米価が3%下がっても安心できない|ご飯を「原価」から店の約束へ変える

米価が3%下がっても安心できない|ご飯を「原価」から店の約束へ変える
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農林水産省は2026年9月18日、令和7年産米の8月の相対取引価格を公表しました。全銘柄平均は玄米60kg当たり31,556円で、前月より930円、率にして3%下がりました。

「米が少し安くなるなら、飲食店もひと安心だ」と受け止めたくなります。しかし、この数字は出荷販売業者・団体などの相対取引をまとめたもので、飲食店の仕入れ価格が翌月から同じ率で下がることを意味しません。精米、運送、契約条件、銘柄、購入量によって、自店に届く価格は変わります。

RBRが考えたいのは、米価の上げ下げを当てることではありません。ご飯を単なる原価ではなく、料理の価値を支える「店の約束」として捉え、その約束を利益と現場の仕組みで守ることです。

1.ニュースの要点:米の相対取引価格は前月比3%下落

米袋と価格表を前に米価の動きを確認する飲食店の経営者と店長

農林水産省が2026年9月18日に公表した資料によると、令和8年8月の令和7年産米の相対取引価格は、全銘柄平均で玄米60kg当たり31,556円でした。前月から930円、3%の下落です。相対取引数量は全銘柄合計で5.7万トンでした。

ここでいう価格は、出荷販売業者・団体などから報告された相対取引契約の価格です。産地品種銘柄ごとの価格は、運賃、包装代、消費税を含む1等米の価格を加重平均しています。

したがって、この公表値と、飲食店が卸業者へ支払う精米の価格は同じではありません。前月比3%の下落は市場の動きを知る材料ですが、自店の納品価格が3%下がるという通知ではないのです。

事実は「相対取引価格が前月より下がった」。考察は「仕入れ価格がどう動くかを、自店の契約と納品書で確認する必要がある」。この二つを分けて読むことが、ニュースを経営に使う第一歩です。

2.米価のニュースを、一膳の数字へ翻訳する

厨房で一膳のご飯を計量し原価を記録する料理人

業界の数字が大きく見えても、店で必要なのは一膳当たりの影響です。まず、実際の精米仕入れ価格を1kg当たりに直し、炊飯歩留まりと一膳の盛り付け重量から原価を計算します。

見るべき数字は米代だけではありません。炊飯に使う水とエネルギー、洗米や計量にかかる時間、保温中の品質低下、炊き過ぎによる廃棄、足りなくなったときの追加炊飯も含めます。ご飯原価を「米の購入価格」だけにすると、現場で起きている損失が隠れます。

たとえば仕入れ価格が少し下がっても、盛り付けが担当者ごとに20g違い、閉店時に毎日余り、忙しい時間に炊き直しが起きているなら、利益も働く時間も守れません。

もう一つ確認したいのは、発注単位と資金繰りです。単価を下げるために一度の購入量を増やしても、保管場所が足りず、先に現金が出ていけば経営は苦しくなります。銘柄変更の頻度が高まれば、炊飯条件を調整する手間も増えます。単価、在庫日数、支払条件、調整時間を同じ表で見る必要があります。

一般論では、安い仕入れ先を探す話になりがちです。RBRでは、店に届いた米を、お客様が満足する一膳へ変えるまでの能力を見ます。価格交渉は一度の成果ですが、計量、炊飯、保温、提供を安定させる力は毎日利益を生みます。

3.「安い米」より先に、守る食味を決める

三種類のご飯を料理と合わせて比較試食する店舗スタッフ

価格が上がると、銘柄変更やブレンドを検討する店もあります。それ自体は悪いことではありません。ただし、価格表だけで切り替えると、料理との相性や店らしさまで失う危険があります。

まず経営者と料理人が、ご飯について守る条件を言葉にします。粒立ち、粘り、香り、冷めたときの食感、丼のたれとのなじみ、定食のおかずを受け止める力。すべてを最高にするのではなく、自店の料理に必要な三つほどへ絞ります。

次に、候補の米を同じ水加減、同じ浸漬時間、同じ炊飯器で試し、料理と合わせて比較します。価格差だけでなく、炊き上がり重量、食べ残し、保温後の変化、スタッフの扱いやすさも記録します。

試食では、料理人だけで結論を出さないことも大切です。ホールスタッフは、お客様がどこを残すか、丼の最後にたれが重くならないか、冷めたご飯への反応はどうかを知っています。厨房とホールの観察を合わせることで、食味の基準は店全体の知識になります。

小さな店が大手と仕入れ規模で競うのは難しい。しかし、自店の料理に最も合う状態を見つけ、毎日再現することでは戦えます。「何を買うか」だけでなく、「どう炊けば自店の価値になるか」を蓄積することが、模倣されにくいケイパビリティになります。

4.店長が炊飯を「誰でも同じ」に翻訳する

計量から炊き上がりまでの炊飯手順を店長が若手へ教える様子

良い米を選んでも、炊く人によって仕上がりが変われば、お客様が受け取る価値は安定しません。店長の役割は、経営者が守りたい食味を、現場の具体的な行動へ翻訳することです。

計量カップのすり切りを統一する。洗米回数ではなく水の状態で基準を示す。浸漬開始時刻を記録する。炊き上がり後にほぐす時間と方法を決める。保温開始時刻を表示し、提供できる時間の上限を定める。これらは単なるマニュアルではありません。

基準は、細かければよいわけではありません。忙しい営業中に守れない手順は定着しません。最も味に影響する三つ、たとえば計量、浸漬、ほぐしに絞り、誰でも見える場所へ置きます。失敗した人を責めるのではなく、迷う場所を見つけて仕組みを直します。

オペレーションとは、経営者が提供したい価値を、現場で繰り返し再現する仕組みです。店長はその意味を伝えます。「面倒だから量る」のではなく、「最後のお客様にも最初のお客様と同じ一膳を出すために量る」と共有するのです。

Qualityを安定させ、待ち時間というServiceを整え、炊飯器やしゃもじのCleanlinessを保ち、量の希望を聞くHospitalityを加える。炊飯もQSC+Hの一部です。

5.大盛り・小盛り・おかわりを、店の価値として設計する

小盛り・普通盛り・大盛りのご飯量を丁寧に案内するスタッフ

ご飯量の見直しを、単なる原価削減にすると、お客様には「減らされた」と映ります。RBRは、量を店側の都合だけで決めるのではなく、お客様が自分に合う一膳を選べる仕組みに変えるべきだと考えます。

標準、小盛り、大盛りの重量を決め、注文時に自然に選べるようにする。おかわりの価格と量を分かりやすくする。丼や定食ごとに、料理とのバランスを確認する。高齢者や子ども、食事量の少ない人にも、申し訳なさを感じさせず小盛りを選べる声かけを整えます。

これは食品ロス対策であると同時に、ホスピタリティの仕組み化です。スタッフ個人の気づきに頼らず、「ご飯の量はいかがしますか」という一言を接客の流れに組み込めば、満足と廃棄削減を同時に実現できます。

数字の確認では、廃棄量だけでなく、追加注文と満足も見ます。小盛りが増えて廃棄が減っても、満足度が下がれば長続きしません。逆に量を選べることでデザートやもう一品の注文が増えるなら、客単価と体験の両方に新しい可能性が生まれます。

大手の無料大盛り競争をそのまま追う必要はありません。自店は、料理が最もおいしく感じられる量、食べきれる安心、追加を頼みやすい雰囲気を価値にできます。量の設計まで含めて一膳を考えることが、弱者の戦略です。

6.二週間で炊飯の力を組織に残す

二週間の改善記録を囲み短時間で振り返る飲食店チーム

一度に全メニューを変える必要はありません。二週間、主力の定食か丼を一つ選び、炊飯と提供の流れを測ります。

一週目は現状を記録します。仕入れ価格、一回の炊飯量、炊き上がり重量、提供数、標準・小盛り・大盛りの数、廃棄量、追加炊飯の回数、保温時間、食べ残しを確認します。忙しい日でも続けられるよう、記録項目は一枚にまとめます。

二週目は一つだけ変えます。炊飯時刻を30分動かす、標準量を計量する、注文時の声かけを統一する、保温上限を決めるなど、小さく試します。営業後に店長が五分だけ振り返り、「味は守れたか」「廃棄は減ったか」「作業時間は増えたか」「お客様は選びやすかったか」を確認します。

良い結果が出たら、手順と理由を新人にも伝えられる形にします。経営者の判断を店長が翻訳し、スタッフが反復し、やがて店の習慣になる。その習慣が文化になったとき、炊飯は単なる作業ではなく、店の競争力になります。

米価は今後も動きます。けれども、ニュースを一膳の数字へ翻訳し、守る食味を決め、誰でも再現できる仕組みにする力は店に残ります。価格の波を止めることはできなくても、波の中で価値と利益を守る能力は育てられるのです。

出典

※相対取引価格は、飲食店の実際の精米仕入れ価格と同一ではありません。本文では公表値と店舗ごとの仕入れ条件を区別しています。

この記事を書いた人 Wrote this article

新田 敏之

新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性

RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。