スマートレジを入れたのに、なぜ店長は忙しいのか|省力化の「例外処理」を現場力へ変える

スマートレジを入れたのに、なぜ店長は忙しいのか|省力化の「例外処理」を現場力へ変える
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スマートレジを入れたのに、店長の仕事が減らない。会計は速くなった。売上は自動集計される。注文も厨房へ直接飛ぶ。それでも、ピークが終わるころには店長だけが疲れ切っている。返品、割引、品切れ、アレルギー、通信障害、操作に迷うお客様、新人からの質問。機械が処理できないことが、最後は全部、店長のところへ集まるからです。

スマートレジと厨房の間で例外対応を確認する飲食店の店長

2026年6月15日、経済産業省はスマートレジの普及加速策を公表しました。タブレットやスマートフォンを使うPOSで、売上・在庫・顧客情報をクラウド上で一元管理し、生産性向上や消費税率の変更への対応につなげる狙いです。デジタル化・AI導入補助金のインボイス枠では、スマートレジ申請の加点措置も強化されました。

機器導入そのものは前進です。ただし、RBRが問いたいのは「何人減らせるか」ではありません。機械が生んだ時間を、誰が、何のために使い直せるのか。ここを設計しない省力化は、定型作業を減らす代わりに、判断と後始末を店長へ集中させます。省人化の成否は、機器の機能表ではなく、例外が起きた瞬間の現場に表れます。

QRコード注文を導入した僕の店で、お客様もスタッフも戸惑った経験と、入店から注文までの案内を見直した話を、こちらの英語動画で紹介しています。

1.省力化が急がれる本当の理由は「人数」より「店長機能」の不足にある

飲食店の業務の流れと例外対応を整理する店長

農林水産省と厚生労働省が2025年6月13日にまとめた「省力化投資促進プラン―飲食業―」は、飲食業の構造をかなり率直に示しています。同プランによると、2021年の「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」の従業者は405.2万人。一方、別の2024年統計では「飲食サービス業等」のパートタイム労働者比率が77.7%です。また、資本金5,000万円未満の企業が98%を占めます。対象年と統計の範囲は同じではありませんが、多くの人が働き、短時間勤務者と小規模事業者の比重が大きい業界であることは読み取れます。さらに、同プランが引用する2023年度の職種別の有効求人倍率では、店長職が10.0倍、接客・給仕が5.0倍、調理が2.9倍でした。

ここで見落としてはいけないのは、店長が「一人分の労働力」ではないことです。店長は、売上予測、人員配置、衛生、教育、クレーム、設備、発注を横断し、経営者の意図を今日の営業へ翻訳します。店長が足りないという数字は、単にシフトが埋まらないという話ではありません。複数の情報をつなぎ、どこを優先するか決める機能が不足しているということです。

同じプランによると、2022年度実績を基にした飲食サービス業の労働生産性は、従業者一人当たり年219万円。全産業平均917万円、小売515万円、卸売1,220万円を下回ります。政府は飲食業の労働生産性を2024年度比で2029年度までに35%高める目標を掲げました。だからこそ、セルフオーダー、POS、配膳・清掃ロボット、自動調理、AI需要予測への期待が高まります。

しかし、同プラン自身が、機器を入れる段階と、機器に合わせて業務プロセスまで変える段階を分けています。つまり、国の資料も「導入=生産性向上」とは言っていません。会計時間が短くなっても、品切れ設定が更新されず注文取消が増えれば、別の仕事が発生します。注文入力が減っても、初めて使うお客様への説明が増えれば、ホールの負荷は移動します。数字を自動収集しても、店長が分析する時間を確保できなければ、データは眠ったままです。

省力化で最初に見るべき数字は、人件費率だけではありません。「店長が営業中に呼ばれた回数」「例外処理に使った分数」「やり直し件数」「お客様を待たせた時間」「閉店後に残った管理作業」を測る必要があります。店長の判断時間が増えているのに総労働時間だけが少し減った場合、その店は効率化したのではなく、負荷を見えにくい場所へ移した可能性があります。


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この記事を書いた人 Wrote this article

新田 敏之

新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性

RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。