物価1.9%上昇で、仕入れの痛みは測れるか|平均値では守れない、店の味と利益

2026年9月18日、総務省統計局は8月の全国消費者物価指数を公表しました。総合指数は前年同月比1.9%上昇。数字だけを見れば、物価の上昇は少し落ち着いたようにも見えます。
しかし、飲食店の仕入れ表を開くと、同じ景色には見えないかもしれません。帝国データバンクによれば、9月に値上げされた飲食料品は4923品目。調味料だけで1959品目、加工食品は1848品目に上ります。
全体の平均が1.9%でも、店が多く使う品目が11%上がれば、その店の痛みは11%に近づきます。RBRが考えたいのは、ニュースの平均値に一喜一憂することではありません。自店の味、利益、働く人の時間を同時に守るために、現場で何を測り、何を繰り返せる仕組みにするかです。
1.ニュースの要点:物価1.9%と4923品目の間にあるもの

総務省統計局が2026年9月18日に公表した8月の消費者物価指数は、2025年を100とした総合指数が102.2で、前年同月比1.9%の上昇でした。生鮮食品を除く総合は1.7%、生鮮食品とエネルギーを除く総合は1.9%上昇しています。
一方、帝国データバンクが8月31日に公表した調査では、主要食品メーカー195社を対象に、9月の飲食料品値上げは4923品目、1回当たりの平均値上げ率は月平均11%でした。分野別では調味料1959品目、加工食品1848品目が中心です。調査対象は家庭用商品が中心で、同じ商品が年内に複数回値上げされた場合はそれぞれ数えられています。
この二つの数字は矛盾していません。消費者物価指数は家計が買う商品やサービス全体の平均的な動きを示す数字です。対して、値上げ品目数はメーカーが価格改定した商品の広がりを示しています。対象も計算方法も違います。
だから、飲食店が「物価は1.9%しか上がっていない」と考えるのも、「4923品目も上がったから全部の価格を上げるしかない」と考えるのも早計です。必要なのは、自店が実際に買っているものへ翻訳することです。
2.平均値では、自分の店の原価は見えない

同じ居酒屋でも、揚げ物が主力の店と、刺身が主力の店では値上げの影響が違います。同じ醤油の値上げでも、かけ醤油として少量使う店と、煮切りやたれを毎日仕込む店では、一皿への影響が違います。
一般的な原価管理では、月末に売上原価率を見ます。それは必要です。しかし月次の原価率が悪化した後で原因を探すだけでは、手当てが一か月遅れます。しかも「食材が高くなった」で話が終わると、現場で変えられることが見えません。
まず見るべきは、使用金額の大きい上位10品目です。それぞれについて、仕入れ単価、使用量、廃棄量、提供数、一皿当たり使用量を並べます。値上げ幅が大きい商品より、値上げ幅と使用量を掛けた影響額が大きい商品から考えるのです。
たとえば単価が20%上がった香辛料でも、月の使用額が小さければ利益への影響は限定的です。逆に5%の値上げでも、油、米、醤油、包材のように毎日大量に使うものは、利益を静かに削ります。ニュースを店の数字に翻訳するとは、この違いを見えるようにすることです。
3.安い代替品を探す前に、「味の役割」を言葉にする

原価が上がると、安い商品への切り替えを考えたくなります。けれども、価格表だけで代替品を選ぶと、店が選ばれてきた理由まで削ることがあります。
すべての食材を守る必要はありません。守るべきものは、お客様がその店らしさとして感じる部分です。だしの余韻なのか、揚げ物の軽さなのか、たれの香りなのか、盛り付けたときの色なのか。経営者と料理人が「この材料は何の価値を生んでいるか」を一文で言える状態にします。
そのうえで、食材を三つに分けます。一つ目は、店の約束をつくるため変更しにくいもの。二つ目は、規格や仕入れ先を比較できるもの。三つ目は、使い方や仕込み量を見直せるものです。
これは単なる節約ではありません。何を守り、どこを変えるかという経営判断を、現場で再現できる形にする作業です。大手と同じ仕入れ価格を目指すのではなく、自店の価値を壊さずに原価変動へ対応する能力を育てる。ここに小さな店の戦い方があります。
4.店長は、原価表を現場の一手へ翻訳する

経営者が「原価を下げよう」と言うだけでは、現場は何をしてよいか分かりません。料理人は盛りを小さくするかもしれず、スタッフは付け合わせを減らすかもしれません。それぞれが善意で動いても、店の価値がばらばらになります。
店長の役割は、原価の数字を具体的な行動へ翻訳することです。たとえば、ドレッシングは目分量でかけず、器具と回数をそろえる。仕込みは予想客数だけで決めず、曜日別の販売実績と予約数を使う。開封日を記録し、使い切る順番を全員が分かるようにする。お客様が少量を希望したら、その情報を厨房へ正確に渡す。
ここで大切なのは、量を減らすこと自体ではありません。経営者が提供したい味と体験を、誰が担当しても繰り返し再現することです。Quality、Service、CleanlinessにHospitalityを加えたQSC+Hで考えるなら、原価管理とお客様への配慮は別々ではありません。
適量を尋ねる声かけ、料理の特徴が伝わる説明、きれいな盛り付け、安定した味。その一連の行動が、利益と満足の両方を守ります。店長は帳簿の管理者ではなく、経営の意図を現場の一手へ変える翻訳者です。
5.値上げ、量の変更、メニュー整理を同じ物差しで比べる

原価上昇への選択肢は、値上げだけではありません。価格を変える、使用量を整える、付け合わせを変える、低粗利商品の販売を絞る、仕込み単位を変える、注文されにくい商品を整理する。複数の方法があります。
比較するときは、原価率だけで判断しません。少なくとも「一皿の粗利額」「調理にかかる時間」「廃棄額」「お客様の反応」の四つを同時に見ます。
原価率が低い料理でも、仕込みに長時間かかり、注文が少なく、廃棄が出るなら店を苦しくします。反対に原価率が少し高くても、短時間で安定して提供でき、看板商品として再来店の理由になるなら、守る価値があります。
RBRは、すべてを数字だけで切るとは考えません。数字は、店の価値を守るための会話を具体的にする道具です。利益、働く時間、お客様の満足を一緒に見ることで、「安いから残す」「高いから切る」という単純な判断から抜け出せます。
6.二週間で「一品」を改善し、店の能力に変える

一度に全メニューを見直すと、現場が疲れ、何が効いたのか分からなくなります。まず、月間使用額が大きく、値上げの影響も大きい材料を使う一品だけ選びます。
一週目は、現状を変えずに測ります。仕入れ単価、一皿当たり使用量、提供数、廃棄量、仕込み時間、食べ残しやお客様の声を記録します。二週目は、守る味を決めたうえで、一つだけ変更します。計量器具を決める、仕込み量を曜日別に変える、説明の言葉を統一するなど、小さな変更で十分です。
営業後の五分間で、店長がスタッフと「味は守れたか」「作業は増えたか」「お客様の反応はどうだったか」を確認します。結果が良ければ手順に残し、うまくいかなければ戻して別の一手を試します。
この反復が、単なるコスト対策を組織の能力へ変えます。経営者の判断を店長が翻訳し、スタッフが同じ基準で動き、その行動が習慣になる。習慣が共有されれば、外から簡単にはまねできない文化になります。
物価のニュースは、店の外で起きています。しかし、利益を残せるか、味を守れるか、働く人の時間を守れるかは、店の中の仕組みで変えられます。平均値を見るだけで終わらず、自店の一品へ翻訳する。その力こそ、値上げが続く時代に小さな店が育てるべきケイパビリティです。
出典
※消費者物価指数と値上げ品目数は対象・集計方法が異なるため、単純比較はできません。本記事では、それぞれを外部環境を捉える異なる指標として扱っています。
この記事を書いた人 Wrote this article
新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性
RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。