最低賃金の全国平均1177円へ|人件費を削らず、利益を残す飲食店の組み直し方

最低賃金の全国平均1177円へ|人件費を削らず、利益を残す飲食店の組み直し方
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厚生労働省は2026年9月3日、令和8年度の地域別最低賃金について、全都道府県の地方最低賃金審議会の答申を取りまとめて公表しました。答申ベースの全国加重平均は1,177円で、前年度から56円の引き上げです。

飲食店にとって、最低賃金の改定は「アルバイトの時給をいくらにするか」だけの話ではありません。仕込みの時間、ピークの人数、店長の残業、メニューの手数、販売価格、採用条件まで連動します。時給だけを直し、店の動かし方を変えなければ、現場の忙しさと経営の苦しさが同時に増えることがあります。

RBRは、賃上げに対応するために人を減らす、という順番から考えるべきではないと思っています。まず、どこに時間が使われ、どの商品が粗利を作り、どの作業が働く人を消耗させているかを数字にします。そのうえで、小さく組み直す。利益を残すことと、働く人の時間を守ることを同じ課題として扱います。

出典:厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(2026年9月3日公表、2026年9月17日確認)

地域別最低賃金の資料と発効日を確認する飲食店経営者(AI生成イメージ)

1.全国平均1177円のニュースを、自店の発効日に置き換える

今回公表された1,177円は、各都道府県の答申額を労働者数で加重平均した数字です。すべての店に同じ時給が適用されるという意味ではありません。実際に確認する必要があるのは、自店がある都道府県の最低賃金額と発効予定日です。

最低賃金は、正社員、契約社員、パート、アルバイトなどの呼び方にかかわらず、原則としてその地域で働く労働者に適用されます。月給制の社員についても、時間額に換算して最低賃金を下回っていないか確認が必要です。深夜割増や時間外割増を含めて最低賃金を満たしていると考えるのも危険です。

まず給与台帳から、改定額に近い人を一覧にします。基本時給だけでなく、研修中の時給、試用期間、固定給の社員、複数店舗をまたぐスタッフも確認します。そして、いつの勤務分から新しい額になるのかを、給与計算の締日とは分けて整理します。

ここは推測で進めず、厚生労働省の一覧と各都道府県労働局の最新情報を確認してください。答申後に正式決定される金額や発効日は地域によって異なります。今回のニュースは全国の方向を示すものですが、自店の給与計算は地域の正式情報で行う必要があります。

シフト表と電卓で月の人件費増加額を計算する飲食店経営者(AI生成イメージ)

2.時給56円の差を、月の人件費まで計算する

賃上げの影響は、時給差だけを見ても分かりません。「対象人数×1人あたりの勤務時間×営業日数」まで計算して、月額に直す必要があります。

説明用の例として、時給が56円上がるスタッフが1日6人、1人5時間、月25日働く店を考えます。単純計算では、56円×6人×5時間×25日で、月4万2,000円の増加です。実際には勤務時間が人によって違い、賃金の上昇に連動する会社負担の社会保険料などもあるため、自店の条件で計算し直してください。

月4万2,000円という数字を見て、すぐにシフトを削ると、別の負担が生まれることがあります。料理提供が遅れる。片付けが残る。店長が穴を埋めて残業する。清掃が浅くなる。忙しい時間の接客が弱くなり、再来店が減る。人件費の表だけは下がっても、店全体の利益が落ちる可能性があります。

見るべき数字は、人件費率だけではありません。客数、客単価、粗利額、労働時間、店長の残業、提供時間、欠勤や退職まで合わせて見ます。人件費を一つの費用として切り離すのではなく、売上と品質を作るために使った時間として捉えることが大切です。

15分単位の作業表を使って営業工程を見直す飲食店チーム(AI生成イメージ)

3.人を減らす前に、15分単位で仕事を分ける

飲食店のシフトは、人数で組まれがちです。「ランチは4人」「金曜の夜は6人」という考え方です。しかし最低賃金が上がる局面では、人数の前に仕事を分けたほうが改善点を見つけやすくなります。

開店前、入店時、注文、調理、提供、追加注文、会計、片付け、閉店後。この流れを15分単位で見て、誰が何をしているかを書き出します。ピーク前にしかできない仕込みと、営業中でもできる補充を分けます。料理人でなくてもできる作業、店長でなくても判断できる作業も分けます。

たとえば、ランチ終了後に全員が同じ時間まで残っているなら、洗い場、清掃、翌日の仕込みを分解し、終わる順番を変えられるかもしれません。開店直後に注文が集中するなら、料理の手順ではなく、入店案内や注文方法が詰まりを作っていることもあります。

削る対象は、働く人ではなく、待ち時間、探す時間、やり直す時間、二重入力、判断待ちです。ここを減らせれば、同じ人数でも営業が落ち着き、スタッフの時間を守りながら生産性を上げられます。

メニューと食材と作業時間を比較する飲食店スタッフ(AI生成イメージ)

4.メニューと価格を、作業時間まで含めて見直す

最低賃金の上昇分を吸収しようとして、すべての商品の価格を一律に上げる必要はありません。まず主力商品を10品ほど選び、売価、食材原価、販売数、粗利、仕込み時間、注文後の作業時間を並べます。

原価率が低くても、仕込みと盛り付けに時間がかかり、ピークの厨房を止める商品はあります。反対に、原価率は少し高くても、短時間で安定して提供でき、追加注文につながる商品もあります。人件費が上がるときほど、食材原価だけでメニューを評価しないことが大切です。

月の増加額が4万2,000円で、月の来店客数が1,000人なら、単純には1人あたり42円の改善が一つの目安になります。これは「全員から42円多く取る」という意味ではありません。看板商品の価格、セットの組み方、追加注文、廃棄、決済手数料、予約サイト手数料、仕込み時間の改善を組み合わせて考えるための数字です。

価格を変える商品、量や構成を変える商品、あえて据え置く商品、やめる商品を分けます。お客様の満足を守る商品と、店の粗利を支える商品を見極めれば、値上げの理由も伝えやすくなります。

賃金改定と役割と教育方針を共有する飲食店チーム(AI生成イメージ)

5.賃上げを、役割と教育の見直しにつなげる

時給を上げるとき、金額だけを知らせて終わると、経営者にもスタッフにも不満が残りやすくなります。経営者は「負担が増えた」と感じ、スタッフは「仕事の期待が分からない」と感じます。

賃金の変更に合わせて、役割を言葉にします。新人が一人でできる仕事。ピークに任せられる仕事。発注や締め作業など判断が必要な仕事。後輩へ教えられる仕事。役割が見えると、昇給の基準も説明しやすくなります。

ただし、最低賃金が上がったことを理由に、同じ時間へ仕事を詰め込みすぎてはいけません。作業を追加するなら、やめる作業も決めます。覚える時間、質問する時間、引き継ぐ時間を確保しなければ、教育は現場の残業に変わります。

RBRが大切にしたいのは、賃金と成長と休みを切り離さないことです。利益が残れば、教育時間を作り、設備を直し、人を採用し、休みを確保できます。賃上げは費用の増加であると同時に、店の仕事の価値を見直す機会です。

売上と労働時間の変化をタブレットで検証する飲食店経営者(AI生成イメージ)

6.RBRの見解――2週間の小さな実験で、利益と時間を守る

最低賃金の引き上げは、店側が止められる変化ではありません。だからこそ、発効直前に慌ててシフトを削るのではなく、今のうちに小さな実験を始めるべきです。

最初の2週間は、対象者と増加額を計算し、15分単位の仕事表を作ります。次の2週間は、改善を一つだけ試します。開店前の仕込みを一つ減らす。売れない商品を一つ休止する。注文導線を変える。閉店作業の担当を決める。変更前後で、総労働時間、売上、粗利、提供時間、店長の残業を比べます。

ここで大切なのは、売上だけで成功を判断しないことです。同じ売上でも、残業が減り、提供が早くなり、ミスが減れば改善です。反対に、人件費率が下がっても、スタッフの負担が増え、退職や客離れにつながるなら、続けるべき施策ではありません。

最低賃金1,177円という全国平均は、大きな数字に見えます。しかし経営で扱うときは、自店の対象人数、勤務時間、商品別粗利、作業の詰まりに分解できます。分解すれば、手を付ける順番が見えます。

人件費を削ることだけが経営ではありません。人が働いた時間から、必要な売上と粗利を生み、店を続けられる形にすることが経営です。価格、メニュー、作業、教育を一緒に見直し、小さく試して数字で確かめる。それが、賃上げの時代に利益と働く人の人生を守る道だとRBRは考えます。

利益と働く人の時間を守る飲食店チーム(AI生成イメージ)

※本稿は2026年9月17日時点で確認できた厚生労働省の公式発表をもとに、RBRの視点で飲食店経営への示唆を整理したものです。最低賃金額と発効日は地域によって異なるため、各都道府県労働局の正式情報をご確認ください。本文中の計算例は説明用の仮定であり、実在店舗の実績ではありません。掲載画像はAI生成のイメージで、実在の店舗・スタッフの記録写真ではありません。

この記事を書いた人 Wrote this article

新田 敏之

新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性

RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。