特定技能「外食」5万人枠が98%|外国人を採る店から、人が育ち残る店へ


2026年3月27日、出入国在留管理庁は、特定技能1号「外食業」の在留者数が受入れ見込数の上限に近づいたとして、在留資格認定証明書の交付などを一時的に制限すると発表しました。措置は4月13日から始まり、農林水産省も外食業の特定技能1号評価試験を国内・国外とも当面実施しないと案内しています。
さらに、入管庁が2026年9月29日に掲載した速報値では、6月末の外食業分野・特定技能1号は49,060人でした。2024年度から2028年度までの受入れ見込数5万人と単純比較すると98.12%です。ただし、これは「残り940人を先着で採れる」という意味ではありません。5万人は毎年の新規採用枠でも、5年間の累計入国者数でもなく、2028年度末までの在留者数の上限として運用される数字です。審査中の案件もあるため、算術上の差を自由な採用枠とは読めません。
「外国人材の採用が全面停止した」という理解も正確ではありません。4月13日より前に受理された案件、外食業内の転職、一定の技能実習修了者からの移行などには別の取扱いがあります。更新申請や特定技能2号、日本語試験まで一律に止まったわけでもありません。
RBRがこのニュースから考えるべきだと思うのは、外国人を採れるかどうかだけではありません。採用という外部の入口が細くなったときにも、店内で人を育て、顧客への約束を守り、働く人が無理なく残れる仕組みを持っているか。今回の上限接近は、その経営能力を店に問いかけています。
1.5万人の上限が示したのは、「外国人需要」より採用依存の限界

今回の動きを時系列で見ると、制度変更の意味が分かりやすくなります。2026年2月末時点の速報値は約46,000人でした。入管庁は3月27日、5月頃には5万人を超える可能性があると見込み、4月13日から一時的な措置を始めました。その後に公表された6月末の実績が49,060人です。
4月13日以降に受理された外食業の特定技能1号に関する在留資格認定証明書交付申請では、当面、証明書を交付しない措置が取られています。在留資格変更も原則として許可されませんが、外食分野内の転職や、医療・福祉施設給食製造の技能実習からの移行などには例外があります。制度名、申請の種類、受付日、例外を分けなければ、自店の採用判断を誤ります。
背景には、一つの制度だけでは説明できない需給のねじれがあります。農林水産省が受入れ見込数の根拠に使った資料では、2024年度の外食業の有効求人倍率は4.15倍で、全体の1.25倍を大きく上回りました。2028年度に必要とされる就業者は481.1万人、見込まれる就業者は455.5万人で、差は25.6万人。省力化などで15.77万人、国内人材確保で4.3万人を補っても5.53万人不足するとの推計から、特定技能1号5万人と育成就労5,300人が組まれています。
しかも需要が消えたわけではありません。日本フードサービス協会の会員社調査では、2026年8月の全店売上は前年同月比104.9%、客数は102.6%でした。新店を含む会員社データであり、市場全体や利益の増加を示す数字ではありません。それでも、客数が増える局面で人材の入口が細くなれば、現場は不足分を店長の穴埋めや残業で吸収しやすくなります。
そこで起きるのは、次の連鎖です。欠員が出る。採用を急ぐ。教育を設計する前に新人をシフトへ入れる。教育役の店長や熟練者も営業の穴を埋める。説明が人によって変わり、再調理、確認漏れ、提供の遅れが増える。スタッフは分からないまま働き、顧客体験と働きやすさがともに落ちる。そして離職と欠員が再び起きます。
これは国籍の問題ではありません。採用を増やしても、人を受け入れて育てる能力が店内に蓄積されていなければ、日本人採用でも同じ循環が起きます。農林水産大臣は3月31日の会見で、特定技能外国人は外食産業全体の雇用のおよそ1%との認識を示しました。業界全体が直ちに止まる数字ではない一方、特定の地域、業態、時間帯、店舗に集中していれば影響は重くなります。平均値だけで自店の危険度は測れません。
RBRの主張は明確です。人数を外から足す力だけでなく、一人を育て、残し、その人が次の一人を育てる力を経営資源として持つ必要があります。
2.採用単価ではなく、「独力稼働までの総費用」を測る

採用を考えるとき、紹介料、求人広告費、時給など、見える金額へ意識が向きます。しかし店の利益を左右するのは、採用した日の費用だけではありません。新人が自分で判断して働けるまで、誰が何時間教えるのか。教育中に人員を重ねる必要があるのか。確認不足による再調理や廃棄は起きていないか。店長の残業や営業中の呼び出しは増えていないか。そこまで含めて採用の意味が見えます。
特定技能外国人の報酬や労働時間は、同等の仕事をする日本人と同等以上でなければなりません。1号特定技能外国人を受け入れる事業者には、職業生活、日常生活、社会生活を支える計画の作成と実施が求められ、義務的支援の費用を本人へ直接・間接に負担させることもできません。「外国人なら安く雇える」という前提で使う制度ではないのです。
戦力化総費用=採用関連費+教育時間×教育者の人時単価+再調理・廃棄・手戻り+店長の追加対応
RBRの管理用の考え方。公的な会計指標ではありません。
この式は外国人スタッフだけに使うものではありません。新卒、中途、アルバイト、配置転換を含む新人全員を同じ条件で測ります。戦力化とは、何でも一人で完璧にできる状態ではなく、担当する通常業務を基準通りに行い、自分で判断してはいけない例外を見分け、必要なとき適切な相手へ相談できる状態です。
定義がない店では、教育の完了が教える人の感覚で決まります。ある店長は「一人で作業できれば合格」、別の店長は「繁忙時に周囲を助けられるまで」と考える。同じ会社で基準が違えば、独力稼働までの日数も教育費も比較できません。
採用人数だけを追えば「今月は三人採れた」で終わります。しかし三人を採用しても、既存スタッフの負担が増え、二人が短期間で辞め、店長の残業が続けば、店の能力は高まっていません。見るべき成果は、一人が何日で持ち場を任され、その後どれだけ安定して働き、いつ次の人を教えられるようになったかです。
大手は広告費、採用拠点、知名度、処遇制度で規模の利益を使えます。個店や中小企業が同じ採用競争をしても資金量では不利です。一方、小さな店には経営者の考えが現場へ届く距離が短く、問題を見つけた日に手順を変えられる強みがあります。採用量では負けても、独力稼働までの時間、教育の密度、相談のしやすさ、成長実感では勝てます。
3.店長は日本語教師ではなく、価値を往復翻訳する人

外国人スタッフの教育というと、日本語能力や文化の違いだけが問題にされがちです。しかし特定技能には技能と日本語能力に関する要件があります。外国人だから能力が低い、何も分からないという前提に立つべきではありません。
むしろ新人の質問によって、既存の手順の曖昧さが見えます。「適量は何グラムか」「きれいな盛り付けとはどの状態か」「忙しいとき何を先にするか」「どの時点で店長を呼ぶか」。長く働く人の間では「いつもの感じ」で通じていたことが、新人には通じません。質問した人を理解不足と見るのか、店の価値が言語化されていないと見るのかで、組織の成長は分かれます。
RBRが考える店長の役割は、経営者の思想を抽象語のまま伝えることではありません。顧客に提供したい価値を、現場で観察できる行動へ翻訳することです。QSC+Hで整理すると、教育内容は具体的になります。
- Quality:温度、重量、加熱時間、盛り付け位置、完成写真を示す。「おいしく」「丁寧に」で終わらせない。
- Service:注文の復唱、提供順、待ち時間の伝え方、自分で判断してはいけない質問、応援を求める基準を決める。
- Cleanliness:洗浄、保管、手洗い、器具の使い分け、記録の確認点を目で見て分かる形にする。
- Hospitality:台詞を暗記させるのではなく、「急ぐお客様を必要以上に待たせない」「迷うお客様には選択肢を絞る」など、帰るときの顧客の状態を共有する。
ホスピタリティを明るい性格や個人の勘に任せれば、その人が退職した瞬間に店から消えます。観察、声かけ、引き継ぎ、振り返りの行動へ分ければ、教育できる組織能力になります。写真、色、数字、短い文章、一つの作業に対する一つの実演を組み合わせ、説明後には本人に実行してもらい、「何をするか」と「なぜするか」を教え返してもらいます。
教え返しは試験ではありません。教え方と手順書の曖昧さを見つける方法です。説明した内容と再現された内容に差があれば、本人を責める前に写真、言葉、順番、判断基準を見直します。
ここで重要なのが「往復翻訳」です。経営者から現場へ理念を行動に翻訳するだけでなく、新人の質問、違和感、つまずき、別の職場で学んだ工夫を現場から経営へ戻します。同じ質問が繰り返されるなら、人の理解力より手順の設計を疑う。例外が多いなら、オペレーション自体を簡単にできないか考える。新人を受け入れるたびに店の仕組みが改善される状態をつくります。
登録支援機関へ制度上の支援業務を委託できる場合でも、その店が大切にする味、接客、判断、チームの習慣までは外注できません。法定支援は土台であり、店固有のOJTとQSC+Hは店長と現場が育てます。店長は日本語教師になるのではなく、価値を行動へ翻訳し、現場から出た問いを仕組みの改善へ戻す存在です。
4.30日で「採用」を組織能力へ変える

第1週:顧客への約束と、止める基準を決める
店が守りたい顧客への約束を三つに絞ります。「温かい料理は決めた温度と時間で出す」「アレルギーの質問は自己判断しない」「待たせるときは放置せず状況を伝える」など、観察できる行動にします。同時に、どこまで自分で判断してよいか、何が起きたら止めるか、誰へ相談するかを決めます。教育時間、再調理、廃棄、提供時間、店長の追加対応時間について、改善前の数字も記録します。
第2週:一つの持ち場を見える形にする
注文受け、ドリンク、盛り付け、洗い場などから、頻度が高く、つまずきが多い持ち場を一つ選びます。手順を写真、数字、短文で整理し、通常時の流れと例外時の相談先を一枚で確認できる形にします。全部を一度にマニュアル化せず、営業前後の短い時間で実演、実行、教え返しまで行います。出た質問は個人の疑問で終わらせず、手順改善の材料にします。
第3週:教えられる人を二人以上にする
一人の熟練者しか教えられない状態では、その人が休むと教育が止まります。国籍や雇用形態を問わず、二人以上が同じ基準で同じ仕事を教えられる状態をつくります。教える人による説明の違いが見つかったら、どちらが顧客への約束を再現しやすいかで手順をそろえます。
第4週:数字と質問を使って手順を改訂する
店長は、再調理、廃棄、提供時間、質問、応援要請、残業を確認します。質問が少なければよいとは限りません。相談すべき場面で黙って進めていないかも見ます。最初は質問が増え、その後、手順改善によって同じ質問が減る流れが望ましい状態です。改善後は、新人が後から入った人へ一つの工程を教えられるところまで成長の道筋を示します。
30日間で追う指標は次のとおりです。
- 一つの持ち場を独力で担当できるまでの日数
- 教育に使った時間と教育者の人件費
- 再調理、廃棄、手戻りの件数と金額
- 注文から提供までの時間
- 質問、応援要請、判断停止の内容
- 店長の追加対応時間と残業時間
- 入社30日後、90日後、180日後の定着状況
- 新人が次の人へ一工程を教えられるまでの日数
数字は個人を責めるためではありません。どの工程で説明が足りず、どの時間帯に負荷が集中し、どの判断が一人の経験に依存しているかを見つけるために使います。
採用の成果を「シフトに名前が入ったこと」にすれば、店は採り続けなければなりません。「新人が価値を再現し、改善に参加し、次の人を教えられること」まで広げれば、採用するたびに組織の能力が蓄積されます。
特定技能「外食業」の上限接近は、外国人採用をやめるべきだという話ではありません。外国人材を欠員を埋める人数としてだけ扱う経営から離れる機会です。大手と同じ広告費や採用量では戦えなくても、小さな店は一人の疑問をその日の改善へつなげられます。経営者の思想を店長が行動へ翻訳し、スタッフが繰り返し実行し、新人の問いによって更新する。その行動が習慣になり、共有された習慣が文化になり、店から人へ伝承される。そこまで育ったとき、人材育成は採用後の作業ではなく、簡単には模倣できない店のケイパビリティになります。
出典
- 出入国在留管理庁「特定技能『外食業』分野における在留諸申請の取扱いについて」(2026年3月27日)
- 出入国在留管理庁「特定技能制度運用状況」(2026年6月末速報値は9月29日掲載)
- 出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数(2026年6月末・概要版)」
- 農林水産省「外食業分野における外国人材の受入れについて」
- 農林水産省「外食業分野における特定技能及び育成就労の受入れ見込数」(2026年1月23日閣議決定)
- 農林水産省「鈴木農林水産大臣記者会見概要」(2026年3月31日)
- 出入国在留管理庁「特定技能外国人を雇用する際の注意点」
- 出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援に関する運用」
- 日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 2026年8月度結果報告」(2026年9月25日公表)
この記事を書いた人 Wrote this article
新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性
RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。