鳥貴族410円改定をどう読むか|値上げしても選ばれる飲食店の価格設計

鳥貴族が、2026年10月1日から全品均一価格を税込390円から税込410円へ改定すると発表しました。20円の値上げです。割合で見ると、390円に対して約5.1%の改定になります。
このニュースを見て、「大手でも上げるのだから、うちも上げてもいい」と感じる経営者もいると思います。反対に、「鳥貴族ほどの知名度がある店だからできるのであって、個人店が同じように上げたら客離れする」と不安になる人もいるはずです。
RBRとしては、このニュースを単なる値上げニュースで終わらせたくありません。大事なのは、鳥貴族が20円上げたことそのものではなく、「価格を変える理由を、店の価値と運営の持続性にどうつなげるか」です。
飲食店の価格は、安ければよいものではありません。高ければよいものでもありません。お客様が納得して払い、店が品質を守り、スタッフが無理なく働き、経営者の手元に次の営業を続けるお金が残る。その線を探すのが価格設計です。
この記事では、鳥貴族の410円改定を入り口に、飲食店が値上げを考えるときの順番、伝え方、現場への落とし込みを考えます。計算例は説明用の仮定であり、特定店舗の実績ではありません。
この記事の内容を動画でもお話ししています。
1.ニュースの要点は「20円」ではなく、店を続ける条件の変化

鳥貴族の発表では、2026年10月1日午前9時から、税込390円均一を税込410円均一へ改定するとされています。理由として、国産食材の使用、人件費、エネルギーコストなどの上昇に触れています。
出典:鳥貴族 公式ニュースリリース(価格改定に関する発表/確認日:2026年9月15日)
この発表で見るべきなのは、20円という金額だけではありません。390円から410円へ上げるということは、単品価格では約5.1%の改定です。大手チェーンがその幅を選んだ背景には、原材料費だけでなく、人件費やエネルギー費、品質維持のためのコストがあります。
個人店や中小店も、同じ問題の中にいます。鶏肉、油、調味料、酒、米、電気代、ガス代、人件費。どれか一つだけが上がっているのではなく、営業を支える複数の費用が同時に上がっています。だから、単に「この食材が上がった分だけメニューを上げる」という計算では足りない場合があります。
ただし、大手チェーンの値上げ幅を、そのまま自店に当てはめるのも危険です。鳥貴族には鳥貴族の客層、商品構成、席数、回転数、仕入れ条件、ブランドの期待があります。自店には自店の固定費、客単価、来店頻度、注文点数、看板商品があります。
ニュースは、答えではなくきっかけです。「大手も上げたから上げる」ではなく、「自分の店は、今の価格で何を守れていて、何を失い始めているのか」を見る必要があります。
2.値上げ幅は、原価率だけで決めない

値上げを考えるとき、多くの店はまず原価率を見ます。それは正しい出発点です。けれど、原価率だけで価格を決めると、現場の負担や客単価の変化を見落とします。
例えば、ある料理を税込880円で販売していて、食材費が280円から310円に上がったとします。食材費だけ見れば30円の上昇です。では、販売価格を30円上げれば元に戻るのでしょうか。
実際には、決済手数料、予約サイト手数料、電気代、ガス代、洗い物や仕込みの人件費もあります。食材費だけを回収しても、営業全体の利益は戻らないかもしれません。逆に、すべてを一品に乗せようとすれば、その商品だけが割高に見えることもあります。
大切なのは、一品ごとの原価率と、会計全体の粗利を分けて見ることです。お客様は一品だけを買うわけではありません。居酒屋なら、串、揚げ物、サラダ、ドリンク、締め。全体の組み合わせで満足を作ります。
仮に、平均客単価が3,200円、平均粗利率が65%の店があるとします。粗利は2,080円です。コスト上昇で粗利率が62%へ下がると、同じ客単価なら粗利は1,984円になり、1人あたり96円減ります。1日50人なら4,800円、25営業日なら12万円です。
この12万円をどこで取り戻すのか。単品価格を少し上げるのか、ドリンク構成を変えるのか、仕込み工程を見直すのか、廃棄を減らすのか。値上げは、その中の一つの手段です。
RBRは、値上げを「悪いことをお客様にお願いする作業」とは考えません。むしろ、店が約束している価値を続けるための設計です。ただし、その設計には数字が必要です。感覚で上げると、上げ幅が足りないか、必要以上に怖く見えるかのどちらかになりやすいからです。
3.お客様が見ているのは、価格だけではなく「納得の残り方」

値上げで一番怖いのは、「高くなった」と思われることではありません。「高くなったのに、前より満足が減った」と思われることです。
お客様は、店の原価率を見て来店しているわけではありません。料理の味、量、提供の早さ、接客、店の雰囲気、会計後の気分をまとめて見ています。だから、価格を変えるときは、同時に「何を守るのか」を決める必要があります。
例えば、焼き鳥店なら、一本の大きさ、焼き加減、提供温度、タレの味、皿の出るタイミングが価値になります。価格を上げたのに、串が小さくなり、提供が遅くなり、スタッフが疲れているように見えれば、値上げ以上に印象が悪くなります。
反対に、価格が少し上がっても、料理が安定し、スタッフの説明が落ち着き、席での体験が崩れなければ、お客様は受け止めやすくなります。もちろん全員が納得するわけではありません。それでも、店の価値が伝わっているお客様ほど、価格だけで判断しにくくなります。
ここでやってはいけないのは、値上げを隠す代わりに量や品質を静かに落とすことです。お客様は、言葉にしなくても気づきます。「前より何か物足りない」という感覚は、次の来店を弱くします。
値上げをするなら、まず守るものを決めます。看板商品の味は守る。提供スピードは落とさない。スタッフの説明は統一する。サービス品や無料の付け合わせを見直すなら、その理由と影響を確認する。価格改定は、メニュー表を書き換える前に、体験全体の設計を見直す作業です。
4.価格改定の伝え方は、謝罪よりも約束を置く

値上げのお知らせを書くとき、必要以上に謝りすぎる店があります。「大変申し訳ございません」「苦渋の決断です」「何卒ご理解ください」。もちろん丁寧さは大切です。ただ、謝罪だけが前に出ると、店自身が値上げを悪いことだと認めているように見える場合があります。
お客様に伝えるべきなのは、値上げの事実と、これからも何を守るのかです。例えば、「食材費・人件費・エネルギー費の上昇を受け、品質と働く環境を維持するため、一部商品の価格を改定します。これまで通り、仕込みと提供品質を落とさず営業してまいります」という伝え方です。
ここで大げさな表現は必要ありません。お客様は、長い事情説明を読みたいわけではありません。知りたいのは、いつから、何が、いくら変わるのか。そして、店はこれからもちゃんと営業を続けるのかです。
価格改定のお知らせには、次の四つを入れると整理しやすくなります。実施日。対象商品。改定後価格。店として守る約束。この四つがあれば、現場スタッフも説明しやすくなります。
逆に避けたいのは、「原価高騰のため」だけで終わることです。それは事実でも、お客様から見ると店側の都合だけに見えます。原価が上がったから上げる、で止めずに、品質を守るため、スタッフの働く環境を守るため、安定して営業を続けるため、と店の姿勢まで伝えることが大切です。
価格改定は、言い訳ではなく、店の約束を言葉にする機会です。安さだけで来ていたお客様の一部は離れるかもしれません。しかし、店の考えに納得して通ってくれるお客様との関係は、むしろ強くなることがあります。
5.スタッフが説明できない値上げは、現場で崩れる

値上げは、経営者が決めてメニュー表を変えれば終わりではありません。営業中にお客様と向き合うのはスタッフです。スタッフが理由を知らず、不安な顔で「すみません、上がりました」とだけ言えば、店全体の印象が弱くなります。
価格改定をする前に、スタッフへ共有したいことがあります。なぜ変えるのか。どの商品が変わるのか。いつから変わるのか。お客様に聞かれたら何と答えるのか。クレームになりそうなときは誰に引き継ぐのか。
説明は短くて構いません。「食材費や人件費が上がる中でも、今の品質と営業体制を守るために価格を見直しました。ご理解いただけるよう、料理とサービスはこれまで以上に丁寧にしていきます」。このくらいの言葉を全員が同じ方向で言えるだけでも、現場の不安は減ります。
スタッフにとっても、値上げは緊張する出来事です。お客様から何か言われるのではないか。自分が責められるのではないか。そう感じるスタッフに、経営者が何も説明せず現場へ出すのはよくありません。
価格改定は、スタッフ教育の機会でもあります。店の利益がなぜ必要なのか。人件費を削るだけではなぜ続かないのか。品質を守るために、なぜ適正な価格が必要なのか。こうした話を共有できる店は、値上げ後の営業も落ち着きやすくなります。
RBRが飲食店経営で大切にしたいのは、数字と人を分けないことです。利益を残すことは、経営者だけのためではありません。仕込み時間、休み、教育、採用、設備の修理。すべて、店で働く人の時間と安全につながっています。
6.RBRの見解――値上げは「客離れの恐怖」ではなく、店を続ける設計

鳥貴族の410円改定を見て、RBRが中小飲食店に伝えたいのは、「怖がらずに上げよう」という単純な話ではありません。上げるなら、数字と現場とお客様の納得をつなげて上げよう、という話です。
価格を上げても、お客様が離れることはあります。これは避けられない現実です。ただ、価格を上げずに品質が落ち、スタッフが疲れ、経営者の資金が尽きていくなら、それもまたお客様を失う道です。
店を続けるためには、必要な粗利があります。粗利が足りなければ、広告も打てず、設備も直せず、スタッフも育てられず、経営者の時間も削られます。安さで守っているつもりが、実は店の未来を削っていることがあります。
もちろん、値上げだけですべてが解決するわけではありません。仕入れの見直し、メニュー数の整理、オペレーションの改善、廃棄の削減、予約導線の整備、スタッフ配置の見直し。価格改定は、そうした改善と一緒に行うことで意味を持ちます。
まず行うなら、主要メニューを10品選び、今の原価、提供数、粗利、作業負担を並べてみてください。そして、価格を変える商品、量や構成を見直す商品、あえて価格を据え置く商品を分けます。全部を一律に上げる必要はありません。店の価値を作っている商品と、利益を支えている商品を分けて考えることが大切です。
そのうえで、値上げの言葉を整えます。お客様に何を伝えるのか。スタッフに何を共有するのか。メニュー表、店頭、SNS、予約サイトで表現がずれていないか。価格改定は、数字の変更であると同時に、店の姿勢を外へ出す作業です。
鳥貴族の20円改定は、大手チェーンのニュースです。しかし、そこから中小店が学べることはあります。価格は、店の生き方を映します。安く見せるために現場を削るのか。適正な価格で、料理と人と営業を守るのか。
値上げしても選ばれる店は、価格を上げた店ではありません。上げた後も、お客様に「また来よう」と思ってもらえる理由を残せる店です。その理由を作ることこそ、これからの飲食店経営の仕事だとRBRは考えます。
※本稿は2026年9月15日に確認できた公式発表をもとに、RBRの視点で飲食店経営への示唆を整理したものです。本文中の計算例は説明用の仮定であり、実在店舗の実績ではありません。掲載画像はAI生成のイメージで、実在の店舗・スタッフの記録写真ではありません。
この記事を書いた人 Wrote this article
新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性
RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。