
~会社に人生を預ける人間は、経営者にはなれない~
1.独立したいと言う人は多い

飲食業界で働いていると、
「いつか自分の店を持ちたいです」
「将来は独立したいと思っています」
そう口にする人に、何度も出会います。
自分の料理を出したい。
自分の考えた店を作りたい。
誰かに使われるのではなく、自分の力で生きていきたい。
その気持ちは、よく分かります。
私自身も、最初から経営者だったわけではありません。
現場で働き、料理を作り、お客様と向き合い、失敗を重ねながら、少しずつ経営を学んできました。
だからこそ私は、
「独立したい」
という言葉を、軽く扱いたくありません。
その言葉には、本来、大きな覚悟が必要だからです。
独立すれば、自由になれる。
自分の好きな料理を作れる。
誰にも命令されずに働ける。
そう考えている人もいるかもしれません。
しかし、実際の独立は、そんなに都合の良いものではありません。
店を開けても、お客様が来るとは限らない。
料理がおいしくても、売れるとは限らない。
売上があっても、利益が残るとは限らない。
スタッフを雇っても、定着するとは限らない。
広告を出しても、結果が出るとは限らない。
設備が壊れる。
材料費が上がる。
人が辞める。
クレームが入る。
予想していなかった問題が、毎日のように起こります。
そのすべてに対して、
誰かが答えを教えてくれるわけではありません。
最後に判断するのは自分です。
失敗したときに責任を取るのも自分です。
お金が足りなくなったときに、どうにかするのも自分です。
独立とは、
自分の好きなことを自由にすることではありません。
自分の人生と事業に起きることを、自分の頭で考え、自分で選び、自分で責任を負うことです。
だから私は、
「いつか独立したいです」
という言葉だけでは、その人が本当に独立できるかどうかを判断しません。
私は、その人の今の働き方を見ます。
目の前の仕事に、どのように向き合っているのか。
言われたことだけをこなしているのか。
なぜこの商品が売れるのかを考えているのか。
なぜ今日のお客様が少なかったのかを考えているのか。
店が忙しいときに、自分の持ち場だけを見ているのか。
それとも、店全体を見ながら自分にできることを探しているのか。
失敗したとき、環境や上司のせいにするのか。
それとも、自分の行動に改善できる部分がなかったかを考えるのか。
給料をもらうためだけに働いているのか。
それとも、今いる環境から何かをつかみ取ろうとしているのか。
独立できる人間かどうかは、
開業資金を持っているかどうかだけでは決まりません。
料理が上手かどうかだけでも決まりません。
長く働いているかどうかでもありません。
私は、
日々の小さな選択の中に、その人が将来、経営者になれるかどうかが表れる
と考えています。
たとえば、店で新しい取り組みが始まったとき。
面倒な仕事が増えたと不満を言うのか。
なぜ会社はこの取り組みを始めたのかと考えるのか。
新商品が売れなかったとき。
「この商品は駄目だった」で終わるのか。
写真なのか。
価格なのか。
ネーミングなのか。
提供方法なのか。
お客様への伝え方なのか。
どこに原因があるのかを考えるのか。
同じ現場で働いていても、
単に作業をしている人と、
経営を学んでいる人では、
過ごしている時間の価値がまったく違います。
一方は、一日を給料に変えています。
もう一方は、一日を給料だけでなく、経験、知識、判断力、思考力に変えています。
この差は、一日では見えません。
一か月でも、ほとんど見えないかもしれません。
しかし、三年、五年、十年と積み重なれば、取り返すことが難しいほど大きな差になります。
独立したいと口では言いながら、
毎日同じ作業を繰り返し、
仕事が終われば仕事のことは一切考えず、
数字も見ない。
本も読まない。
経営者の判断にも関心を持たない。
自分の将来を変えるための学習もしない。
それで数年後、突然、経営者として考えられるようになることはありません。
店を出した瞬間に、
経営者の頭へ切り替わるわけではないからです。
経営者としての思考は、
独立してから身につけるものではありません。
独立する前から、毎日の仕事の中で鍛え続けるものです。
だからRBRでは、
ただ作業を覚えてもらうことだけを、教育だとは考えていません。
決められたオペレーションを正確に回せることは、もちろん大切です。
しかし、それだけでは、いつまで経っても誰かの指示を待つ人になってしまいます。
なぜこの作業が必要なのか。
なぜこの順番なのか。
なぜこの商品を売るのか。
なぜこの数字を追うのか。
なぜ今、この店を変えようとしているのか。
そこまで考えられる環境を作らなければ、
人は単なる作業員のままです。
そして、独立を目指す本人にも、
その環境を自分から利用する姿勢が必要です。
どれほど多くのことを見せても、
何も考えずに働いていれば、何も残りません。
経営者の近くにいても、
経営者の判断に興味を持たなければ、ただ同じ場所にいるだけです。
私は、
「独立したい」という言葉を否定したいわけではありません。
むしろ、本当に独立したい人には、できる限り多くのものを見せたい。
商品の作り方。
数字の見方。
人件費の考え方。
集客の仕組み。
失敗した施策。
うまくいかなかった判断。
経営者が何に悩み、何を基準に決断しているのか。
良い部分だけではなく、
経営の苦しさや厳しさまで含めて見せたいと考えています。
なぜなら、
独立を目指す人にとって、本当に価値があるのは、
きれいに整えられた成功談ではないからです。
問題が起きたときに、経営者が何を見ているのか。
売上が落ちたときに、何を変えるのか。
人が足りないときに、どう店を守るのか。
資金に余裕がない中で、何を優先するのか。
その生々しい思考の過程こそが、
将来、自分の店を持ったときの財産になります。
だから私は、
独立したいと言う人の「言葉」よりも、
今の働き方を見ています。
今いる職場で、何を学ぼうとしているのか。
自分の時間を、何に変えようとしているのか。
誰かに人生を決めてもらおうとしていないか。
自分の未来を、自分で設計しようとしているか。
独立は、開業届を出した日から始まるのではありません。
物件を契約した日でもありません。
融資を受けた日でもありません。
自分の人生を、自分の頭で考え始めた日から、独立への道は始まっています。
この記事を書いた人 Wrote this article
新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性
RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。