
1.今の時代、最初から理想の店は作れない

「いつか自分のお店を持ちたい。」
飲食店で働いていると、一度はそう考えたことがある人も多いでしょう。
しかし、私が飲食業界に入った頃と比べると、独立を取り巻く環境は大きく変わりました。
一番大きな理由は、開業に必要なお金が大幅に増えたことです。
店舗を借りるための保証金や礼金。
内装工事。
厨房機器。
看板や外装工事。
テーブルや椅子、食器などの備品。
さらに、開業してすぐに売上が安定するとは限らないため、数か月分の運転資金も準備しておかなければなりません。
つまり、飲食店は店をオープンするだけでも多くの資金が必要な事業なのです。
だからといって、
「独立なんて無理だ。」
という話ではありません。
むしろ私は、その逆だと考えています。
今の時代は、最初から理想の店を作ろうとしてはいけません。
理想を一度で実現しようとするから、多額の借金を抱え、経営が苦しくなるのです。
私は、これから独立する人ほど、
小さく始めて、大きく育てる。
この考え方が必要だと思っています。
そして、そのためにはまず、独立後の現実を知ることから始めなければなりません。
2.まず考えるべきは、どんな人生を送りたいか

飲食店で独立したいと相談を受けると、多くの人が最初にこう聞きます。
「独立するには、いくら必要ですか?」
しかし、私はその質問にはすぐには答えません。
先に聞くことがあります。
「あなたは、どんな人生を送りたいですか?」
この質問に答えられなければ、必要な開業資金も、店の規模も決められないからです。
例えば、
家族との時間を大切にしたい人。
年収500万円で十分だと考える人。
年収1,000万円を目指したい人。
将来、複数店舗を経営したい人。
この4人では、目指すべきお店はまったく違います。
小さな店を一人で切り盛りすることが幸せな人もいます。
スタッフを育て、大きなお店を経営することにやりがいを感じる人もいます。
どちらが正しいという話ではありません。
大切なのは、自分がどんな人生を送りたいのかを明確にすることです。
その人生に必要な収入はいくらなのか。
その収入を得るには、月商はいくら必要なのか。
その月商を実現するには、どれくらいの規模のお店が必要なのか。
そして最後に、そのお店を作るために必要な開業資金が決まります。
つまり、
開業資金から店を考えるのではありません。
人生から店を設計する。
私は、それが飲食店経営のスタートラインだと考えています。
3.初めての独立なら自己資金300万円が現実的

「自己資金はいくら必要ですか?」
独立を目指す人から、本当によく聞かれる質問です。
私ならこう答えます。
最低でも自己資金300万円。
そして、日本政策金融公庫などの創業融資で500〜600万円。
総予算800〜900万円。
ここが、初めて独立する人の現実的なスタートラインだと考えています。
もちろん、300万円以下で開業した人もいます。
逆に2,000万円以上かけて開業する人もいます。
しかし、大切なのは開業できるかどうかではありません。
開業した後も、お店を続けられるかどうかです。
開業資金は、物件取得費や内装工事だけでは終わりません。
オープンしてから思うように売上が伸びないこともあります。
設備が壊れることもあります。
スタッフが辞めることもあります。
そんなとき、会社を支えてくれるのは売上ではありません。
手元に残しているキャッシュです。
私は、そのキャッシュの大切さを知らずに一度会社を失いました。
だから今は、「ギリギリ開業できる資金」ではなく、「安心して経営を続けられる資金」を準備してから独立することを勧めています。
開業資金は、お店を作るためのお金ではありません。
未来を守るためのお金でもあるのです。
4.借りられる店は、月商200万円が限界

自己資金300万円。
創業融資500〜600万円。
この予算で独立するなら、借りられる物件にも限界があります。
広い店。
駅前一等地。
立派な内装。
そんな店は、現実的には難しいでしょう。
だからといって、悲観する必要はありません。
むしろ、それでいいのです。
最初から大きな店を持てば、家賃も人件費も借入返済も大きくなります。
つまり、毎月の損益分岐点が一気に上がります。
売上が少し想定を下回るだけで、資金繰りは苦しくなります。
一方、小さな店なら固定費を抑えられます。
利益も残しやすく、経営を学びながら改善を繰り返すことができます。
私なら、初めての独立では月商200万円前後を目標にできる規模の店を選びます。
そこで利益を残し、キャッシュを積み上げる。
経営者としての力を身につける。
そして次のステージへ進む。
私は、これが一番再現性の高い独立の形だと考えています。
経営は、見栄の大きさではありません。
続けられる大きさから始めることが、成功への近道なのです。
5.固定費の安い月商200万円の店は、人生を安定させる店

月商200万円。
決して派手な数字ではありません。
でも、この規模のお店には大きな価値があります。
利益を残せる。
生活費を確保できる。
借入も返済できる。
少しずつ会社にキャッシュも残せる。
経営者として、落ち着いて判断できる環境を作ることができます。
それだけでも、十分に価値のある経営です。
しかし、ここで満足してはいけません。
月商200万円の店は、人生を安定させることはできます。
でも、未来までは作れません。
新しい設備投資。
スタッフの増員。
2店舗目への挑戦。
理想のお店への移転。
こうした「次の一手」を打つには、まだ力が足りません。
だから私は、最初の店をゴールとは考えません。
経営を学び、利益を積み上げ、キャッシュを残す。
そのための土台となる一店舗目です。
人生を安定させる店を作る。
そして、その店を土台に、未来を作る店へ育てていく。
私は、それが初めて独立する人にとって、一番現実的で、一番再現性の高い経営だと考えています。
6.2店舗目ではなく、本店移転を目指す

月商200万円の店が軌道に乗ると、多くの人はこう考えます。
「そろそろ2店舗目を出そう。」
もちろん、その考え方が間違いとは言いません。
FCのように、すでに仕組みが完成しているブランドなら、店舗展開という選択肢は十分にあります。
しかし、オリジナルブランドは話が違います。
まだブランドそのものが成長の途中です。
接客も。
商品も。
オペレーションも。
地域での認知も。
すべてを磨き続けなければなりません。
そんな状態で店舗だけを増やせば、経営者の時間も、お金も、人材も分散してしまいます。
その結果、どちらの店も中途半端になる。
私は、そのリスクの方が大きいと考えています。
だから私が目指すのは、2店舗目ではありません。
本店の移転です。
利益を積み上げ、キャッシュを残し、自分が本当に作りたい店舗へ移転する。
スタッフが活躍できる広さ。
理想の厨房。
理想の客席。
理想のサービスを実現できる空間。
まずは、本店を「完成形」に近づける。
その店が地域で圧倒的に選ばれる存在になって初めて、次の展開を考えればいい。
私は、その順番の方が、オリジナルブランドは強くなると考えています。
7.現預金1,000万円を貯める

月商200万円の店で利益が出るようになっても、私はすぐに次の勝負はしません。
まずやるべきことがあります。
現預金1,000万円を貯めることです。
利益が出たからといって、使い切ってはいけません。
車を買う。
高級時計を買う。
生活水準を上げる。
私は、それで一度失敗しました。
だから今は違います。
利益は、自分のためではなく、会社の未来のために残します。
現預金1,000万円は、会社にとっての安心です。
売上が落ちても慌てない。
設備が壊れても困らない。
優秀な人材が現れたら採用できる。
そして何より、次の挑戦を焦らず、自分の意思で選べる。
その状態を作って初めて、本店移転を考えます。
移転は、資金がないからするものではありません。
勢いでするものでもありません。
十分な利益を積み上げ、十分なキャッシュを持ち、「失敗しても会社が潰れない」と言える状態で挑戦するものです。
私は、そのくらい準備をして初めて、次の勝負に進むべきだと考えています。
経営とは、お金を使う技術ではありません。
未来の選択肢を増やすために、お金を残す技術なのです。
8.20〜30坪で、本当に育てられる店を作る

本店を移転する目的は、売上を増やすことだけではありません。
会社を次のステージへ進めることです。
私が目指すのは、20〜30坪程度の店舗です。
この規模になると、一人では店は回りません。
だからこそ、仕組みが必要になります。
レギュラースタッフを育てる。
教育の仕組みを作る。
誰が入っても品質を維持できるオペレーションを作る。
そして、店長を育てる。
ここまでできて初めて、お店は「経営できる店」へと変わっていきます。
経営者が毎日厨房に立たなければ回らない店は、店としては成り立っていても、会社としてはまだ成長の途中です。
経営者が一歩現場を離れても、お客様に変わらない価値を届けられる。
スタッフが成長し、店長が店を任され、自ら改善を続けられる。
私は、そんな店を作りたいと思っています。
だから、本店移転はゴールではありません。
人が育ち、会社が育ち、経営者が次の未来を描ける環境を作るためのスタートです。
それが、私の考える「本当に育てられる店」です。
9.初年度300万円、最終500万円を目指す

本店を移転したからといって、最初から月商500万円を目指す必要はありません。
むしろ、その考え方は危険です。
新しい立地。
新しいスタッフ。
新しいオペレーション。
移転した直後は、お店も会社も環境が大きく変わります。
そんな状態で無理に売上だけを追えば、現場は疲弊し、お客様へのサービスも不安定になります。
だから私が最初に目標とするのは、月商300万円。
まずは安定して利益を残せる店を作る。
その上で、
350万円。
400万円。
450万円。
そして500万円。
焦らず、一歩ずつ積み上げていきます。
売上は、広告だけでは伸びません。
お客様からの信頼。
スタッフの成長。
口コミ。
リピート。
地域での認知。
こうした目に見えない資産が積み重なった結果として、売上は少しずつ伸びていくものです。
私は、500万円という数字を追いかけたいのではありません。
500万円の売上を支えられるブランドを育てたい。
その結果として、お客様に長く愛される店になり、利益もキャッシュも積み上がっていく。
それが、私の考える持続可能な飲食店経営です。
10.理想の店に出会うまで、本店は進化し続ける

飲食店経営に、完成はありません。
利益を積み上げる。
キャッシュを積み上げる。
本店を移転する。
また利益を積み上げる。
さらに理想の店へ近づける。
この繰り返しです。
経営者も成長します。
スタッフも成長します。
街も変わります。
お客様も変わります。
だから、お店も進化し続けなければなりません。
私は、自分が描く店舗を手に入れるまで、本店を進化させ続けます。
しかし、それでも終わりではありません。
1店舗だけでは、どれだけ利益が出ていても経営は不安定です。
立地の変化。
店長の退職。
災害。
設備の故障。
たった一つの出来事が、会社全体を揺るがすこともあります。
だからこそ、利益を積み上げます。
キャッシュを積み上げます。
本店を育てます。
その土台ができて初めて、次の店舗へ進みます。
その店も利益を残す。
またキャッシュを積み上げる。
そして、また次の店を育てる。
この順番を繰り返すことで、会社の経営基盤は少しずつ強くなっていきます。
店舗展開とは、店舗数を競うことではありません。
利益が出続ける店を、一つずつ積み重ねていくことです。
その積み重ねが、10年後も、20年後も、お客様に選ばれ続ける会社をつくる。
それが、私の考える飲食店経営です。
この記事を書いた人 Wrote this article
新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性
RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。