た何が変わるのか」

を考える。

その問いを一つ挟むだけで、コスト削減の質は大きく変わります。

第10章 人を削る前に「売上を生んでいない仕事」を削る

コスト削減を考えたとき、多くの飲食店で大きな割合を占めるのが人件費です。

そのため、売上が落ちると、

「一人減らせないか」

「この時間帯は二人で回せないか」

「もっと少ない人数で営業できないか」

と考えます。

もちろん、売上に対して明らかに人員が多いのであれば、配置を見直す必要はあります。

ただ、その前に一つ確認してほしいことがあります。

その人を減らす前に、その人がやっている仕事を減らせないか。

ここです。

飲食店の現場を細かく見ていくと、スタッフは本当にたくさんの仕事をしています。

注文を取る。

料理を作る。

料理を運ぶ。

皿を下げる。

洗い物をする。

会計をする。

掃除をする。

仕込みをする。

発注する。

在庫を確認する。

電話に出る。

これらは営業に必要な仕事です。

しかし、その中に別の仕事も混ざっていることがあります。

同じ数字を二つのシステムへ入力している。

ほとんど使わない食材を毎日仕込んでいる。

売れないメニューのために複雑な仕込みをしている。

注文のたびに厨房とホールを何度も往復している。

必要以上に在庫を数えている。

誰も見ていない帳票を毎日作っている。

確認したものを、別の人がもう一度確認している。

昔決めたルールだからという理由だけで、今も続けている作業がある。

一つひとつは数分かもしれません。

しかし、それが毎日積み重なれば大きな労働時間になります。

たとえば、毎日30分かかっている作業があります。

30分くらいなら大したことがないように感じます。

しかし30日続けば15時間です。

同じような仕事が3つあれば45時間になります。

つまり、人件費を見るときには、

「何人働いているか」だけではなく、「その労働時間を何に使っているのか」

まで見る必要があります。

私は、省人化も同じ考え方だと思っています。

省人化という言葉を聞くと、

「人を減らす」

というイメージを持つ人も多いでしょう。

しかし、本当に考えたいのはそこではありません。

少ない労働時間で、同じ価値、あるいはそれ以上の価値をお客様へ提供できないか。

これを考えることです。

たとえば二重入力があるなら、一回にできないか。

不要な仕込みがあるなら、仕込みそのものをなくせないか。

オペレーションが複雑なら、工程を減らせないか。

ほとんど売れないメニューがあるなら、その商品を残すために何時間使っているのか。

過剰在庫があるなら、発注や棚卸しの方法を変えられないか。

厨房内を何度も往復しているなら、物の配置や動線を変えられないか。

意味の薄い確認作業があるなら、本当に必要なのか。

こうして仕事を一つずつ見ていきます。

重要なのは、

人そのものより先に、その人がやっている仕事を見ることです。

スタッフ一人を減らせば、確かに人件費は下がります。

しかし、その人が担当していた仕事が消えるわけではありません。

残ったスタッフがやることになります。

すると、一人あたりの仕事量が増える。

料理提供が遅くなる。

片付けが遅れる。

清掃する時間がなくなる。

お客様への声掛けが減る。

スタッフが疲れる。

ミスが増える。

結果として、第4章から第6章で書いてきたような顧客価値の低下につながる可能性があります。

一方、先に仕事を減らしたらどうでしょう。

10時間分の仕事をなくす。

20時間分の仕事をなくす。

30時間分の仕事をなくす。

そのうえで必要な人員を考える。

これなら、人件費を改善しても現場への負担を増やさずに済む可能性があります。

むしろ、スタッフに余裕が生まれることもあります。

たとえば、売れないメニューを整理したことで仕込みが減った。

食材管理が簡単になった。

冷蔵庫も整理しやすくなった。

注文時の迷いも減った。

厨房のオペレーションも単純になった。

料理提供も速くなった。

この場合、メニューを減らしたことで労働時間は減っています。

しかし、お客様から見た価値まで下がったとは限りません。

人気商品が早く出てくるようになれば、むしろ満足度が上がる可能性があります。

セルフサービスも同じです。

何でもセルフにすればいいわけではありません。

お客様が自分でやっても負担に感じにくい仕事。

場合によっては、自分でやった方が便利な仕事。

そうしたものをお客様側へ移すことで、スタッフは別の仕事に時間を使えるようになります。

その時間を料理や接客など、お客様がより価値を感じる仕事へ振り向ける。

これも省人化です。

つまり、人件費改善で考えたいのは、

人を減らすことではなく、価値を生まない労働時間を減らすこと。

人件費という数字だけを見ていると、人を削りたくなります。

しかし、人件費の中身まで見ると、

削るべきなのは人ではなく、仕事かもしれません。

二重入力。

不要な仕込み。

複雑なオペレーション。

売れないメニュー。

過剰在庫。

無駄な移動。

意味の薄い確認作業。

こうした内部の無駄を一つずつ取り除いていく。

そして、お客様から見える部分はできるだけ守る。

料理の品質。

提供速度。

接客。

清潔感。

便利さ。

安心感。

店を選んでもらうために必要な価値を残しながら、その裏側にある無駄を減らしていく。

これができれば、

売上を守る × 利益を改善する

という、第2章からずっと考えてきた二つの条件を同時に成立させられる可能性があります。

人件費が高い。

だから一人減らす。

そこへ一直線に進む前に、

「この店には、そもそもやらなくてもいい仕事がどれだけあるだろう」

と考えてみる。

人を削るのは、その後でも遅くありません。

省人化とは、単純に少ない人数で無理をして店を回すことではありません。

少ない仕事で、同じかそれ以上の顧客価値を作れる店へ変えていくこと。

そこまで設計できて初めて、省人化は利益改善につながります。

第11章 経営者は「何を削るか」より「何を守るか」を決める

ここまで、

お客様が価値を感じていないところから削る。

人を削る前に仕事を削る。

という話をしてきました。

ただ、現実の経営では、それだけでは解決できないこともあります。

本当にキャッシュがない。

原材料費も上がっている。

人件費も上がっている。

家賃も下がらない。

借入金の返済もある。

削れる無駄はある程度削った。

それでも利益を改善しなければならない。

そんな状況もあります。

すべてを守れるのであれば、それが一番です。

商品の量も守る。

品質も守る。

スタッフ数も守る。

営業時間も守る。

サービスも守る。

価格も守る。

しかし、現実にはそれができないこともある。

だから経営者は、優先順位を決めなければなりません。

そのとき私は、

「何を削るか」より先に、「何を絶対に守るのか」を決めること

が重要だと思っています。

たとえば、圧倒的なボリュームで選ばれている店があります。

「あの店に行けば腹いっぱい食べられる」

これがお客様の来店理由になっている。

その店が原価率を改善するために量を減らしたらどうでしょう。

数字としては改善するかもしれません。

しかし、店の一番大切な価値を削ることになります。

ならば、その店では量を守る。

その代わり、別のところを見直す。

食材の仕入れ方法を変える。

廃棄を減らす。

メニュー数を整理する。

オペレーションを簡単にする。

付け合わせの構成を変える。

他の商品で利益を取る。

守るものが決まれば、他の部分で工夫する方向が見えてきます。

提供速度で選ばれている店なら、速さを守る。

ランチ休憩の限られた時間で利用されている店なら、

「注文したらすぐ出てくる」

こと自体が商品価値です。

その店で人件費を削りすぎて料理提供が遅くなれば、価格や味が同じでも、お客様にとっては使いにくい店になります。

ならば、必要な人員は守る。

その代わり、仕込み方法や注文方法、会計方法、メニュー構成などを見直して生産性を上げる。

接客で選ばれている店なら、人を守る。

「あのスタッフに会いたい」

「いつも気持ちよく接客してくれる」

それが来店理由になっている店で、人件費だけを見て接客時間を削れば、店の魅力そのものが弱くなる可能性があります。

名物商品で選ばれている店なら、その商品の品質を守る。

原価が高くても、その商品がお客様を連れてきているのであれば、単品の原価率だけで判断しない。

その商品を入口にして、どこで利益を作るのかを考える。

居心地で選ばれている店なら、空間を守る。

価格で選ばれている店なら、できる限り価格を守る。

つまり、

すべての店で守るべきものが同じとは限りません。

ここが重要です。

高級店と大衆食堂では、お客様が期待しているものが違います。

駅前のランチ店と郊外のファミリー店でも違います。

居酒屋とカフェでも違う。

同じ業態であっても、その店が長年作ってきた強みによって違います。

だから経営者は、自分の店について答えられなければなりません。

「お客様は、何を理由にこの店を選んでいるのか。」

安さなのか。

量なのか。

味なのか。

名物商品なのか。

速さなのか。

接客なのか。

便利さなのか。

居心地なのか。

安心感なのか。

あるいは、その組み合わせなのか。

この答えが分かれば、

守るべきものが見えてきます。

そして守るものが決まれば、削る場所にも優先順位を付けられます。

ここで経営者に必要なのは、すべてを残そうとすることでも、すべてを均等に削ることでもありません。

限られたお金。

限られた人。

限られた時間。

限られた設備。

限られた厨房スペース。

限られた席数。

飲食店経営は、常に限られた資源の中で行われます。

だから私は、経営者の仕事の一つをこう考えています。

経営とは、限られた資源を、店の価値が最大になる場所へ振り分ける仕事です。

100万円使えるからといって、10万円ずつ10か所へ均等に使う必要はありません。

お客様が最も価値を感じるところへ30万円、40万円と集中させた方が強い店になることもあります。

逆に、お客様がほとんど価値を感じていないところには、お金を使わないという判断も必要です。

これは人件費でも原価でも同じです。

すべての商品を同じ原価率にする必要はない。

すべての時間帯を同じ人数で回す必要もない。

すべてのサービスへ同じコストをかける必要もありません。

大切なのは、

どこにお金を使えば、この店を選ぶ理由が一番強くなるのか。

そこを考えることです。

キャッシュが苦しいと、

「あと何万円削れるだろう」

という発想になりやすい。

しかし、本当に重要なのは、

「限られたキャッシュを、どこに残すのか」

です。

量で選ばれているなら、量を守る。

速さで選ばれているなら、提供速度を守る。

接客で選ばれているなら、人を守る。

名物で選ばれているなら、商品品質を守る。

居心地で選ばれているなら、空間を守る。

価格で選ばれているなら、価格を守る。

そして、そのためなら別のところを削る。

すべてを守れない状況だからこそ、

この店がお客様から選ばれている理由だけは守る。

何を削ったかではなく、

何を最後まで守ったか。

そこに、苦しいときの経営者の判断力が表れるのだと思います。

第12章 経営者は孤独だ。そして孤独になる経営者ほど金がない

ここまで、経営判断についていろいろ書いてきました。

感覚だけで判断しない。

数字を分解する。

ロジックに当てはめる。

お客様から見た価値を考える。

守るものを決めて、限られた資源を振り分ける。

言葉にすると、その通りだと思います。

しかし実際の経営では、もう一つ大きな問題があります。

それを一人で考えなければならないことです。

経営者は、もともと孤独な仕事だと言われます。

従業員に相談できることもあります。

家族に話せることもあります。

経営者仲間に聞いてもらえることもあるでしょう。

それでも最終的に、

値上げするのか。

人を減らすのか。

商品を変えるのか。

営業時間を変えるのか。

借入をするのか。

新しい投資をするのか。

何を守って、何を諦めるのか。

最後に決めるのは経営者です。

そして皮肉なことに、本当に誰かへ相談したくなるのは、経営が順調なときよりも経営が苦しくなったときです。

売上が落ちている。

キャッシュが減っている。

来月の支払いが不安。

何をやっても数字が戻らない。

自分の判断が正しいのか分からなくなる。

こういうときこそ、

「一度、誰かに店を見てもらいたい」

「自分とは違う視点から意見が欲しい」

「数字を一緒に見てもらいたい」

と思います。

ところが、ここで現実的な問題が出てきます。

コンサルタントに相談するにもお金がかかる。

コーチングを受けるにもお金がかかる。

専門家と顧問契約するにもお金がかかる。

経営塾や勉強会へ参加するにもお金がかかる。

場合によっては、数万円では済まないこともあります。

経営が順調で利益が出ている会社なら、必要な投資として考えられるでしょう。

しかし、本当に困っている小さな飲食店には、その数万円すら重いことがあります。

来月の給料を心配している。

仕入れ代金をどう払うか考えている。

自分の給料を後回しにしている。

そんな状況で、

「毎月10万円払って経営のアドバイスを受けよう」

とは簡単にはなりません。

つまり、

一番助言が必要なときに、助言を買う金がない。

ここにも、経営の難しさがあります。

そして相談相手を持てなくなると、経営者は一人で考えます。

朝から店に立つ。

営業する。

数字を見る。

支払いを確認する。

家に帰ってからも考える。

「何を削ろう」

「どうやったら売上が戻るだろう」

「このままで大丈夫なのか」

考えても答えが出ない。

翌日また店へ行く。

そして同じ店の中で、同じ数字を見ながら、また自分一人で考える。

こうなると、だんだん視野が狭くなっていきます。

第7章で書いたように、人は追い込まれるほど短期的な問題へ意識を引っ張られやすくなります。

今日の売上。

今週の支払い。

今月の人件費。

銀行口座の残高。

もちろん、全部重要です。

しかし、そればかりを見続けていると、

「そもそも、なぜ売上が落ちたのか」

「お客様から自分の店はどう見えているのか」

「本当に削るべきなのはそこなのか」

という一段上から店を見ることが難しくなってきます。

さらに厄介なのは、経営者には上司がいないことです。

会社員なら、大きな判断をするときに上司へ相談できます。

会議で他の人の意見を聞くこともできます。

「その考え方、少し危なくないですか」

と誰かが止めてくれることもあります。

しかし小さな飲食店の経営者には、それがない場合があります。

自分で考える。

自分で決める。

自分で実行する。

そして結果も自分で受ける。

だから、

自分の考え方そのものがズレていても、それを指摘してくれる人がいない。

ここが怖いところです。

しかも、その意思決定をしているのは平常時の自分とは限りません。

売上が落ちている。

支払いに追われている。

睡眠時間も減っている。

店のことで頭がいっぱいになっている。

不安もある。

焦りもある。

そんな状態の自分です。

つまり、

精神的に一番追い込まれている自分が、会社で一番重要な意思決定をしている。

冷静に考えると、かなり危うい構造です。

しかし小さな会社では、それが普通に起こります。

だから経営者の孤独というのは、単に、

「相談相手がいなくて寂しい」

という話だけではありません。

経営判断の質に関わる問題です。

相談できない。

違う視点が入らない。

自分の仮説を疑う人がいない。

焦っている自分の判断を、そのまま実行してしまう。

そして結果が悪ければ、さらに追い込まれる。

売上が落ちる。

キャッシュが減る。

相談するためのお金もなくなる。

一人で考える時間が増える。

視野が狭くなる。

判断を間違える。

さらに経営が苦しくなる。

これもまた、飲食店経営で起こる袋小路の一つです。

だから私は、資金力のない経営者ほど、意識的に自分以外の視点を持つ仕組みを作った方がいいと思っています。

高額なコンサルタントを雇えるかどうかは、その次の話です。

お金がないなら、お金がないなりに方法を探す。

なぜなら一番避けたいのは、

追い込まれた自分一人の考えだけで、店の未来を決め続けること

だからです。

第13章 金がないときほど、無料で「心のメンター」を作れ

第12章で書いたように、経営が苦しくなるほど相談相手が必要になります。

しかし、そのときほど相談するためのお金がない。

だから結局、一人で考える。

そして、

精神的に一番追い込まれている自分が、会社で一番重要な意思決定をする。

この状態はできるだけ避けたい。

とはいえ、

「では毎月何十万円も払ってコンサルタントを付けましょう」

と言っても、現実的ではない店もあります。

だったら、お金がないなりの方法を使えばいい。

私はその一つが、

無料で「心のメンター」を作ること

だと思っています。

YouTubeでもいい。

本でもいい。

経営者のインタビュー記事でもいい。

ポッドキャストでもいい。

企業の決算説明資料でもいい。

今は、昔では考えられなかったほど大量の経営情報を無料、あるいは非常に安い金額で見ることができます。

その中から、

「この人の経営判断は信用できる」

と思える経営者を見つける。

大切なのは、有名かどうかではありません。

会社の規模でもありません。

自分がその人の話を聞いたとき、

「この人は数字をこう見るのか」

「この考え方は筋が通っているな」

「この判断基準は自分にも使えそうだな」

と思える人を探す。

そして見つけたら、軽く見るだけで終わらせない。

ベンチマークします。

動画を一本見て、

「いい話だったな」

で終わっても、経営判断はほとんど変わりません。

見るべきなのは、その人の答えよりも考え方です。

何を見ているのか。

売上が落ちたとき、最初にどの数字を見るのか。

利益が落ちたとき、どこから原因を探すのか。

人件費をどう考えているのか。

原価をどう考えているのか。

値上げをどのタイミングで決めるのか。

新しい事業へ投資するとき、何を基準にしているのか。

失敗した事業から撤退するとき、どこで見切るのか。

人をどう評価しているのか。

お客様をどう見ているのか。

会社が苦しいとき、何を守って何を捨てるのか。

こうしたものを、できるだけ深く見ます。

同じ人の動画を何十本も見る。

過去のインタビューまで読む。

その人が成功した話だけでなく、失敗した話も探す。

数年前と言っていることが変わっているなら、

「なぜ変わったのだろう」

と考える。

経営判断には、その人なりの癖があります。

何を優先するのか。

何を嫌うのか。

どこでリスクを取るのか。

どこでは絶対にリスクを取らないのか。

それを死ぬほど分析していく。

すると少しずつ、

「この人なら、この場面でこう考えそうだな」

というものが頭の中にできてきます。

ここまで来ると、その人は単なるYouTubeの出演者でも、本の著者でもありません。

自分の中に、

第二の視点

ができます。

たとえば、自分の店の売上が落ちた。

焦って、

「人件費を削ろう」

と思ったとします。

そこで一度、

「あの人なら、この数字を見て本当に人を削るだろうか?」

と考える。

原価率が上がった。

「すぐ値上げしよう」

と思った。

そこで、

「あの人なら価格を触る前に何を見るだろう?」

と考える。

新しい設備へ100万円投資したくなった。

そこで、

「あの人なら、この投資を何年で回収すると考えるだろう?」

と考える。

もちろん、頭の中のメンターが本当の答えを教えてくれるわけではありません。

本人に相談しているわけでもありません。

こちらが勝手に、

「この人ならどう考えるだろう」

と想像しているだけです。

でも、それでいいと思っています。

目的は、答えをコピーすることではないからです。

大企業の経営者がやっていることを、小さな飲食店へそのまま持ってきても使えないことはたくさんあります。

資金力も違う。

人材も違う。

商圏も違う。

会社の規模も違う。

だから施策そのものを真似する必要はありません。

真似したいのは、

意思決定の仕方です。

なぜその判断をしたのか。

どの数字から考えたのか。

何を優先したのか。

何を捨てたのか。

どんな時間軸で考えたのか。

ここを借りる。

そして最も大きな意味は、

追い込まれた自分以外の視点を、意思決定へ強制的に入れられることです。

第7章で、苦しいときほど自分の感覚を信用しすぎないという話をしました。

でも、自分一人で考えている以上、

「感覚で決めないようにしよう」

と思っていても、結局は自分の頭の中だけで考えることになります。

だから意図的に、別の人物を頭の中へ入れる。

自分は人を減らしたい。

でも、

「あの人ならどう考える?」

と聞いてみる。

自分は広告を止めたい。

でも、

「あの人なら、この状況で集客費を削るだろうか?」

と考えてみる。

自分はもう諦めたい。

でも、

「あの人なら、この数字のどこを見て撤退を判断するだろう?」

と考える。

それだけで、自分一人では出てこなかった問いが生まれることがあります。

私は、これがすごく大事だと思っています。

経営者が孤独なのは、簡単には変えられません。

キャッシュがないという現実も、明日突然変わるとは限りません。

でも、

一人で考えるしかないことと、一つの視点しか持てないことは同じではありません。

お金がなくても、他人の思考は学べます。

YouTubeなら無料です。

過去の講演も見られる。

経営者のインタビューも読める。

決算資料も公開されています。

優れた経営者が何十年もかけて作った考え方の一部を、自分の店の意思決定へ持ち込むことができます。

だったら使えばいい。

経営が順調なときよりも、むしろ苦しいときにこそ使う。

そして、

「俺はどうしたい?」

だけで考えない。

「この人ならどう考える?」

という問いを一つ加える。

答えをもらうためではありません。

追い込まれた自分の考えを、一度外から見るためです。

心のメンターとは、自分の代わりに経営してくれる人ではありません。

自分の判断を、自分以外の視点から疑うための存在です。

コンサルタントを雇うお金がないなら、まず無料でできることを死ぬほど使う。

経営者が孤独である以上、自分から意識的に「もう一つの視点」を作る。

それもまた、苦しい経営から抜け出すための一つの経営技術だと思います。

第14章 知らない経営ロジックがあるから、経営者は勉強をやめられない

第13章では、自分が信頼できる経営者をベンチマークして、

「この人ならどう考える?」

という第二の視点を持つことについて書きました。

優れた経営者の考え方を学ぶことには、もう一つ大きな意味があります。

それは、

自分が知らなかった「問題の解き方」に出会えることです。

第8章で、経営にはある程度の「型」があるという話をしました。

売上なら、

客数と客単価に分解する。

客数なら、

新規客と既存客に分解する。

利益なら、

売上、変動費、固定費に分解する。

こうしたロジックを知っていれば、問題が起きたときに感覚だけで考えずに済みます。

しかし当然ながら、

自分が知っている経営ロジックだけが、世の中にある経営ロジックのすべてではありません。

管理会計があります。

マーケティングがあります。

価格戦略があります。

行動経済学があります。

オペレーションがあります。

組織論があります。

財務があります。

ブランディングがあります。

統計があります。

心理学があります。

それぞれの世界に、長い時間をかけて蓄積されてきた考え方があります。

そして、その中には自分が今抱えている問題を、まったく違う角度から解けるロジックがあるかもしれません。

たとえば、

「値上げしたいけれど、お客様が離れるのが怖い」

という問題があるとします。

価格についての知識がなければ、

値上げする。

値上げしない。

この二択で考えてしまうかもしれません。

しかし価格戦略を学べば、選択肢はもっと増えます。

商品の構成を変える。

価格帯を複数作る。

セットの組み方を変える。

商品の見せ方を変える。

付加価値を加える。

値上げする商品と据え置く商品を分ける。

一つの問題に対して、打てる手が増えていきます。

人件費についても同じです。

知識がなければ、

「人件費が高いから人を減らす」

という発想になりやすい。

しかしオペレーションを学べば、

作業工程を減らす。

動線を変える。

仕込みを集約する。

ピークとアイドルタイムで仕事を分ける。

メニュー構成を変える。

機械やシステムへ置き換える。

お客様に任せても価値が下がらない仕事をセルフ化する。

別の方法が見えてきます。

集客もそうです。

「客数が少ないから広告を出す」

だけではありません。

マーケティングを学べば、

そもそも誰に来てほしいのか。

どんな場面で店を思い出してほしいのか。

何を理由に選んでもらうのか。

初回来店から再来店へどうつなげるのか。

既存客の来店頻度をどう上げるのか。

問題そのものを細かく分けて考えられるようになります。

つまり、知識が増えるということは、

単に物知りになることではありません。

経営で使える選択肢が増えるということです。

私はここが非常に重要だと思っています。

経営が苦しくなると、

「もう打つ手がない」

と思う瞬間があります。

値上げもした。

人件費も削った。

広告もやった。

新商品も作った。

それでも数字が改善しない。

すると、

「この立地では無理なんだ」

「この業態はもう厳しい」

「これ以上できることはない」

と思いたくなる。

もちろん、本当に撤退した方がいいケースもあります。

経営では、諦める判断も必要です。

しかし、その前に一度考えてみたい。

本当に解決方法がないのか。

それとも、

自分がまだ、その問題を解くロジックを知らないだけなのか。

この二つはまったく違います。

今、自分の頭の中に10個の解決方法しかなければ、その10個の中から答えを探すしかありません。

しかし勉強して、使える考え方が20個、30個、50個と増えていけば、同じ問題を見ても選択肢が変わります。

以前なら、

「人を減らすしかない」

と思っていた問題に、

「作業を減らせばいい」

という答えが見えるかもしれない。

「値上げするしかない」

と思っていた問題に、

「商品構成を変えればいい」

という答えが見えるかもしれない。

「広告を出すしかない」

と思っていた問題に、

「既存客の来店頻度を改善した方が早い」

という答えが見えるかもしれない。

学ぶ前と学んだ後では、同じ店を見ても見えるものが変わります。

これは、経営者にとってかなり大きなことです。

店が突然変わったわけではありません。

お客様が突然変わったわけでもありません。

経営者の中に、問題を見るための新しいレンズが一枚増えただけです。

でも、その一枚によって、それまで見えていなかった解決策が見えることがあります。

だから経営者は勉強をやめられません。

経営環境が変わるから、という理由もあります。

物価も変わる。

人件費も変わる。

集客方法も変わる。

テクノロジーも変わる。

お客様の行動も変わる。

しかし、それ以上に大きいのは、

自分がまだ知らない問題の解き方が、世の中にはいくらでもあるからです。

本を読む。

動画を見る。

他社の事例を見る。

決算資料を見る。

成功した店を見る。

失敗した店を見る。

異業種を見る。

そして、

「この考え方、自分の店にも使えないか?」

と考える。

第13章で書いた心のメンターも、そのための入口になります。

その人がなぜその判断をしたのかを調べていけば、その背景にある経営理論や考え方へたどり着くことがあります。

そこで新しいロジックを一つ覚える。

そして、自分の店へ持ち帰って使ってみる。

そうやって少しずつ、

自分の中にある「経営の道具箱」を増やしていく。

私は、経営の勉強とはそういうものだと思っています。

資格を取るためでもありません。

難しい経営用語を覚えるためでもありません。

今まで一つしか見えなかった問題に、二つ目、三つ目の解き方を持つためです。

だから、

今解けない問題=解決方法がない問題

とは限りません。

自分がまだ、そのロジックを知らないだけかもしれない。

そう考えられる経営者は、苦しいときでも簡単に思考停止しません。

知らないなら調べる。

分からないなら学ぶ。

別の業界を見る。

違う経営者の考え方を知る。

そして、自分の店に使える形へ変換する。

経営者が学び続ける理由は、そこにあります。

知識が増えれば、選択肢が増える。

選択肢が増えれば、苦しいときに「削るしかない」と考える場面も減らせる。

経営の勉強は、店を大きくするためだけにするものではありません。

苦しいときに、袋小路から抜け出す道を一つでも多く持つためにするものでもあるのです。

最終章 苦しいときの自分だけに従わない

飲食店を経営していれば、苦しい時期はあります。

売上が落ちる。

キャッシュが減る。

支払いが迫る。

思うように利益が残らない。

そんな状態が続けば、経営者の頭にはいろいろな考えが浮かびます。

「もっと原価を削った方がいいんじゃないか」

「値上げした方がいいんじゃないか」

「一人減らした方がいいんじゃないか」

「広告費を止めた方がいいんじゃないか」

「営業時間を短くした方がいいんじゃないか」

そう考えること自体は自然なことです。

キャッシュが減っている以上、何かを変えなければならない。

経営者なら当然、店を守ろうとします。

問題は、

その瞬間の感情だけで決めてしまうことです。

資金繰りが苦しいとき、経営者が見ている景色は変わります。

第1章で書いたように、それまでお客様を見ていた視線が、少しずつ給料、家賃、仕入れ、返済、口座残高へ向かっていきます。

すると、

「お客様にとってどうなのか」

よりも、

「今月いくら残せるのか」

が強くなっていく。

その結果、店にとって合理的に見える改善が、お客様にとっての改悪になることがあります。

人件費を削った。

でも料理が遅くなった。

原価を削った。

でも商品が寂しくなった。

営業時間を短くした。

でもお客様が利用したい時間に閉まるようになった。

サービスを削った。

でも店を選ぶ理由まで弱くなった。

そしてお客様は、そのことをわざわざ教えてくれません。

何も言わずに利用頻度を下げる。

何も言わずに別の店を選ぶ。

その結果として売上が落ちる。

すると経営者は、

「もっと削らなければ」

と考える。

ここまでが、この記事で一番伝えたかった経営の怖さです。

苦しいときほど、自分の判断によってさらに苦しい状況を作ってしまう可能性がある。

だから、苦しいときには一つ手順を増やしてほしいと思っています。

削りたいと思った。

その瞬間に削らない。

値上げしたいと思った。

その瞬間に価格を変えない。

人を減らしたいと思った。

その瞬間にシフトを削らない。

広告を止めたいと思った。

その瞬間に止めない。

まず、

数字を見る。

売上を客数と客単価に分ける。

客数を新規客と既存客に分ける。

既存客なら顧客数と来店頻度を見る。

客単価なら注文点数と平均商品単価を見る。

原価なら仕入価格、使用量、廃棄、商品構成、販売価格を見る。

人件費なら時間帯売上、投入労働時間、生産性、作業内容を見る。

問題を分解する。

そして、

ロジックに当てはめる。

自分が今考えている施策は、本当にその問題を解決する方法なのか。

別の選択肢はないのか。

一つの数字を良くする代わりに、別の数字を悪くしないか。

そこを考える。

次に、

お客様から店を見る。

自分がやろうとしていることによって、お客様から見た店はどう変わるのか。

料理はどうなる。

価格はどうなる。

提供速度はどうなる。

接客はどうなる。

便利さはどうなる。

居心地はどうなる。

そして、

この店を選ぶ理由は弱くならないか。

ここを確認する。

それでも判断に迷うなら、自分以外の視点を借ります。

第13章で作った「心のメンター」です。

自分がベンチマークしてきた経営者なら、この状況をどう見るだろう。

この人なら、最初にどの数字を見るだろう。

この人なら、人を削るだろうか。

この人なら、値上げするだろうか。

この人なら、何を守るだろう。

もちろん、その人が正解を教えてくれるわけではありません。

それでも、

追い込まれている自分とは違う視点を、一度意思決定の中へ入れることができます。

そして、それでも答えが出なければ学ぶ。

自分がまだ知らない経営ロジックがあるかもしれない。

管理会計。

マーケティング。

価格戦略。

行動経済学。

オペレーション。

組織論。

世の中には、自分が知らない問題の解き方がまだたくさんあります。

今、自分に解けないからといって、解決方法そのものが存在しないとは限りません。

だから調べる。

学ぶ。

他の経営者を見る。

他業種を見る。

そして、自分の店へ持ち帰る。

経営に絶対の正解はありません。

どれだけ考えても、判断を間違えることはあります。

ロジック通りにやっても、思った結果にならないこともあります。

それでも、

感情だけで決めるより、

数字を見る。

ロジックに当てはめる。

お客様から見る。

他人の思考を借りる。

知らないことを学ぶ。

そうやって意思決定の精度を少しずつ上げていくことはできます。

そして私は、特に経営が苦しいときにこそ、この手順が必要だと思っています。

経営者は孤独です。

苦しいとき、その孤独はさらに大きくなります。

だからこそ、苦しいときの自分だけに経営を任せない。

数字を使う。

ロジックを使う。

先人の知恵を借りる。

お客様から店を見る。

決して、苦しいときの自分だけに従わない。

それも、店を生き残らせるために経営者が身につけるべき技術だと、私は思います。

この記事を書いた人 Wrote this article

新田 敏之

新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性

RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。