
- 1. 1.イオンの担当者から聞いた、意外な一言
- 2. 2.そもそも「蕎麦チェーンがない」は間違い
- 3. 3.「蕎麦の商品が弱い」という仮説も成立しない
- 4. 4.小木曽製粉所という重要な存在
- 5. 5.ここで「丸亀製麺」と比較すると違いが見える
- 6. 6.フードコートは普通の飲食店とは違う
- 7. 7.フードコートが集めるのは「蕎麦を食べたい人」ではない
- 7-1. ショッピングモールへの来館目的は「食事」とは限らない
- 7-2. 「何を食べるか決めていない人」が大量にいる
- 7-3. 飲食店側から見れば、とんでもなく大きな市場
- 7-4. フードコートで強いのは「未決定客」を取れる業態
- 7-5. 蕎麦は「目的来店」では非常に強い
- 7-6. 「蕎麦を食べる予定ではなかった人」を取れるか
- 7-7. 「選ばれる力」には二種類ある
- 7-8. 丸亀製麺の強さは「うどん好き」だけでは説明できない
- 7-9. 蕎麦は「分かる人には分かる」が弱点になる可能性がある
- 7-10. 「美味しい蕎麦を作る」だけでは解決しない理由
- 7-11. フードコートで本当に奪い合っているもの
- 7-12. 蕎麦が弱いのではない。「変換力」の問題ではないか
- 8. 8.「見るだけで美味しい」が重要になる
- 9. 9.実は「10坪でどれだけ売るか」の戦い
- 10. 10.フードコートでは「月商」だけ見ても足りない
- 10-1. 客数 × 客単価 × ピーク処理能力
- 10-2. 月商1,000万円という数字だけでは何も分からない
- 10-3. 街場なら「営業時間全体」で売上を作れる
- 10-4. 休日の昼に需要が一気に押し寄せる
- 10-5. 50人並んだ時に、何分で処理できるのか
- 10-6. 「行列がある=良い店」とは限らない
- 10-7. 売上の天井は「席数」ではなく厨房が作る
- 10-8. 100人来ても、60食しか作れなければ60食しか売れない
- 10-9. 客単価を上げるだけでもダメ
- 10-10. 「高単価=高売上」とは限らない
- 10-11. A店
- 10-12. B店
- 10-13. 本当に見るべきなのは「1時間当たり売上」
- 10-14. だから丸亀製麺のオペレーションは経営的に面白い
- 10-15. では蕎麦は、ピークで何食出せるのか
- 10-16. ピーク処理能力は「人気になった後」に効いてくる
- 10-17. 「人気」より先に「最大処理能力」を設計する
- 10-18. フードコートの売上は「需要」ではなく「処理能力」で止まる
- 10-19. フードコートは「60分の戦争」である
- 11. 11.冷たい蕎麦には「品質と生産性」のジレンマがある
- 12. 12.リンガーハットを見ると「フードコート業態」の意味が分かる
- 12-1. 専門店として考えると、少し不思議に見える
- 12-2. 家族4人が来た時、本当に競っているのは「4食」である
- 12-3. フードコートでは「来店客数」より「注文参加率」が重要になる
- 12-4. 4人から1食と、4人から4食では売上がまるで違う
- 12-5. だから「ナポリタン」が意味を持つ
- 12-6. ちゃんぽんを売ることだけが目的ではない
- 12-7. 街場の専門店なら「尖る」ことが武器になる
- 12-8. フードコートでは専門性が「注文を逃す理由」にもなる
- 12-9. 「専門性より注文参加率」という考え方
- 12-10. 丸亀製麺が強い理由ともつながる
- 12-11. では蕎麦専門店はどうなのか
- 12-12. 「客層の幅」が、ここで数字になる
- 12-13. フードコートでは「専門店」の意味そのものが変わる
- 13. 13.蕎麦は「蕎麦を食べる人」の中で商品を増やしている
- 13-1. 商品数は増えている。しかし市場は広がっているのか
- 13-2. 「メニューを増やす」と「市場を広げる」は違う
- 13-3. 家族4人で考えると分かりやすい
- 13-4. ここが丸亀製麺との違いになる
- 13-5. リンガーハットはもっと分かりやすい
- 13-6. 蕎麦業態の多くは「縦」に商品開発している
- 13-7. フードコートで必要なのは「横に広げる商品開発」
- 13-8. これは「蕎麦屋が蕎麦をやめる」という話ではない
- 13-9. 「蕎麦の商品開発」と「蕎麦業態の開発」は違う
- 13-10. フードコートで必要なのは「客層を増やす商品」
- 13-11. 商品開発のKPIが違う
- 13-12. 「売れる蕎麦」ではなく「売上を広げる商品」
- 13-13. 蕎麦は「選ばれた後」の商品開発に強い
- 13-14. フードコートでスパークするなら、必要なのは「業態開発」
- 14. 14.蕎麦アレルギーも無視できない
- 15. 15.だから「肉つけ蕎麦」でも解決しなかった
- 15-1. 肉つけ蕎麦は、間違いなく商品として強い
- 15-2. それでも「蕎麦を食べる人」の中にいる
- 15-3. ロードサイドでは、それでも十分に強い
- 15-4. フードコートでは「店の前」まで競争が続く
- 15-5. 「強い商品」の定義が立地によって変わる
- 15-6. ロードサイドとフードコートでは、集客の構造が逆
- 15-7. 肉つけ蕎麦の成功を、そのまま移植できない理由
- 15-8. ここまでの話を全部当てはめてみる
- 15-9. 商品力だけでは、フードコートの壁を越えられない
- 15-10. 必要なのは「商品移植」ではなく「業態再設計」
- 15-11. 料理が同じでも、立地が変われば商売は別物になる
- 15-12. だから「肉つけ蕎麦」でも解決しなかった
- 16. 16.「商品力」と「業態力」は違う
- 17. 商品力と業態力を分けて考える
- 17-1. 100点の商品を作っても、100点の業態にはならない
- 17-2. 業態開発とは「制約条件の中で最大化すること」
- 17-3. 料理人は「一皿」を見る。経営者は「1時間」を見る
- 17-4. 「一番美味しい作り方」が「一番強い業態」とは限らない
- 17-5. 丸亀製麺の強さも「うどんが美味しい」だけでは説明できない
- 17-6. 強いチェーンは「料理」ではなく「システム」を持っている
- 17-7. 蕎麦に足りないのは「もっと美味しい蕎麦」なのか
- 17-8. 問題は「何を作るか」から「どう売るか」へ移る
- 17-9. 商品力 × 業態力
- 17-10. 飲食店経営者が見るべきもの
- 17-11. 「商品力」と「業態力」は似ているようで、まったく違う
- 18. 17.飲食店は「何を売るか」だけでは決まらない
- 18-1. 同じ商品でも、立地が変われば勝ち方が変わる
- 18-2. 「売れる商品」をそのまま持ってきても売れるとは限らない
- 18-3. 売れている理由は「商品以外」にあるかもしれない
- 18-4. 「何が売れているか」より「なぜそこで売れるのか」
- 18-5. 飲食店を見る時の6つの要素
- 18-6. 1.商品
- 18-7. 2.客層
- 18-8. 3.利用動機
- 18-9. 4.オペレーション
- 18-10. 5.坪数
- 18-11. 6.立地
- 18-12. 「商品」ではなく「組み合わせ」で勝敗が決まる
- 18-13. 繁盛店は「商品が強い」のではなく「整合性が高い」
- 18-14. 「いい商品なのに売れない」の正体
- 18-15. 「立地が悪い」で終わるのも違う
- 18-16. 強い商品を探すより、強い組み合わせを作る
- 18-17. 「あの店が売れているから真似しよう」は危険
- 18-18. 飲食店経営者が本当に見るべきもの
- 19. 18.RBRとしての最終見解
――蕎麦が弱いのではない。「立地×業態」で考える飲食店経営
1.イオンの担当者から聞いた、意外な一言

先日、イオンのフードコートに出店する飲食店を探している担当者と話す機会がありました。
その時、非常に興味深い話を聞きました。
「蕎麦で、フードコートで大きく当たった業態を、まだ見たことがないんですよね」
この言葉を聞いた時、私は少し不思議に感じました。
なぜなら、蕎麦は決してマイナーな料理ではないからです。
日本人にとって、蕎麦は定番中の定番です。
駅に行けば立ち食い蕎麦がある。
街を歩けば昔ながらの蕎麦屋がある。
ロードサイドにも蕎麦店がある。
年越し蕎麦のように、日本の食文化そのものに深く入り込んでいる料理でもあります。
さらに、蕎麦という業態そのものがチェーン化できないわけでもありません。
「ゆで太郎」のように200店舗を超える規模まで成長した蕎麦チェーンも存在します。
つまり、
「蕎麦には需要がない」
という話ではないのです。
むしろ、ここが面白いところです。
ラーメンはフードコートにある。
うどんもある。
ちゃんぽんもある。
丼もある。
カレーもある。
ステーキもある。
たこ焼きもある。
そして、全国のショッピングモールを見渡せば、これらのカテゴリーには「フードコートの勝ち組」と呼べるようなチェーンがいくつも存在しています。
ところが蕎麦になると、景色が少し変わります。
もちろん、フードコートに蕎麦店が存在しないわけではありません。
地域単位で繁盛している店もありますし、蕎麦を扱う複合業態もあります。
しかし、
「フードコートの蕎麦といえば、このブランド」
と全国的に認識されるような、絶対的な存在はなかなか思い浮かびません。
これは少し奇妙です。
蕎麦そのものには市場がある。
チェーン化の実績もある。
日本人にも馴染みがある。
提供時間も比較的短い。
一見すると、フードコートとの相性は悪くなさそうに見えます。
それなのに、なぜか大きな勝ち組が生まれていない。
ここで私は、一つの疑問を持ちました。
もしかすると、「蕎麦」という商品に問題があるのではなく、「蕎麦屋」という業態とフードコートの構造が噛み合っていないのではないか。
飲食店は、料理がおいしければどこでも売れるわけではありません。
同じ商品でも、
駅前で売れる商品。
ロードサイドで売れる商品。
繁華街で売れる商品。
住宅街で売れる商品。
そして、
フードコートで売れる商品。
それぞれ条件が違います。
フードコートという場所には、フードコート特有の「勝ち方」があります。
では、蕎麦はその勝ち方のどこで引っかかっているのでしょうか。
価格なのか。
客単価なのか。
家族需要なのか。
子ども需要なのか。
視認性なのか。
メニューの分かりやすさなのか。
それとも、蕎麦という料理そのものが持つ「利用動機」に原因があるのでしょうか。
イオンの担当者から聞いた、たった一言。
「蕎麦で、フードコートで大きく当たった業態をまだ見たことがない」
この言葉を起点に調べていくと、単なる「蕎麦屋の話」では終わらない、かなり面白い構造が見えてきました。
なぜ丸亀製麺はフードコートで強いのに、蕎麦では同じような巨大ブランドが生まれないのか。
なぜロードサイドでは繁盛する蕎麦業態が、フードコートでは同じ勝ち方ができないのか。
そして、
フードコートで本当に売れているのは「料理」なのか、それとも別の何かなのか。
ここから、一つずつ検証していきます。
2.そもそも「蕎麦チェーンがない」は間違い

まず最初に、一つ誤解を潰しておきます。
「蕎麦はチェーン化しにくいから、フードコートでも大手が生まれないのではないか」
という考えです。
これは少し違います。
なぜなら日本には、すでに複数の蕎麦チェーンが存在しているからです。
代表的な業態を見てみましょう。
| ブランド・業態 | 主な特徴 |
|---|---|
| ゆで太郎 | 200店舗を超える規模まで拡大。街場・ロードサイドなどで展開 |
| 富士そば | 首都圏の駅前・繁華街を中心に強い立ち食い蕎麦モデル |
| 小木曽製粉所 | 二八蕎麦をセルフ方式で提供。ショッピングセンターなどにも展開 |
| 肉つけ蕎麦系 | 肉・つけ汁・ボリュームを武器に若者や男性にも蕎麦需要を拡張 |
これを見るだけでも、
「蕎麦はチェーン化できない」
という仮説は成立しません。
むしろ蕎麦には、すでにいくつもの成功モデルがあります。
蕎麦は「売れない料理」ではない
例えば、駅前型です。
駅を利用するビジネスパーソンに対して、
早い・安い・一人で入りやすい。
この需要に蕎麦は非常によく合います。
注文してから短時間で提供でき、食事時間も比較的短い。
一人客との相性もいい。
だから駅前や繁華街では、立ち食い蕎麦という巨大な市場が成立しました。
ロードサイドでは、また少し違ったモデルが成立します。
駐車場を用意し、座席を増やし、蕎麦だけではなく丼や天ぷらなどを組み合わせる。
すると、
「短時間で蕎麦を食べる店」から「食事をする店」へと利用目的を広げることができます。
さらにセルフ方式を導入すれば、注文・配膳などのオペレーションを軽くすることもできます。
肉つけ蕎麦のように、
「蕎麦=あっさりした和食」
という従来のイメージを崩した業態も登場しています。
肉を大量に盛る。
濃いめのつけ汁にする。
ラー油を効かせる。
ボリュームを出す。
こうすることで、従来の蕎麦屋では取り込みにくかった若者や男性客にも利用動機を作ることができます。
つまり蕎麦という商品は、決して弱くありません。
成功しているのは「蕎麦」ではなく「利用シーン」ではないか
ここで重要なのは、各業態がどこで成功しているのかです。
整理すると、かなり面白いことが見えてきます。
駅前
通勤途中。
仕事中の昼食。
移動途中。
一人飯。
時間がない。
だから、
「早く食べたい」×「蕎麦」
が成立する。
ロードサイド
車で移動している。
昼食を食べたい。
一人の場合もあれば家族の場合もある。
ある程度メニューを選びたい。
だから、
「日常の食事」×「蕎麦+丼+天ぷら」
が成立する。
肉つけ蕎麦
普通の蕎麦では少し物足りない。
しっかり食べたい。
若い男性にも選んでもらいたい。
だから、
「ガッツリ食べたい」×「蕎麦」
が成立する。
こうして考えると、
蕎麦チェーンが成功している理由は、単純に「蕎麦がおいしいから」だけではありません。
その場所にいる人の利用目的と、蕎麦という商品をうまく結びつけているからです。
ここが、今回のテーマを考える上で非常に重要だと思います。
では、フードコートでは何が違うのか
ここまで整理すると、最初に聞いたイオン担当者の話がさらに面白くなります。
蕎麦には市場がある。
蕎麦チェーンも存在する。
200店舗を超える規模まで拡大した企業もある。
セルフサービスとの相性も悪くない。
提供スピードも速い。
丼や天ぷらを組み合わせれば、客単価を上げることもできる。
一見すると、
フードコートで戦う条件はかなり揃っているように見えます。
それなのに、
「フードコートの蕎麦といえばここ」
という全国規模の圧倒的ブランドがなかなか生まれない。
なぜでしょうか。
ここで、
「蕎麦そのものに問題がある」
という考え方から、一度離れる必要があります。
もしかすると問題は、蕎麦ではありません。
問題なのは、
蕎麦が強い「利用シーン」と、フードコートという場所で発生する「利用シーン」がズレていることではないか。
ということです。
駅前で蕎麦を食べる人と、
ショッピングモールのフードコートで昼食を食べる人。
同じ「昼食」であっても、その時のお客様の心理はまったく同じではありません。
誰と来ているのか。
何をしに来ているのか。
どれくらい時間があるのか。
何店舗と比較するのか。
子どもは一緒なのか。
「早く食べたい」のか。
それとも、
「せっかく来たから何か食べたい」のか。
この違いを見なければ、
なぜ蕎麦が駅前では強く、フードコートでは絶対的な勝ち組になりにくいのか
は見えてきません。
そこで次は、
そもそもフードコートでは、どんな業態が勝っているのか。
ここを見ていきます。
蕎麦だけを眺めていても、蕎麦が勝てない理由は分かりません。
勝っている店と比較して初めて、フードコートという市場の特殊性が見えてきます。
3.「蕎麦の商品が弱い」という仮説も成立しない

では次に、
「単純に、蕎麦の商品力が弱いのではないか」
という可能性を考えてみます。
これも、一見するとありそうな話です。
フードコートには、非常に分かりやすい商品が並んでいます。
ラーメン。
うどん。
ステーキ。
たこ焼き。
ハンバーガー。
丼。
カレー。
それらと比較すると、蕎麦は少し地味に見える。
だったら、
もっとインパクトのある蕎麦を作ればいいのではないか。
そう考えたくなります。
しかし、蕎麦業界を見ていくと、この仮説もそれほど単純ではありません。
蕎麦業界は、すでにかなり商品開発をしている
昔ながらの蕎麦屋を想像すると、
ざる蕎麦。
かけ蕎麦。
天ぷら蕎麦。
鴨南蛮。
このあたりが中心だったかもしれません。
しかし現在の蕎麦業界は、それだけではありません。
これまで様々な企業や店舗が、蕎麦という商品の可能性を広げようとしてきました。
例えば、
- 肉つけ蕎麦
- ラー油蕎麦
- 太麺
- 大盛無料
- 天ぷら
- 丼セット
- 店内製麺
- 二八蕎麦
- セルフサービス
などです。
かなり色々なことをやっています。
特に面白いのが、肉つけ蕎麦やラー油蕎麦です。
従来の蕎麦が持っていた、
「軽い」
「上品」
「あっさり」
「年齢層が高い」
といったイメージから離れ、
肉を大量に乗せる。
麺を太くする。
濃い味のつけ汁にする。
ラー油を入れる。
大盛にする。
こうすることで、
ラーメンやつけ麺を好む若い男性にも選択肢を広げています。
つまり、
「蕎麦だから若者に弱い」
という問題についても、すでに業界側はかなり対応してきたわけです。
「量が少ない」なら量を増やした
蕎麦の弱点としてよく考えられるのが、
ボリューム感です。
ざる蕎麦一枚では物足りない。
特に若い男性ならそう感じる人もいるでしょう。
しかし、これについても対策はすでにあります。
大盛無料。
特盛。
肉増量。
天ぷら。
かき揚げ。
ミニ丼。
カツ丼。
親子丼。
天丼。
こうした商品を組み合わせれば、十分に一食として成立します。
むしろ、
「蕎麦+丼」
という組み合わせは、日本の外食では昔から定番です。
客単価を上げる方法もある。
満腹感を作る方法もある。
セット販売もできる。
蕎麦単品だけで商売しなければならない理由はありません。
「商品価値が伝わらない」なら製法も見せてきた
もう一つ考えられるのが、
蕎麦の価値が分かりにくい
という問題です。
そこで、
店内製麺。
挽きたて。
打ちたて。
茹でたて。
二八蕎麦。
国産蕎麦粉。
こうした「製法」や「素材」を前面に出す店も増えました。
単純に蕎麦を出すのではなく、
「なぜ、この蕎麦を食べる価値があるのか」
まで商品化しているわけです。
これは、うどん業界で成功した考え方ともかなり近いものがあります。
オペレーションも改善されている
さらに重要なのが、提供方法です。
フードコートでは、
注文を受ける。
調理する。
商品を渡す。
お客様自身が席まで運ぶ。
食べ終わったら返却する。
というセルフサービスとの相性が重要になります。
しかし、ここについても蕎麦業界はすでに対応しています。
セルフ方式の蕎麦店も存在します。
券売機も使える。
短時間で茹でることもできる。
天ぷらを陳列することもできる。
丼とのセット販売もできる。
つまり、
「蕎麦はフードコートのオペレーションに向かない」
とも単純には言い切れません。
ロードサイドでは、実際に強い蕎麦商品が存在する
そして何より重要なのが、
実際に蕎麦を主力商品として成立している店舗があることです。
例えば太鼓亭など、ロードサイドを中心に蕎麦を含む和食・麺業態を展開している企業があります。
ここが非常に重要です。
もし蕎麦そのものの商品力が弱いのであれば、
立地を変えても売れないはずです。
ところが現実には、
駅前では成立する。
街場でも成立する。
ロードサイドでも成立する。
セルフでも成立する。
肉つけ蕎麦でも成立する。
つまり、
蕎麦という料理そのものに、致命的な商品力不足があるとは考えにくい。
考えられる商品改良は、かなり試されている
ここまでを整理してみます。
| 想定される弱点 | すでに行われている対策 |
|---|---|
| 若者に弱い | 肉つけ蕎麦・ラー油蕎麦 |
| ボリュームが弱い | 大盛無料・肉増量 |
| 単価が低い | 天ぷら・丼セット |
| 商品価値が伝わりにくい | 二八蕎麦・店内製麺・素材訴求 |
| メニューが地味 | 肉・天ぷら・丼との組み合わせ |
| オペレーションが重い | セルフサービス・券売機 |
| 一人客中心 | セット商品・ロードサイド展開 |
こうして見ると、
蕎麦業界は決して何もしてこなかったわけではありません。
むしろ、
考えられる商品改良は、かなり試されている。
それでもなお、
フードコートを代表するような巨大蕎麦ブランドはなかなか生まれていません。
ここまで来ると、
「もっと美味しい蕎麦を作ればいい」
「もっと太い蕎麦にすればいい」
「もっと肉を乗せればいい」
「もっと安くすればいい」
という話では説明できなくなってきます。
問題は「商品」ではないのではないか
これは飲食店経営で非常によく起きることです。
売れない。
すると、
商品を変えようとする。
味を変える。
量を増やす。
価格を下げる。
新商品を作る。
メニューを増やす。
もちろん商品改善は重要です。
しかし、
商品を改善しても解決しない問題もあります。
今回の蕎麦も、そこに近いのではないでしょうか。
蕎麦チェーンは存在する。
成功している蕎麦店も存在する。
商品開発も行われている。
ボリュームも作れる。
客単価も上げられる。
セルフサービスにもできる。
それなのに、
フードコートでは絶対的な勝ち組になりきれない。
だとすれば、
次に疑うべきなのは商品ではありません。
「その商品が、どこで、誰に、どんな状況で選ばれているのか」
です。
つまり、
「もっと強い蕎麦を作れば解決する」という単純な話ではない。
ここからようやく、
今回のテーマの核心に近づいていきます。
では、フードコートという場所そのものに、どんな特殊性があるのでしょうか。
次は「蕎麦」ではなく、
フードコート側からこの問題を見てみます。
4.小木曽製粉所という重要な存在

ここで、この問題を考えるうえで無視できない蕎麦チェーンがあります。
小木曽製粉所です。
なぜ小木曽製粉所が重要なのか。
それは、これまで考えてきた、
「蕎麦だから難しいのではないか」
という仮説を、かなりの部分で否定してくれる存在だからです。
小木曽製粉所の業態を分解すると、非常に興味深いことが分かります。
- 二八蕎麦
- 店内製麺
- 茹でたて
- 締めたて
- セルフサービス
- 天ぷら
- 大盛対応
- ショッピングセンターへの出店
つまり、
「本格的な蕎麦」と「チェーンオペレーション」の両立を、かなり高いレベルで実現している業態なのです。
「蕎麦は職人が必要だから難しい」は本当なのか
蕎麦をチェーン化しようとすると、必ず出てきそうなのが、
「蕎麦は職人の技術が必要だから、多店舗展開には向かない」
という話です。
確かに昔ながらの蕎麦店を想像すると、そう感じます。
蕎麦粉を扱う。
水分量を調整する。
蕎麦を打つ。
切る。
茹でる。
冷水で締める。
こうした工程には技術が必要です。
職人によって品質が変わるのであれば、全国どこでも同じ商品を提供しなければならないチェーン店には不利になります。
しかし、小木曽製粉所を見ると、
この問題は少なくとも**「解決不可能な問題ではない」**ことが分かります。
店内で製麺しながら、チェーンとして運営する。
二八蕎麦という商品価値も訴求する。
茹でたて、締めたてで提供する。
つまり、
「蕎麦の品質を上げるとチェーン化できない」
とは言い切れないわけです。
「セルフサービスに向かない」も違う
次に考えられるのが、
蕎麦はセルフサービスとの相性が悪いのではないか
という仮説です。
しかし、これも小木曽製粉所を見ると成立しにくくなります。
セルフ方式で注文する。
商品を受け取る。
天ぷらなどを追加する。
会計する。
お客様自身が席まで運ぶ。
この構造は、フードコートで求められるオペレーションと非常に近いものです。
しかも、
天ぷらという追加商品があります。
これは経営的にも重要です。
蕎麦だけなら客単価に限界があります。
しかし、
海老天。
かき揚げ。
ちくわ天。
野菜天。
さらにご飯もの。
こうした商品を追加できれば、
お客様自身に客単価を組み立ててもらうことができます。
この構造自体は、丸亀製麺にも非常に近い。
「蕎麦では満腹にならない」にも対応できる
蕎麦について考えた時、
もう一つ出てきそうなのが、
「蕎麦は量が少ないから、フードコートでは選ばれにくい」
という問題です。
しかし、これについても対応できます。
大盛にする。
天ぷらを追加する。
ご飯ものを追加する。
肉を乗せる。
セット商品を作る。
つまり、
蕎麦だから必ず「軽い食事」になるわけではありません。
設計次第で十分なボリュームを作ることができます。
「フードコートでは蕎麦を作れない」も成立しない
さらに決定的なのが、
実際にショッピングセンターやフードコートへの出店が行われていることです。
ここは非常に重要です。
もし、
排水設備。
製麺設備。
茹で釜。
提供スピード。
人員配置。
セルフオペレーション。
こうした物理的な条件によって、
「そもそも蕎麦屋はフードコートでは成立しない」
のであれば、話は簡単です。
しかし実際には出店できています。
つまり、
フードコートで蕎麦業態を運営すること自体は可能なのです。
ここまで来ると、かなり多くの仮説が消えていきます。
| 仮説 | 小木曽製粉所を見ると |
|---|---|
| 蕎麦はチェーン化できない | チェーン展開できる |
| 職人が必要だから多店舗化できない | 店内製麺とチェーン運営を両立できる |
| セルフに向かない | セルフ方式で運営できる |
| 商品力が弱い | 二八蕎麦・茹でたて・締めたてを訴求できる |
| ボリュームが弱い | 大盛・天ぷらなどで補える |
| 客単価を上げられない | 天ぷら・サイド商品を追加できる |
| フードコートでは調理できない | 実際にSC・フードコートへ出店できる |
かなり逃げ道がなくなってきました。
そして、ここで丸亀製麺が浮かび上がる
小木曽製粉所の業態を見ていると、ある巨大チェーンを思い出します。
丸亀製麺です。
店内製麺。
茹でたて。
セルフサービス。
天ぷら。
トッピング。
大盛対応。
ショッピングセンター・フードコートへの出店。
もちろん商品は、
蕎麦と、うどん。
という違いがあります。
しかし業態構造だけを抜き出してみると、かなり似ています。
極端に単純化すれば、
丸亀製麺
店内製麺
↓
茹でる
↓
セルフで受け取る
↓
天ぷらを追加する
↓
会計
↓
食べる
小木曽製粉所
店内製麺
↓
茹でる
↓
締める
↓
セルフで受け取る
↓
天ぷらを追加する
↓
会計
↓
食べる
かなり近い。
それなのに、
事業規模には大きな差があります。
なぜ「蕎麦の丸亀製麺」にはなっていないのか
ここが、今回私が最も面白いと感じているところです。
もし、
「蕎麦は職人が必要だから」
という理由なら、小木曽製粉所の存在でかなり否定できます。
「セルフサービスにできないから」
でもない。
「店内製麺できないから」
でもない。
「天ぷらとの相性が悪いから」
でもない。
「フードコートに出店できないから」
でもない。
「大盛にできないから」
でもない。
つまり、
丸亀製麺が成功した仕組みをかなりの部分まで蕎麦でも再現することはできる。
それでも、
「蕎麦の丸亀製麺」と呼べるほど巨大なフードコートブランドにはなっていない。
だとすれば、
問題は製麺機でも、
職人でも、
セルフサービスでも、
天ぷらでもない可能性が高くなります。
もっと根本的なところに違いがあるのではないでしょうか。
同じ仕組みでも、同じ結果にはならない
飲食店経営では、ここを間違えることがあります。
繁盛店を見て、
「この商品が売れている」
「このオペレーションがいい」
「この価格がいい」
「このセルフ方式がいい」
と表面的な仕組みを真似する。
しかし、
仕組みをコピーしたからといって、同じ結果になるとは限りません。
なぜなら、お客様はオペレーションを買っているわけではないからです。
店内製麺だから食べる。
セルフだから食べる。
天ぷらが並んでいるから食べる。
もちろん、それらも選ばれる理由の一部でしょう。
しかし、それだけで丸亀製麺ほどの巨大市場が作れるのであれば、
同じ構造を持つ蕎麦業態も、もっと大きくなっていていいはずです。
ところが、そうなっていない。
ならば見るべきなのは、
「店がどう作っているか」ではなく、「お客様がどう選んでいるか」
なのではないでしょうか。
小木曽製粉所という存在は、
「蕎麦でも、ここまではできる」
ことを証明しています。
そして同時に、
「ここまでやっても、丸亀製麺と同じ結果にはならない」
という、もっと重要な問いを私たちに突きつけています。
では、
蕎麦とうどんでは、お客様から見た時に一体何が違うのでしょうか。
ここからが、この検証の本丸です。
5.ここで「丸亀製麺」と比較すると違いが見える

ここまで検証してきて、
一つ分かったことがあります。
蕎麦はチェーン化できる。
セルフサービスにもできる。
店内製麺もできる。
天ぷらも売れる。
大盛にもできる。
ショッピングセンターにも出店できる。
つまり、
「蕎麦だからフードコートでは商売にならない」
という単純な話ではありません。
そこで視点を変えてみます。
蕎麦そのものを見るのではなく、
フードコートの巨大成功業態と比較してみる。
その代表として、丸亀製麺を考えてみます。
ただし、
「蕎麦とうどん、どちらがおいしいのか」
という料理の比較ではありません。
比較したいのは、
フードコートという市場で、どれだけ多くのお客様を取れる業態なのか。
という点です。
丸亀製麺と蕎麦専門業態を「客層」で比較する
かなり単純化していますが、仮説として整理するとこうなります。
| 利用者・特性 | 丸亀製麺 | 蕎麦専門業態 |
|---|---|---|
| 一人客 | ◎ | ◎ |
| 高齢者 | ◎ | ◎ |
| 若者 | ◎ | △〜○ |
| 女性 | ◎ | △〜○ |
| 子ども | ◎ | △ |
| ファミリー | ◎ | △〜○ |
| サイド販売 | ◎ | ○ |
| 視覚的訴求 | ◎ | △ |
| ピーク処理 | ◎ | 要検証 |
| 目的来店 | ○ | ◎ |
| 衝動選択 | ◎ | △ |
もちろん、これは個別店舗の優劣を表したものではありません。
蕎麦が好きな若者もいます。
蕎麦が好きな女性もいます。
家族全員が蕎麦好きという家庭もあるでしょう。
ここで見たいのは個人の嗜好ではなく、
「業態として、どこまで広い客層を取り込める可能性があるのか」
です。
この視点に立つと、少しずつ違いが見えてきます。
一人客だけを見ると、蕎麦はむしろ強い
まず、一人客。
ここでは蕎麦は非常に強い。
一人で入りやすい。
注文が早い。
食べるのも早い。
重すぎない。
昼食として使いやすい。
これは駅前の立ち食い蕎麦が長年成立してきたことからも分かります。
高齢者との相性もいい。
つまり、
一人客×日常食
という市場では、蕎麦は決して丸亀製麺に大きく劣っているとは考えにくい。
問題はここからです。
フードコートでは「一人の好み」だけでは決まらない
駅前の蕎麦店とフードコートには、決定的な違いがあります。
駅前で一人なら、
「今日は蕎麦を食べよう」
で店を決められます。
しかしショッピングモールでは、
夫婦。
親子。
祖父母と孫。
友人同士。
カップル。
こうした複数人での利用が増えます。
ここで飲食店選びの構造が変わります。
自分が蕎麦を食べたいか。
だけではありません。
一緒にいる人も、その店の商品を食べたいか。
これが重要になります。
特に子どもが加わると、この問題は大きくなります。
子どもを取れるかどうかは想像以上に大きい
うどんは、かなり早い段階から子どもが食べられる料理です。
味も比較的シンプル。
麺も食べやすい。
取り分けもしやすい。
温かいうどんもある。
冷たいうどんもある。
天ぷらもある。
おにぎりもある。
つまり、
子どもの食事を含めて家族全体の注文を成立させやすい。
ここはフードコートでは非常に大きな強みになります。
対して蕎麦の場合、
「子どもが積極的に蕎麦を選ぶか」
というところで、うどんほどの普遍性を持てているのかは考える必要があります。
もちろん蕎麦を食べる子どもはいます。
しかし問題は、
「食べられるか」ではなく「選ばれやすいか」
です。
この違いは大きい。
ファミリーを取れると、商圏が一気に広がる
ここからさらに重要なことが見えてきます。
例えば4人家族がフードコートに来たとします。
父親は蕎麦が好き。
母親は何でもいい。
子ども二人は蕎麦を選ばない。
この場合、
蕎麦専門店が獲得できる可能性がある注文は1食です。
ところが、
父親も食べる。
母親も食べる。
子どもも食べる。
という業態なら、
最大4食を獲得できます。
つまり、
同じ来館者数でも、業態によって獲得できる注文数が変わる可能性がある。
ここが非常に重要です。
フードコートは、
単純な「何人来たか」ではなく、
その来館者の中から何人を自店のお客様にできるのか
という競争でもあるからです。
丸亀製麺は「誰でも何か見つかる」が強い
丸亀製麺の商品構成を見ると、この幅が非常に広い。
温かいうどん。
冷たいうどん。
シンプルな商品。
肉系の商品。
濃い味の商品。
天ぷら。
おにぎり。
トッピング。
少量でも食べられる。
しっかり食べることもできる。
そのため、
「今日はこれなら食べてもいい」
という着地点を作りやすい。
ここが、専門店でありながら非常に強いところです。
「うどんが大好きな人」だけを取っているのではありません。
うどんを嫌いではない大量の人まで取れる。
この差は、商売ではものすごく大きい。
フードコートでは「衝動選択」が起きる
もう一つ重要なのが、
目的来店と衝動選択の違いです。
街場の蕎麦店なら、
「今日は蕎麦を食べよう」
と決めて来店するお客様が多くなります。
つまり蕎麦には、
目的来店を作れる強さ
があります。
これは非常に大きな武器です。
ところがフードコートでは状況が違います。
ラーメン。
うどん。
ステーキ。
丼。
カレー。
ハンバーガー。
たこ焼き。
様々な店が目の前に並んでいます。
そこで初めて、
「何を食べようかな」
と考えるお客様が大量にいます。
つまりフードコートでは、
目的来店だけではなく、
その場で比較され、その場で選ばれる力
が必要になります。
丸亀製麺は「見ただけで分かる」
ここで視覚的訴求も効いてきます。
天ぷらが並んでいる。
大きなかき揚げが見える。
肉が乗っている。
卵が乗っている。
ネギを入れる。
天かすを入れる。
商品が出来上がっていく。
丸亀製麺には、
注文から完成までに視覚情報が非常に多い。
しかも、
「これも取ろうかな」
という追加購入がその場で発生します。
フードコートを歩いているお客様に対して、
店の前を通った瞬間に商品を理解させることができます。
これは広告として考えても強い。
一方、蕎麦はどうでしょうか。
ざる蕎麦。
かけ蕎麦。
二八蕎麦。
店内製麺。
蕎麦粉の品質。
これらは商品価値としては非常に高い。
しかし、
通路を歩いている数秒間で、その価値がどこまで伝わるのか。
ここは別問題です。
「美味しい」と、
「一瞬で食べたくなる」は、
同じではありません。
ここで初めて「取れる客数の幅」が見えてくる
ここまで考えると、
丸亀製麺と蕎麦専門業態の違いを、
「うどんの方が蕎麦より人気だから」
で終わらせる必要がなくなります。
もっと経営的に考えることができます。
例えば、
蕎麦専門業態
蕎麦を食べたい人に対して強い。
一方で、
丸亀製麺
うどんを食べたい人だけでなく、「何を食べるかまだ決めていない人」にも強い。
この違いです。
ここで一つの仮説が生まれます。
フードコートで強い業態とは、熱狂的に好きな人が多い業態ではなく、選択肢から外す人が少ない業態なのではないか。
これはかなり重要な視点です。
「100人中何人に売れるか」で考える
極端な例で考えてみます。
フードコートの前を100人が通ったとします。
その中に、
蕎麦が大好きな人が20人いる。
そして、その20人から高い確率で選ばれる。
これは強い商品です。
しかし残り80人の多くが、
「今日は蕎麦じゃない」
と思ったらどうでしょうか。
一方、
熱狂的なうどん好きはそれほど多くなくても、
100人のうち、
「うどんなら食べてもいい」
という人が70人いる。
フードコートでは、
後者の方が巨大業態になりやすい可能性があります。
なぜなら、
商圏の来館者をより広く顧客化できるからです。
これが、
「取れる客数の幅」
という考え方です。
フードコートでは「嫌われない強さ」が武器になる
飲食店では通常、
「誰に刺さる商品を作るか」
を考えます。
もちろん、それは正しい。
しかしフードコートのように、
大量のお客様が来て、
複数店舗が並び、
その場で比較される市場では、
もう一つ別の強さがあります。
それが、
選択肢から外されにくいことです。
子どもでもいい。
高齢者でもいい。
男性でもいい。
女性でもいい。
軽くてもいい。
ガッツリでもいい。
一人でもいい。
家族でもいい。
温かくてもいい。
冷たくてもいい。
こうした利用者を幅広く拾えるほど、
一つのフードコートから獲得できる客数は増えていきます。
だから私は、
蕎麦と丸亀製麺の違いは、
単純な料理としての強さではないのではないかと考えています。
違うのは、「取れる客数の幅」です。
蕎麦は弱い料理ではありません。
むしろ目的来店を作れるほど強い。
しかし、
「蕎麦を食べたい人に強いこと」と「フードコートにいる大量のお客様から選ばれること」は、同じ能力ではありません。
そして、この違いこそが、
「なぜ蕎麦には丸亀製麺のような巨大フードコート業態が生まれにくいのか」
を考える重要な手掛かりになるのではないでしょうか。
では次に、
フードコートでは、そもそも誰が店を選んでいるのか。
ここをもう少し深く考えてみます。
一人客を取る商売と、
家族全員の選択肢に入る商売。
この違いを掘ると、
蕎麦がフードコートで抱える問題が、さらに見えてきます。
6.フードコートは普通の飲食店とは違う

ここまで考えてきて、ようやく今回の記事の核心に入ります。
なぜ、街場やロードサイドでは成立する蕎麦業態が、フードコートでは圧倒的な勝ち組になりにくいのか。
私は、この問題を考える時、
そもそもフードコートを「普通の飲食店と同じ市場」と考えてはいけない
のではないかと思います。
競争のルールそのものが違うからです。
街場の蕎麦屋は「蕎麦を食べたい人」を集めればいい
例えば、街場に蕎麦屋を出したとします。
お客様は、
「今日のお昼は蕎麦にしよう」
「美味しい蕎麦が食べたい」
「この近くに蕎麦屋はないかな」
と考えて店を探します。
Googleマップで検索するかもしれません。
食べログを見るかもしれません。
以前行った蕎麦屋を思い出すかもしれません。
そこで比較されるのは、
近隣の蕎麦店。
和食店。
あるいは、その日の昼食候補です。
つまり店側は、
「蕎麦を食べたい人」を自分の店まで連れてくればいい。
この場合、
蕎麦専門店であることはむしろ強みになります。
二八蕎麦。
十割蕎麦。
店内製麺。
挽きたて。
打ちたて。
茹でたて。
こうした専門性を高めれば、
「蕎麦ならこの店」
という目的来店を作ることができます。
ロードサイドでも基本構造は似ています。
看板を見て、
「あそこに蕎麦屋がある」
と認識してもらう。
駐車場に入ってもらう。
店内に入ってもらう。
つまり、
店そのものを目的地にできる。
ここでは専門性が武器になります。
ところがフードコートでは、店が目的地ではない
ショッピングモールでは事情が変わります。
そもそも多くのお客様は、
蕎麦を食べるためだけにショッピングモールへ来ているわけではありません。
買い物に来た。
映画を見に来た。
子どもの服を買いに来た。
日用品を買いに来た。
家族で出かけてきた。
そして昼になった。
「そろそろ何か食べようか」
となる。
そこでフードコートへ行きます。
つまり、
飲食店側から見ると非常に重要な違いがあります。
街場では、
「何を食べるか」→「どの店に行くか」
という順番になりやすい。
ところがフードコートでは、
「ここで食べる」→「さて、何を食べようか」
という順番が起こります。
この違いは大きい。
フードコートでは異業種が全部競合になる
フードコートへ入ると、
お客様の目の前には複数の選択肢があります。
ラーメン。
うどん。
ちゃんぽん。
ステーキ。
ハンバーガー。
たこ焼き。
丼。
そして蕎麦。
これらが、
同じ場所で、同じ時間に、同じお客様を奪い合っています。
ここでは、
蕎麦屋の競合は蕎麦屋ではありません。
ラーメン屋も競合。
うどん屋も競合。
ステーキ屋も競合。
ハンバーガーショップも競合。
たこ焼き屋も競合です。
極端に言えば、
フードコートに入った瞬間、隣にあるすべての飲食店が競合になる。
これが街場との決定的な違いです。
「蕎麦屋として強い」だけでは足りない
例えば、非常に美味しい蕎麦を出す店があったとします。
二八蕎麦。
店内製麺。
茹でたて。
締めたて。
つゆにもこだわる。
蕎麦好きから見れば、素晴らしい店です。
街場なら、
「蕎麦を食べるならここ」
というポジションを取れるかもしれません。
しかしフードコートでは、それだけでは勝負が決まりません。
なぜなら、
隣から肉を焼く香りがする。
反対側には巨大な天丼の写真がある。
鉄板ではステーキが焼けている。
ラーメンの湯気が上がっている。
子どもがハンバーガーを指差している。
その横には、うどんと天ぷらが並んでいる。
その状態で比較されます。
だから問われているのは、
蕎麦屋として強いかどうかではない。
10店舗の中から選ばれるかどうか。
ここです。
比較対象が変われば「強い商品」の意味も変わる
これは飲食店経営では非常に重要な考え方です。
例えば、
地域で一番美味しい蕎麦。
これは強い商品です。
しかし、
フードコートで一番選ばれる商品。
これは別の能力です。
「美味しい」
だけではありません。
見た瞬間に分かる。
食欲を刺激する。
価格が理解できる。
子どもも食べられる。
男性も満足できる。
女性も選びやすい。
高齢者も食べられる。
サイド商品を追加できる。
提供が早い。
一緒に来た人と意見が割れにくい。
こうした要素が複雑に重なって、
「その場で選ばれる力」
になります。
つまり、
料理としての競争力と、フードコート業態としての競争力は同じではありません。
専門性が高いほど強い、とは限らない
街場では、
専門性を高めることが強みになる場合があります。
蕎麦専門店。
ラーメン専門店。
とんかつ専門店。
うなぎ専門店。
「これを食べるなら、この店」
という理由を作れるからです。
ところがフードコートでは、
専門性を高めれば必ず強くなるとは限りません。
専門性を高めるということは、
「刺さる人」が明確になる一方で、「自分には関係ない」と判断する人も増える可能性がある
からです。
前章で考えた、
「取れる客数の幅」
がここで効いてきます。
フードコートでは、
100人に強烈に刺さる店より、
1,000人が
「ここでもいい」
「今日はこれにしよう」
と思える店の方が強い場合があります。
言い換えれば、
目的来店を作る力より、比較された時に脱落しない力が重要になる。
これがフードコートの特殊性です。
フードコートは「比較購買」が極端に起こる市場
普通の飲食店では、
店に入った後で、
「やっぱり隣の店にしよう」
とはなかなかなりません。
しかしフードコートでは違います。
店頭メニューを見る。
隣を見る。
価格を見る。
料理写真を見る。
行列を見る。
もう一度別の店を見る。
家族に聞く。
「何食べる?」
「うどんがいい」
「俺は肉がいい」
「私は軽いのでいい」
こうして、
数十秒から数分の間に複数店舗が比較されます。
しかも、その比較コストがほぼゼロです。
数メートル歩けば別の店があります。
これは飲食店として考えると、かなり特殊な環境です。
ネット通販の商品一覧に近い部分さえあります。
商品写真。
価格。
ブランド。
ボリューム。
待ち時間。
それらを横並びで比較され、
最後に一店舗がクリックされる。
フードコートでは、それがリアル空間で起きています。
だから「立地×業態」で考えなければならない
ここまで来ると、
なぜ蕎麦の商品改良だけを考えても答えが出なかったのかが分かってきます。
蕎麦自体が弱いわけではありません。
街場では強い。
駅前でも強い。
ロードサイドでも成立する。
目的来店も作れる。
しかし、
立地がフードコートに変わった瞬間、競争ルールが変わる。
同じ商品でも、
どこで売るかによって競争相手が変わる。
競争相手が変われば、
お客様が比較する基準も変わる。
だから、
「良い商品を作れば売れる」ではなく、「その立地で選ばれる商品になっているか」を考えなければならない。
これは蕎麦だけの話ではありません。
飲食店経営そのものに通じる話です。
蕎麦が弱いのではなく「戦場が違う」
ここまでの検証から、
私は一つの仮説にたどり着きます。
蕎麦は弱い商品ではありません。
蕎麦チェーンも作れる。
店内製麺もできる。
セルフ化もできる。
天ぷらも売れる。
ロードサイドでも成功できる。
それでもフードコートでは圧倒的な勝ち組になりにくい。
その理由は、
蕎麦の品質が低いからではなく、フードコートという戦場が「蕎麦専門店としての強さ」をそのまま評価してくれる場所ではないからではないか。
街場なら、
「今日は蕎麦を食べよう」
という人を取ればいい。
フードコートでは、
「何を食べよう」
という人を、
ラーメン、うどん、ステーキ、ハンバーガー、丼、たこ焼きなどと奪い合わなければならない。
だから競争ルールそのものが違います。
蕎麦屋として強いかどうかではない。
10店舗の中から選ばれるかどうか。
この視点に立つと、
なぜ丸亀製麺がフードコートで強く、
なぜ蕎麦専門業態が苦戦しやすいのか。
その理由が、少しずつ見えてきます。
そして次に考えなければならないのが、
その「10店舗から選ばれる力」は、具体的に何によって決まるのか。
ここを分解すると、
フードコートという業態の本当の難しさが見えてきます。
7.フードコートが集めるのは「蕎麦を食べたい人」ではない

前章では、
フードコートでは蕎麦屋同士が競争しているのではなく、
ラーメン、うどん、ステーキ、ハンバーガー、丼、たこ焼きなど、そこに並ぶすべての業態と同時に比較される
という話をしました。
では、なぜそんな競争になるのでしょうか。
理由は単純です。
そもそもショッピングモールに来ている人の多くは、「蕎麦を食べるため」に来ているわけではないからです。
ここが、街場の蕎麦店との大きな違いです。
ショッピングモールへの来館目的は「食事」とは限らない
ショッピングモールには、様々な目的を持った人が集まります。
洋服を買いに来た。
スーパーで買い物をする。
家電を見る。
子どもの用品を買う。
映画を見る。
ゲームセンターへ行く。
家族で休日を過ごす。
特に目的はないけれど、とりあえず来た。
そして買い物をしている途中で、
「お腹が空いたね」
となります。
あるいは、
子どもが、
「お腹空いた」
と言い始める。
そこで初めて、
「じゃあ何か食べようか」
となるわけです。
つまり、飲食店から見ると非常に面白い市場です。
食事を目的としていなかった人が、突然、飲食店のお客様になる。
「何を食べるか決めていない人」が大量にいる
ここで重要なのは、
「お腹が空いた」
と、
「蕎麦が食べたい」
はまったく違うということです。
例えば街場の蕎麦屋なら、
「蕎麦が食べたい」
↓
「蕎麦屋を探す」
↓
「この店にしよう」
という流れを作れます。
しかしフードコートでは、
「お腹が空いた」
↓
「フードコートに行こう」
↓
「何食べる?」
となります。
この時点では、
まだ料理が決まっていません。
ラーメンでもいい。
うどんでもいい。
丼でもいい。
ハンバーガーでもいい。
ステーキでもいい。
そしてもちろん、
蕎麦でもいい。
つまりフードコートには、
「何を食べるか決めていない人」
が大量に流れ込んできます。
私は、ここがフードコートという市場を考える上で非常に重要だと思います。
飲食店側から見れば、とんでもなく大きな市場
普通の飲食店なら、
店の存在を知ってもらう。
興味を持ってもらう。
来店理由を作る。
店まで来てもらう。
ここまでやって、ようやくお客様になります。
広告費も必要です。
Googleマップも必要です。
SNSも必要です。
口コミも必要です。
看板も必要です。
ところがフードコートでは、
施設側が大量のお客様を連れてきてくれます。
しかも、その中には、
「今から何か食べます」
という人が大量にいる。
飲食店から考えれば、これほど魅力的な環境はありません。
ただし、条件があります。
そのお客様は、
あなたの店で食べるとは決めていない。
ここです。
フードコートで強いのは「未決定客」を取れる業態
そこで重要になるのが、
未決定客を取る力
です。
例えば、
100人がフードコートに入ってきたとします。
その100人全員が、
「何を食べるか決めていない」
とします。
この100人に対して、
どれだけ、
「あ、これ食べよう」
と思わせられるか。
これがフードコートでは非常に重要になります。
だから、
単純な料理の完成度だけでは勝負が決まりません。
商品写真。
看板。
価格。
ボリューム。
香り。
調理風景。
行列。
ブランド認知。
メニューの分かりやすさ。
子どもが食べられるか。
一緒に来た人が食べられるか。
そして、
見た瞬間に食欲が動くか。
こうしたものが全部、購買決定に影響します。
蕎麦は「目的来店」では非常に強い
ここで蕎麦について考えてみます。
私は、蕎麦にはかなり強い力があると思います。
それが、
目的来店を作る力です。
「今日は蕎麦が食べたい」
と思った人に対して、
二八蕎麦。
十割蕎麦。
店内製麺。
挽きたて。
茹でたて。
締めたて。
こうした言葉は非常に強く響きます。
蕎麦好きなら、
「ここで食べよう」
となる。
だから街場やロードサイドでは、
専門性を高める戦略が成立します。
蕎麦を食べたい人を取る力は強い。
問題は、その次です。
「蕎麦を食べる予定ではなかった人」を取れるか
フードコートに来た家族がいます。
父親は特に決めていない。
母親も特に決めていない。
子どもはお腹が空いている。
そこで店を見て回る。
肉がジュージュー焼けている。
巨大なハンバーガーの写真がある。
ラーメンから湯気が出ている。
揚げたての天ぷらが並んでいる。
たこ焼きを焼いている。
その中に蕎麦専門店がある。
ここで問われるのは、
「蕎麦が好きか」ではありません。
「今まで蕎麦を食べようと思っていなかった人を、その瞬間に蕎麦へ動かせるか」
です。
これはまったく別の能力です。
「選ばれる力」には二種類ある
飲食店の集客力を考える時、
私はこの二つを分けて考えた方がいいと思います。
| 選ばれる力 | 意味 |
|---|---|
| 目的客を取る力 | 「これを食べたい」と決めている人から選ばれる |
| 未決定客を動かす力 | 「何を食べるか決めていない人」に食べたいと思わせる |
蕎麦専門店は、
目的客を取る力が非常に強い。
だから、
「美味しい蕎麦が食べたい」
という人が存在する場所では強い。
しかしフードコートで巨大業態になるには、
それだけでは足りません。
大量に存在する、
「別に蕎麦を食べる予定ではなかった人」
まで取る必要があります。
ここで、うどん、ラーメン、肉料理、ハンバーガーなどとの競争が始まります。
丸亀製麺の強さは「うどん好き」だけでは説明できない
ここで再び丸亀製麺を考えてみます。
丸亀製麺がフードコートで強い理由を、
「日本人はうどんが好きだから」
だけで説明するのは難しいと思います。
もちろん、うどんそのものの間口の広さはあります。
しかし、それだけではありません。
店の前を通る。
麺が見える。
湯気が見える。
天ぷらが並んでいる。
かき揚げが見える。
肉が乗った商品写真がある。
価格を見る。
「これなら食べようかな」
となる。
そして列に並んでいる途中にも、
天ぷらを見る。
おにぎりを見る。
トッピングを見る。
注文する直前まで、
食欲を刺激する情報が連続しています。
つまり、
「今日は丸亀製麺を食べよう」
と決めていなかった人でも、
店の前を通った結果、
うどんを食べる人に変わる。
ここが非常に強い。
蕎麦は「分かる人には分かる」が弱点になる可能性がある
一方で蕎麦の商品価値には、
少し説明を必要とするものがあります。
二八蕎麦。
蕎麦粉の産地。
挽き方。
香り。
喉越し。
茹で加減。
締め方。
これらは蕎麦好きにとって、とても重要です。
しかし、
何を食べるか決めていない家族がフードコートを歩いている時、
それを理解するために何十秒も立ち止まってくれるでしょうか。
おそらく、多くのお客様はもっと速く判断します。
「美味しそう」
「子どもも食べそう」
「これならお腹いっぱいになりそう」
「この値段ならいい」
そのくらいのスピードで選びます。
つまり、
専門性の高さと、
瞬間的な購買力は、
必ずしも一致しません。
「美味しい蕎麦を作る」だけでは解決しない理由
ここまで来ると、
第3章で考えた、
「もっと強い蕎麦を作ればいい」
という考え方が、なぜ十分ではないのかも見えてきます。
二八にする。
店内製麺にする。
肉を増やす。
ラー油を入れる。
大盛にする。
天ぷらを増やす。
もちろん全部、商品力を高める施策です。
しかし、
それだけでは、
「蕎麦を食べる予定ではなかった人を振り向かせる力」
が強くなったとは限りません。
ここは商品開発というより、
業態開発の問題
なのかもしれません。
フードコートで本当に奪い合っているもの
フードコートで各店舗が奪い合っているのは、
単純な「蕎麦需要」や「ラーメン需要」ではありません。
もっと手前にある、
「まだ何を食べるか決めていない人の一食」
です。
この市場は大きい。
だからこそ、
未決定客を大量に自分の商品へ変換できる業態は強くなります。
反対に、
目的来店には強くても、
未決定客の転換率が低ければ、
施設そのものに大量の来館者がいても、その恩恵を十分に受けられません。
ここに、
街場で強い蕎麦業態と、
フードコートで強い業態の違いがあるのではないでしょうか。
蕎麦が弱いのではない。「変換力」の問題ではないか
ここまでの話を一言で整理すると、
こうなります。
蕎麦専門業態は、「蕎麦を食べたい人」を取る力は強い。
しかし、
「蕎麦を食べる予定ではなかった人を、蕎麦を食べる人に変える力」では、他業態に負けている可能性がある。
私は、ここにフードコート蕎麦の大きな課題があるのではないかと考えています。
これは、
蕎麦が美味しいかどうか。
二八か十割か。
店内製麺かどうか。
という話とは違います。
来館者を顧客に変える力の問題です。
ショッピングモールは大量のお客様を連れてきてくれます。
しかし、
その人たちを自店のお客様に変えられるかどうかは、業態側の仕事です。
そしてフードコートで巨大化するためには、
「蕎麦好き」を増やすだけでは足りない。
目の前を歩いている、
「今日は何を食べようかな」
という人を、
その場で振り向かせなければならない。
では、
人はフードコートで何を見て、「これを食べよう」と決めるのでしょうか。
ここをさらに分解すると、
蕎麦専門業態が抱えている、もう一つの問題が見えてきます。
8.「見るだけで美味しい」が重要になる

前章では、フードコートには、
「何を食べるか決めていない人」
が大量にいるという話をしました。
そして、フードコートで強い業態には、
その未決定客を、
「これを食べよう」
と動かす力が必要になります。
では、人は何を見て食べるものを決めるのでしょうか。
ここで、フードコート特有の競争が見えてきます。
それが、
「食べる前の競争」です。
フードコートでは、料理を食べる前に勝負が終わる
フードコートを歩いてみると、ものすごい量の食欲刺激があります。
隣を見る。
肉が焼けている。
鉄板から煙が上がっている。
ジュージューという音が聞こえる。
ラーメン店には、大きなチャーシューが乗った写真がある。
うどん店には、揚げたての天ぷらが並んでいる。
ハンバーガーショップには、肉とチーズが重なった巨大な商品写真がある。
たこ焼き店では、目の前でたこ焼きが焼かれている。
丼店には、器からはみ出しそうな肉や天ぷらが乗っている。
そこに、
ざる蕎麦。
もちろん、美味しい。
しかし、
フードコートではここで一つ大きな問題が発生します。
まだ食べてもらっていない。
蕎麦の本当の価値は「食べた後」に分かるものが多い
蕎麦には、非常に多くの価値があります。
例えば、
二八蕎麦。
蕎麦粉と小麦粉の割合によって、食感や香りが変わります。
石臼挽き。
蕎麦粉の風味や香りを大切にする製法です。
茹でたて。
茹で置きとは食感が違います。
締めたて。
冷水で締めることで、蕎麦の食感が生まれます。
そして、
香り。
喉越し。
これこそ蕎麦の魅力です。
ところが、これらには一つ共通点があります。
食べないと分かりにくい。
「二八」は写真に写らない
例えば、
二八蕎麦と普通の蕎麦を写真に撮って並べたとします。
蕎麦に詳しい人なら違いが分かるかもしれません。
しかし、何を食べるか決めていない一般のお客様が、
数メートル離れた店頭から見て、
「これは二八だから美味しそうだ」
と判断するでしょうか。
難しいと思います。
石臼挽きも同じです。
石臼挽きという価値そのものは、料理写真には写りません。
香りも写らない。
喉越しも写らない。
締めたての食感も写らない。
つまり蕎麦には、
説明しなければ伝わらない価値
と、
食べなければ分からない価値
が非常に多いのです。
一方で、肉は説明しなくても強い
ここで、鉄板系の商品を考えてみます。
目の前で肉が焼かれている。
ジュージュー音がする。
煙が出る。
脂が跳ねる。
ソースがかかる。
これを見て、
「これはどういう製法なんだろう」
と考える必要はありません。
見れば分かります。
「美味しそう。」
それで終わりです。
たこ焼きも同じです。
目の前で焼いている。
ひっくり返している。
ソースを塗る。
鰹節が動いている。
これも説明はいりません。
ハンバーガーも、
肉。
チーズ。
ソース。
バンズ。
断面。
写真一枚でかなりの商品価値を伝えられます。
フードコートでは「説明不要」が強い
これはフードコートでは非常に重要です。
なぜなら、お客様は一店舗ずつじっくり商品説明を読んでくれるわけではないからです。
歩きながら見る。
隣を見る。
子どもと話す。
価格を見る。
また隣を見る。
「あっちも見てみよう」
となる。
一店舗に与えられる時間は非常に短い。
その短い時間で、
「美味しそう」
と思わせなければなりません。
つまり、
フードコートでは商品そのものの美味しさだけではなく、
「美味しさがどれだけ速く伝わるか」
まで競争力になります。
「美味しい」と「美味しそう」は違う
飲食店経営では、この二つを分けて考えた方がいいと思います。
美味しい料理。
そして、
美味しそうな料理。
同じように見えますが、役割が違います。
美味しい料理は、
食べたお客様を満足させる力。
美味しそうな料理は、
まだ食べていないお客様を動かす力。
街場の目的来店型店舗なら、
口コミや評判によって、
「美味しいらしい」
という情報を事前に持って来店してもらうことができます。
しかしフードコートでは、
何を食べるか決めていない人を、その場で動かさなければなりません。
だから、
「美味しい」だけではなく「美味しそう」が必要になる。
蕎麦は、この競争で構造的に不利なのではないか
ここで蕎麦に戻ります。
ざる蕎麦を考えてみます。
きれいに盛られた蕎麦。
薬味。
つゆ。
非常に美しい料理です。
しかし、
巨大な肉。
溶けたチーズ。
湯気。
炎。
揚げ物。
ソース。
鉄板。
こうした商品と横並びになった時、
視覚刺激という一点では、どうしても地味になりやすい。
もちろん、
だから蕎麦が劣っているという話ではありません。
料理としての価値軸が違うだけです。
蕎麦は、
香り。
食感。
喉越し。
つゆ。
蕎麦粉の風味。
こうした繊細な価値を楽しむ料理です。
しかし、
その繊細さが、フードコートという環境では弱点になる可能性がある。
「食べれば分かる」は、食べてもらわなければ始まらない
飲食店経営者がよく言う言葉があります。
「一度食べてもらえれば分かる。」
確かに、その通りの商品はたくさんあります。
食べれば美味しい。
食べれば違いが分かる。
食べればリピーターになる。
しかし経営として考えると、
その前に一つ大きな壁があります。
では、どうやって最初の一回を食べてもらうのか。
ここです。
フードコートでは特に、
この最初の一回を、
隣に並ぶ何店舗もの飲食店と奪い合っています。
だから、
「食べれば分かる」
だけでは足りません。
食べる前に分からせなければならない。
蕎麦の価値は「後から効く」
少し整理してみます。
| 商品・業態 | 食べる前に伝わりやすい価値 |
|---|---|
| 鉄板肉料理 | 焼ける音・煙・肉・ボリューム |
| ラーメン | 湯気・チャーシュー・スープ・具材 |
| ハンバーガー | 肉・チーズ・断面・高さ |
| たこ焼き | 調理風景・ソース・湯気 |
| 天ぷら | 揚げた見た目・大きさ・陳列 |
| 蕎麦 | 見た目だけでは品質差が伝わりにくい |
一方、蕎麦が強いのは、
| 蕎麦の価値 | 伝わるタイミング |
|---|---|
| 香り | 食べる時 |
| 喉越し | 食べた時 |
| コシ | 食べた時 |
| 締めたて | 食べた時 |
| 蕎麦粉の風味 | 食べた時 |
| 二八・石臼挽き | 知識・説明+実食 |
つまり、
蕎麦は「食べた後に評価される価値」の比率が高い。
ここに、フードコートとの難しい関係があるのではないでしょうか。
フードコートでは「商品力」だけでなく「商品力の可視性」が必要になる
ここまで来ると、
「商品力」という言葉そのものを少し分解する必要があります。
料理が美味しい。
品質が高い。
素材がいい。
技術がある。
これらは当然重要です。
しかしフードコートでは、それとは別に、
その商品力が、食べる前のお客様に見えているか
という問題があります。
私はこれを、
「商品力の可視性」
と考えると分かりやすいと思います。
100点の商品を作っていても、
店頭から30点にしか見えなければ、未決定客には30点の商品として比較されます。
逆に、
実際の商品力を視覚、音、香り、ボリューム、調理風景によって瞬間的に伝えられる業態は、
フードコートでは非常に強い。
だから、
美味しい商品を作ることと、美味しさが見える商品を作ることは別の経営課題です。
「見るだけで美味しい」が武器になる
フードコートでは、
隣で肉が焼けています。
その隣では天ぷらが揚がっています。
さらに隣では、たこ焼きが焼かれています。
大きな商品写真があります。
湯気があります。
音があります。
香りがあります。
その中で、
蕎麦は戦わなければなりません。
蕎麦の価値である、
「二八」
「石臼挽き」
「香り」
「喉越し」
「締めたて」
は、
その多くが、
食べれば分かる価値です。
しかしフードコートでは、
食べる前に選ばれなければならない。
この順番の違いこそ、
蕎麦専門業態がフードコートで抱える、
大きな構造的不利の一つなのではないでしょうか。
そして、この問題は蕎麦だけではありません。
どれだけ素晴らしい商品を作っていても、
その価値がお客様に伝わるタイミングが「購入後」なのであれば、購入前の競争では負ける可能性がある。
飲食店経営では、
「何を作るか」だけではなく、
「食べる前に、どう価値を伝えるか」
まで設計しなければならないのです。
9.実は「10坪でどれだけ売るか」の戦い

ここまで、
客層。
利用シーン。
目的来店。
衝動選択。
商品の視覚的訴求。
と、お客様側からフードコートを見てきました。
しかし、もう一つ重要な視点があります。
それが、
施設側から見たフードコートです。
ここから少し、料理の話を離れて経営の話をします。
フードコートは「小さな厨房+巨大な共用客席」である
今回、私が調べたイオン藤井寺ショッピングセンターの募集区画を見ると、フードコートの専用区画は約10坪という規模でした。
また、フードコート型の飲食店では、リンガーハットなどでも10坪級の区画で営業する事例があります。
ここで改めて考えてみると、
フードコートというのは非常に特殊な飲食店です。
普通の飲食店なら、
厨房。
客席。
通路。
レジ。
待合スペース。
トイレ。
場合によってはバックヤード。
これらを含めて店舗面積になります。
ところがフードコートでは、
客席を各店舗が持つ必要がありません。
施設側が巨大な共用客席を用意してくれています。
飲食店側が専有するのは、
基本的には、
厨房。
カウンター。
レジ。
商品受け渡しスペース。
つまり、
「小さな厨房+巨大な共用客席」
という、普通の飲食店とはまったく違うモデルになります。
10坪でも、数百席を相手に商売できる
これは飲食店側から考えると、ものすごいことです。
仮に10坪の街場店舗なら、
厨房を作り、
客席を作り、
通路を確保したら、
それほど多くのお客様を収容できません。
ところがフードコートなら、
自分の区画が10坪しかなくても、
目の前には施設が用意した大量の客席があります。
つまり、
10坪の厨房から、何百席という市場に商品を供給できる。
ここにフードコートの圧倒的な坪効率の可能性があります。
しかし当然、
施設側も同じことを考えています。
施設側が貸しているのは「10坪」だけではない
ここが非常に重要です。
テナント側から見ると、
「10坪の区画を借りている」
ように見えます。
しかし施設側からすると、それだけではありません。
大量の駐車場を作っている。
広告を打っている。
館内を管理している。
清掃している。
空調を動かしている。
共用客席を作っている。
警備員を配置している。
イベントを行っている。
そして何より、
毎日大量のお客様を施設まで連れてきています。
飲食店側は、
その集客力に乗って商売をしています。
だから施設側からすると、
単純に、
「家賃を払ってくれる店なら何でもいい」
とはなりません。
限られた区画に、
どの業態を入れれば施設全体の価値を最大化できるのか
を考えることになります。
「黒字なら成功」ではない
ここで飲食店経営者と施設側の視点にズレが生まれます。
飲食店経営者なら、
月商500万円。
原価を引く。
人件費を引く。
賃料を払う。
その他経費を払う。
最後に利益が残った。
「この店は黒字だ」
となります。
経営者から見れば成功です。
しかし、
施設側から見れば必ずしもそうではありません。
なぜなら、
その区画に別の業態を入れたら、
もっと売れる可能性があるからです。
同じ10坪から、いくら売上を作れるか
極端な仮定で考えてみます。
同じフードコートに、
同じ約10坪の区画があります。
そこに入った場合の月商が、
| 業態 | 仮定月商 | 10坪の場合の月間坪売上 |
|---|---|---|
| 蕎麦 | 500万円 | 50万円/坪 |
| ラーメン | 800万円 | 80万円/坪 |
| うどん | 1,000万円 | 100万円/坪 |
だったとします。
※これは構造を説明するための仮定です。
蕎麦店側からすれば、
500万円でも利益が残るのであれば、
「十分に成功している」
と言えるかもしれません。
しかし施設側から見るとどうでしょうか。
同じ10坪。
同じフードコート。
同じ共用客席。
同じ施設集客。
それなのに、
A社なら500万円。
B社なら800万円。
C社なら1,000万円。
を売る。
だとすれば、
その10坪を誰に貸したいか。
答えはかなり明確です。
フードコートは「坪売上」の戦いでもある
ここでフードコートの見え方が変わります。
単純に、
「この蕎麦店は儲かっているか」
を見るだけでは足りません。
重要なのは、
限られた面積から、どれだけ売上を生み出せる業態なのか。
つまり、
坪売上の競争
でもあるわけです。
しかもフードコートの場合、
客席を専有面積として持たない分、
厨房10坪前後から非常に大きな売上を作れる可能性があります。
だからこそ、
その小さな区画の生産性が重要になります。
ここで前章までの話が全部つながる
すると、
なぜここまで、
「取れる客数の幅」
を考えてきたのかがつながります。
子どもを取れる。
ファミリーを取れる。
若者を取れる。
高齢者を取れる。
一人客を取れる。
未決定客を取れる。
衝動選択を取れる。
視覚的に食欲を刺激できる。
サイド商品を追加できる。
これらは単なるマーケティングの話ではありません。
最終的には、
10坪から生まれる売上
に集約されます。
例えば、
客単価が同じ1,000円だったとしても、
1日150人取れる業態と、
1日300人取れる業態では、
売上は倍違います。
だから、
「取れる客数の幅」が広いことは、
そのまま、
区画生産性の高さ
につながる可能性があります。
「蕎麦好きに強い」だけでは施設側には足りない
ここで蕎麦の問題が、また違った形で見えてきます。
蕎麦好きのお客様から圧倒的に支持される。
リピーターも多い。
商品評価も高い。
利益も残る。
街場の飲食店なら、それで十分に素晴らしい店です。
しかしフードコートでは、
もう一つ問われます。
施設が連れてきた大量のお客様を、どれだけ売上に変換できるのか。
蕎麦を食べたい100人から80人を取る業態と、
特定の商品を目的にしていなかった1,000人から200人を取れる業態。
どちらが10坪から大きな売上を作れるのか。
ここまで考えなければなりません。
施設側にとって重要なのは「区画の機会損失」
さらに経営的に考えると、
施設側には機会損失があります。
フードコートの区画数は無限ではありません。
10区画しかなければ、
11店舗目を入れることはできません。
つまり、
ある店を入れるということは、
別の店を入れないという意思決定
でもあります。
月商500万円のテナントを入れた結果、
本来そこに月商1,000万円を作れるテナントを入れられなかった。
この場合、
単純化すれば毎月500万円分の売上機会を逃していることになります。
だから施設側が、
「この10坪から最大でどれくらい売れるのか」
を見るのは当然です。
売上歩合なら、さらに差が出る
商業施設のテナント契約では、契約形態によって売上に連動する賃料が設定されるケースもあります。
そうなれば、
テナント売上の差は、
施設側の収益にも直接影響します。
500万円売る店。
800万円売る店。
1,000万円売る店。
同じ面積なら、
より高い売上を作れるテナントの価値が高くなるのは自然です。
さらに売上だけではありません。
人気店が入れば、
「あの店があるから、このショッピングモールへ行こう」
という来館理由まで作れる可能性があります。
そうなれば飲食テナントは、
単なる家賃を払う店ではなく、
施設全体の集客装置
になります。
だから「店が黒字か」だけを見てはいけない
ここで飲食店経営者として重要な視点があります。
自分の店だけを見ると、
売上500万円。
利益50万円。
だから成功。
となります。
もちろん自社経営としては重要です。
しかし商業施設に入るということは、
施設側の経営にも組み込まれる
ということです。
施設側は、
「この店は黒字なのか」
だけを見ているわけではありません。
それ以上に、
「この区画を、この会社に使わせることが最適なのか」
を考えます。
だからフードコートでは、
単純な店舗利益だけではなく、
区画生産性
という視点が重要になります。
最初に聞いた「一言」の意味が変わってくる
ここで、この記事の最初に戻ります。
イオンの担当者から聞いた、
「蕎麦で、フードコートで大きく当たった業態をまだ見たことがない」
という話。
最初に聞いた時は、
「なぜ蕎麦は売れないのだろう」
という料理の話に聞こえました。
しかし、ここまで考えてくると、
少し違って見えてきます。
問題は、
蕎麦店が黒字になるかどうかではないのかもしれません。
蕎麦専門業態でも、
月商500万円を作り、
利益を残すことはできるかもしれない。
しかし、
同じ10坪で、
ラーメンが800万円。
うどんが1,000万円。
を作れるのであれば、
施設側から見た評価は変わります。
フードコートで求められているのは、
単に、
「成立する飲食店」
ではありません。
限られた区画と、
施設が集めた大量のお客様を使って、
最大の売上を作れる業態
です。
だからフードコートは、
料理の戦いであると同時に、
「10坪でどれだけ売るか」という生産性の戦い
でもある。
そしてこの視点に立つと、
蕎麦専門業態が越えなければならない壁は、
「美味しい蕎麦を作ること」よりも、
ずっと高いところにあるのかもしれません。
10.フードコートでは「月商」だけ見ても足りない

前章では、
フードコートは、
「約10坪から、どれだけ大きな売上を作れるか」
という区画生産性の戦いでもあると書きました。
では、その売上は何によって決まるのでしょうか。
単純に、
「人気がある店だから売れる」
では、経営分析としては少し粗い。
フードコートの売上を考えるなら、少なくとも三つに分解する必要があります。
客数 × 客単価 × ピーク処理能力
私は特に、この三つ目の、
ピーク処理能力
がフードコートでは非常に重要だと考えています。
月商1,000万円という数字だけでは何も分からない
例えば、
月商1,000万円のフードコート店舗があったとします。
数字だけ見れば、
「ものすごく売れている店だ」
となります。
しかし経営者として見るなら、そこで終わってはいけません。
何人のお客様が来ているのか。
客単価はいくらなのか。
平日はどれくらい売れるのか。
土日はどれくらい売れるのか。
そして、
12時から13時の1時間に何食出しているのか。
ここまで見なければ、その店の本当の強さは分かりません。
なぜならフードコートは、
売れる時間が極端に集中しやすい商売
だからです。
街場なら「営業時間全体」で売上を作れる
例えば街場の飲食店なら、
11時に来るお客様。
12時に来るお客様。
13時に来るお客様。
14時に来るお客様。
夜に来るお客様。
ある程度、営業時間全体を使って売上を作ることができます。
もちろんランチピークはあります。
しかし、
地域住民。
仕事中の人。
予約客。
常連客。
夜のお客様。
など、時間帯ごとに違う需要を取り込めます。
だから、
営業時間全体で月商を設計する
という考え方ができます。
ところが大型ショッピングモールのフードコートでは、少し事情が違います。
休日の昼に需要が一気に押し寄せる
例えば日曜日。
11時30分。
少しずつ席が埋まり始める。
12時。
一気に人が増える。
12時15分。
各店舗に行列ができる。
12時30分。
客席もほぼ満席。
13時。
まだ行列が続いている。
そして14時を過ぎると、
徐々に落ち着いてくる。
こうした環境では、
一日の売上を考える時に、
12時から13時の60分をどう処理するか
が非常に重要になります。
なぜなら、
その時間に需要が集中しているからです。
50人並んだ時に、何分で処理できるのか
極端な例で考えてみます。
12時になった瞬間、
店の前に50人のお客様が並びました。
需要はあります。
商品も人気です。
お客様も買いたいと思っています。
では、
その50人を何分で処理できるでしょうか。
ここが問題です。
1人の注文を処理するのに1分かかれば、
単純計算で50分。
もちろん実際には複数人で同時作業するので、そう単純ではありません。
しかし、
注文。
会計。
調理。
盛り付け。
商品受け渡し。
このどこか一つでも詰まれば、
列は進みません。
つまり、
需要があることと、売上にできることは別です。
「行列がある=良い店」とは限らない
飲食店では、
行列ができていると、
「繁盛している」
と思われます。
もちろん人気の証拠ではあります。
しかし経営側から見ると、
少し違った見方も必要です。
例えば、
50人並んでいる。
そのうち30人しか処理できない。
残り20人が、
「時間がかかりそうだから隣にしよう」
と離脱した。
この場合、
その20人は、
需要としては存在したのに、売上にはなっていません。
つまり行列は、
人気の証拠であると同時に、
場合によっては、
処理能力不足による機会損失の可視化
でもあります。
売上の天井は「席数」ではなく厨房が作る
通常の飲食店では、
客席数が売上の上限を作ります。
50席しかなければ、
同時に100組を入れることはできません。
だから、
席数。
回転率。
滞在時間。
が重要になります。
ところがフードコートでは、
客席は施設側が用意しています。
自店専用の50席、100席を持っているわけではありません。
そのため、
自店の売上上限を決めるものが変わります。
厨房です。
もっと正確に言えば、
一定時間内に何食の商品を完成させ、会計し、受け渡せるか。
ここが売上の天井になります。
100人来ても、60食しか作れなければ60食しか売れない
非常に単純化して考えてみます。
12時〜13時に、
100人のお客様が自店の商品を買いたいと思った。
客単価は1,000円。
本来なら、
100人 × 1,000円 = 10万円
の需要があります。
しかし厨房が、
1時間に60食しか処理できなかったらどうでしょうか。
売上にできるのは、
最大でも、
60人 × 1,000円 = 6万円。
残り40人分、
4万円の需要を持っていたのに、売上に変換できない可能性がある。
逆に、
1時間100食を処理できれば、
10万円まで売れる。
120食処理できるなら、
さらに需要を受け止められます。
つまり、
フードコートでは、
集客力と同じくらい処理能力が重要
なのです。
客単価を上げるだけでもダメ
飲食店経営では、
売上を上げようとすると、
「客単価を上げよう」
と考えます。
例えば、
1,000円の商品を、
1,200円にする。
サイド商品を売る。
セット商品を作る。
これはもちろん重要です。
しかしフードコートでは、
客単価を上げた結果、
オペレーションが重くなることがあります。
例えば、
追加商品を一つ増やす。
盛り付け工程が増える。
調理時間が増える。
会計時の選択肢が増える。
すると、
1人当たりの単価は上がっても、
1時間に処理できる人数が減る
可能性があります。
ここが面白いところです。
「高単価=高売上」とは限らない
例えば、
A店
客単価1,000円
ピーク処理能力100人/時
なら、
ピーク1時間売上=10万円
です。
一方、
B店
客単価1,300円
ピーク処理能力60人/時
なら、
ピーク1時間売上=7万8,000円
です。
B店の方が客単価は高い。
しかし、
ピーク時間の売上ではA店に負けます。
つまり、
単価を上げれば売上が上がるとは限らない。
フードコートでは、
客単価と処理能力をセットで考えなければならないのです。
本当に見るべきなのは「1時間当たり売上」
ここから考えると、
月商だけではなく、
ピーク1時間当たり売上
を見る必要があります。
さらに分解すれば、
1時間当たり処理客数 × 客単価
です。
例えば、
| 業態 | 客単価 | 1時間処理客数 | ピーク1時間売上 |
|---|---|---|---|
| A | 900円 | 120人 | 108,000円 |
| B | 1,200円 | 80人 | 96,000円 |
| C | 1,500円 | 50人 | 75,000円 |
※数字は構造を説明するための仮定です。
こうすると、
単価だけでは見えなかった業態の強さが見えてきます。
安くても、とんでもない速度で売れる店は強い。
これがフードコートです。
だから丸亀製麺のオペレーションは経営的に面白い
ここでも丸亀製麺を考えると、
なぜあの業態が強いのかが違って見えてきます。
注文する。
麺を受け取る。
天ぷらを自分で取る。
おにぎりを取る。
会計する。
お客様自身が商品選択の一部を行います。
つまり、
スタッフが一人のお客様に付きっきりになる構造ではありません。
さらに、
メイン商品。
サイド商品。
会計。
という工程を分けることができます。
これは単なるセルフサービスではありません。
大量のお客様を短時間で流すための生産ライン
として見ることができます。
だから、
「セルフだから人件費が安い」
だけで評価すると、本質を見落とします。
重要なのは、
ピーク時間の処理能力を上げられること
です。
では蕎麦は、ピークで何食出せるのか
ここで再び蕎麦に戻ります。
蕎麦の場合、
注文を受ける。
麺を茹でる。
冷たい蕎麦なら締める。
水を切る。
盛り付ける。
つゆを用意する。
トッピングする。
商品を渡す。
もちろんオペレーション設計によって大きく変わります。
だから、
「蕎麦は遅い」
と決めつけることはできません。
小木曽製粉所のようにセルフ方式を実現している業態もあります。
しかしフードコートで巨大売上を狙うなら、
単に、
「問題なく提供できる」
では足りません。
問われるのは、
12時から13時に何食出せるのか。
です。
50食なのか。
80食なのか。
100食なのか。
150食なのか。
この差が、そのまま売上の天井になります。
ピーク処理能力は「人気になった後」に効いてくる
ここも重要です。
店が暇な時には、
オペレーション能力の差はそれほど見えません。
10分に1人来るなら、
多少工程が多くても処理できます。
しかし、
人気店になった瞬間、
状況が変わります。
10人並ぶ。
20人並ぶ。
50人並ぶ。
その時、
業態そのものが持つ処理能力
が露出します。
つまり、
売れない店では見えなかった問題が、
売れる店になった瞬間に現れる。
これは飲食店経営ではよく起こります。
「人気」より先に「最大処理能力」を設計する
だからフードコート業態を作るなら、
「どうやって集客するか」
だけを考えてはいけません。
広告を打つ。
商品を強くする。
看板を目立たせる。
SNSで話題になる。
もちろん重要です。
しかし、
100人のお客様を連れてきた時、
厨房が50人しか処理できないなら、
集客したこと自体が機会損失を作ります。
だから最初から、
「最大何食売れる厨房なのか」
を設計しておく必要があります。
これは、
厨房設計。
機器能力。
メニュー数。
仕込み。
盛り付け。
レジ。
決済。
商品受け渡し。
スタッフ配置。
すべてに関係します。
フードコートの売上は「需要」ではなく「処理能力」で止まる
ここまでを整理すると、
フードコートで売上を作るためには、
三つの壁があります。
1.何人を振り向かせられるか
これまで説明してきた、
客数の幅・視覚的訴求・未決定客の獲得力。
2.一人からいくら売れるか
メイン商品。
天ぷら。
丼。
ドリンク。
セット。
つまり、
客単価。
3.その客を何人処理できるか
そして最後が、
ピーク処理能力。
どれだけ人気があっても、
ここで止まります。
つまり、
フードコートの売上は、
単純な、
客数 × 客単価
だけでは考えにくい。
そこに、
「その需要を何人分、実際の売上へ変換できるのか」
という処理能力の制約があります。
フードコートは「60分の戦争」である
かなり極端な表現をすれば、
フードコートの強さは、
一日の売上だけでは分かりません。
月商だけでも分かりません。
最も客が集中する60分間に、何人のお客様から注文を受け、何食作り、何円売れるのか。
ここに業態の性能が出ます。
街場なら、
営業時間全体を使って月商を作ることができます。
しかし、
休日昼に需要が一気に押し寄せるフードコートでは、
その需要を受け止められる時間は限られています。
だから、
50人並んだ時に、
何分で処理できるのか。
100人来た時に、
何食売れるのか。
ここが売上の天井を決めます。
そして前章の、
「同じ10坪から、いくら売上を作れるか」
という話と組み合わせると、
フードコート業態の本当の競争力は、
かなりシンプルな問いに集約できます。
10坪の厨房で、ピークの60分間に何人を捕まえ、いくら買ってもらい、何食処理できるのか。
料理の美味しさだけを見ていては、
この競争は見えてきません。
11.冷たい蕎麦には「品質と生産性」のジレンマがある

ここまで、
フードコートでは、
ピーク1時間に何食処理できるか
が非常に重要だと書いてきました。
では、この視点から蕎麦を見た時に何が起きるのでしょうか。
ここで一つ、非常に興味深い仮説が出てきます。
それが、
「蕎麦の品質を高めるための工程が、そのままピーク処理能力を下げている可能性がある」
という問題です。
もちろん、これはすべての蕎麦業態に当てはまると断定するものではありません。
設備。
麺の仕様。
茹で時間。
オペレーション。
人員配置。
商品構成。
これらによって処理能力は大きく変わります。
しかし、冷たい蕎麦の基本的な調理工程だけを見ても、考える価値はあります。
冷たい蕎麦は「茹でて終わり」ではない
例えば、ざる蕎麦。
美味しい蕎麦を提供しようとすれば、
麺を茹でる。
↓
洗う。
↓
冷水で締める。
↓
水を切る。
↓
盛り付ける。
という工程が必要になります。
当然です。
むしろ、
美味しい蕎麦を作るためには、きちんとやるべき工程です。
茹で上がった蕎麦をそのまま皿に乗せればいいわけではありません。
表面のぬめりを取る。
冷水で締める。
余計な水分を切る。
適切に盛る。
こうした工程が、
食感。
喉越し。
香り。
見た目。
につながっていきます。
つまり、
料理人から見れば、
削ってはいけない工程
でもあるわけです。
しかし、フードコートでは時間が別の価値を持つ
街場の専門店であれば、
多少時間がかかったとしても、
その工程によって料理の品質が上がるのであれば価値があります。
お客様自身も、
「美味しい蕎麦を食べに来た」
という目的を持っています。
多少待つことを受け入れてくれる可能性もあります。
しかしフードコートは違います。
12時。
一気に20人並ぶ。
さらに10人並ぶ。
その後ろにもお客様が来る。
そこで一食ごとに、
茹でる。
洗う。
締める。
水を切る。
盛る。
という工程が発生します。
この時、
料理として正しい工程が、
経営上は別の意味を持ち始めます。
1食を完成させるために必要な処理時間
になるからです。
1食の数十秒が、ピークでは巨大な差になる
例えば、
ある工程に追加で30秒かかるとします。
1食なら、たった30秒です。
大した違いには見えません。
しかし、
ピーク1時間に100食出そうとしたらどうでしょうか。
単純に考えれば、
30秒 × 100食。
かなり大きな作業量になります。
もちろん実際の厨房では、
複数食を同時に茹でる。
洗う。
盛り付けを並行する。
スタッフで工程を分担する。
といった工夫ができます。
だから一食30秒増えれば、そのまま100食分の時間が加算されるわけではありません。
それでも、
工程が一つ増えるたびに、どこかに処理能力の上限が生まれる可能性があります。
茹で釜なのか。
洗い場なのか。
締めるスペースなのか。
水切りなのか。
盛り付けなのか。
ボトルネックは業態によって違います。
問題は「何秒かかるか」だけではない
さらに重要なのは、
単純な調理時間だけではありません。
冷たい蕎麦の場合、
湯。
水。
氷。
排水。
ザル。
盛り付けスペース。
こうした設備や作業場所も必要になります。
フードコートの専有区画は大きくありません。
前章まで見てきたように、
約10坪級の小さな厨房で大きな売上を作るモデルです。
つまり、
一つ工程が増えることは、時間だけでなく厨房面積も消費する
可能性があります。
ここが重要です。
10坪の中に、
茹で場。
洗い場。
締め場。
盛り付け場。
天ぷら。
丼。
レジ。
受け渡し。
食材保管。
これらを入れなければならない。
すると、
料理として必要な工程が、
厨房設計上の制約
にもなってきます。
「良い蕎麦」を作ろうとするほど工程が増える可能性
ここで少し皮肉な構造が見えてきます。
例えば、
茹で置きをしない。
注文ごとに茹でる。
しっかり洗う。
きちんと締める。
水を切る。
きれいに盛る。
これは、
蕎麦屋としては非常に正しい。
むしろ品質を上げるなら、そうしたい。
しかし、
フードコートという市場から見ると、
一つ疑問が生まれます。
その品質を守りながら、ピークの60分に何食出せるのか。
ここです。
美味しさを追求する。
すると工程が増える。
工程が増えると、
一時間あたりの最大処理数が下がる可能性がある。
最大処理数が下がると、
ピーク売上の上限も下がる。
つまり、
品質を高めるための正しい努力が、売上の天井を低くする可能性がある。
これは非常に面白い矛盾です。
もちろん「品質を落とせ」という話ではない
ここは誤解してはいけません。
だから、
洗わなければいい。
締めなければいい。
茹で置きすればいい。
という話ではありません。
それでは、そもそもの蕎麦の商品価値を壊してしまいます。
むしろ問題は逆です。
品質を守ったまま、どう生産性を上げるか。
これが業態開発です。
例えば、
何食を同時に茹でられるのか。
茹で釜をどう配置するのか。
締め工程をどう標準化するのか。
水切りをどう短縮するのか。
盛り付けを何工程にするのか。
人員をどこに配置するのか。
ピーク時の商品数を絞るのか。
こうした設計が必要になります。
「料理」と「業態」は違う
ここは飲食店経営で非常に重要な部分です。
美味しい料理を作れる。
それと、
その料理を大量に安定して販売できる。
これは別の能力です。
一人の料理人が、
一時間に20食、
ものすごく美味しい蕎麦を作れる。
これは料理として素晴らしい。
しかし、
フードコートで必要なのが、
一時間100食。
150食。
だったとしたら、
そのままでは業態として成立しない可能性があります。
だから、
料理の完成度と、業態の完成度は同じではありません。
フードコートでは「再現性」が品質になる
専門店では、
最高の一杯を作ることが価値になる場合があります。
しかしチェーン店やフードコートでは、
もう一つ重要な品質があります。
それが、
再現性です。
12時05分の蕎麦。
12時30分の蕎麦。
13時00分の蕎麦。
50人並んでいる時の蕎麦。
新人スタッフが入っている時の蕎麦。
すべて一定水準でなければなりません。
しかも、
速く出す。
ここが難しい。
つまり、
フードコートで求められる品質とは、
単に、
「一番美味しい一皿」
ではありません。
「ピーク時にも、一定品質の商品を大量に出し続けられること」
まで含まれます。
品質と生産性は、本来どちらも必要
ここで、
「品質か、生産性か」
という二択にしてしまうと間違います。
どちらも必要です。
品質が低ければ、
一度食べてもらえてもリピートされない。
しかし生産性が低ければ、
人気になった時に売れない。
だからフードコート業態では、
商品品質
×
ピーク生産性
この両方を同時に高めなければなりません。
ここが非常に難しい。
蕎麦には、この二つが衝突しやすい可能性がある
そして私は、
冷たい蕎麦には、
この二つが衝突しやすい構造があるのではないかと考えています。
美味しい蕎麦を作るためには、
茹でる。
↓
洗う。
↓
冷水で締める。
↓
水を切る。
↓
盛る。
という工程が必要になる。
これは、
美味しい蕎麦を作るためには正しい。
しかしフードコートでは、
同時に、
「ピーク1時間で最大何食出せるか」
を求められます。
つまり、
品質を上げるための工程が、そのままピーク処理能力を下げる可能性がある。
これが、
冷たい蕎麦がフードコートで抱えている、
一つの構造的なジレンマなのかもしれません。
本当の問いは「美味しい蕎麦を作れるか」ではない
ここまで来ると、
問いそのものが変わってきます。
「美味しい蕎麦を作れるか」
ではありません。
美味しい蕎麦は作れます。
実際に多くの店が作っています。
本当の問いは、
「美味しい蕎麦を、10坪前後の厨房から、ピーク60分間に何食出せるのか」
です。
しかも、
品質を落とさず。
オペレーションを崩さず。
人件費を膨らませず。
ここまで実現して初めて、
フードコートの巨大業態としての条件が整います。
料理人から見れば、
「どうすればもっと美味しくなるか」
を考える。
しかし経営者は、
その先まで考えなければなりません。
その美味しさを、何食まで売れる仕組みにできるのか。
ここに、
「料理を作ること」と「飲食店を経営すること」の大きな違いがあります。
12.リンガーハットを見ると「フードコート業態」の意味が分かる

ここまで、
フードコートでは、
「何を売っている店なのか」だけを見ても、本当の競争力は分からない
という話をしてきました。
そのことを非常に分かりやすく示しているのが、
リンガーハットです。
リンガーハットと聞けば、多くの人が思い浮かべるのは、
長崎ちゃんぽん。
そして、
長崎皿うどん。
です。
完全に専門業態です。
ところが、フードコートという視点からリンガーハットの商品構成を見ると、少し面白いことが起きています。
フードコート店舗向けのお子さま商品では、
ちゃんぽんだけではなく、
皿うどん。
チャーハン。
さらにナポリタン。
といった選択肢まで用意されています。
ここで一つ疑問が生まれます。
なぜ、ちゃんぽん専門店がナポリタンまで売るのでしょうか。
専門店として考えると、少し不思議に見える
もし、
「リンガーハットとは何の店なのか」
というブランド論だけで考えるなら、
答えは当然、
長崎ちゃんぽんの専門店
です。
だったら、
ちゃんぽんを磨けばいい。
子ども向けにも、小さなちゃんぽんを作ればいい。
専門店なのだから、ちゃんぽんを中心に商品を構成する。
一見すると、その方が筋が通っています。
しかし、
フードコートという商売の構造から考えると、見え方が変わります。
家族4人が来た時、本当に競っているのは「4食」である
例えば、
父親。
母親。
小学生の子ども。
幼児。
という4人家族がフードコートに来たとします。
父親は、
「ちゃんぽん食べようかな」
と思っている。
母親も、
「野菜が多いし、ちゃんぽんでもいい」
となった。
ここまでは2注文取れます。
しかし子どもが、
「ちゃんぽん嫌だ」
と言ったらどうでしょうか。
子どもは隣の店を見る。
ハンバーガーがある。
うどんがある。
ラーメンがある。
カレーがある。
そこで、
「これがいい」
と言う。
すると子どもの1食は、競合店に流れます。
幼児も同じです。
つまり、
家族4人が目の前にいても、
専門商品だけでは、
4人全員から注文を取れるとは限らない。
ここがフードコートでは非常に重要です。
フードコートでは「来店客数」より「注文参加率」が重要になる
普通の飲食店なら、
4人家族が店に入った時点で、
基本的には4人ともその店で注文します。
父親だけハンバーグ店。
母親だけ蕎麦店。
子どもだけラーメン店。
ということはできません。
しかしフードコートではできます。
ここが決定的に違います。
4人でフードコートに来ても、
注文先は、
父親=ちゃんぽん。
母親=蕎麦。
子ども=うどん。
もう一人=ハンバーガー。
と簡単に分かれます。
つまり、
「フードコートに4人来た」ことと、「自店が4食売れる」ことはまったく別です。
そこで私は、
フードコート業態を見る時には、
注文参加率
という考え方が重要ではないかと思います。
家族4人のうち、
1人から注文を取れるのか。
2人なのか。
3人なのか。
4人全員なのか。
この差です。
4人から1食と、4人から4食では売上がまるで違う
極端に単純化してみます。
客単価を1,000円とします。
家族4人が100組、フードコートを利用したとします。
つまり400人です。
業態A
家族4人のうち平均1人が注文。
100組 × 1人 × 1,000円
=10万円
業態B
家族4人のうち平均3人が注文。
100組 × 3人 × 1,000円
=30万円
同じ施設。
同じ来館者。
同じ家族数。
客単価も同じ。
それでも、
家族の中から何人を取れるかだけで売上は3倍になります。
もちろん実際の商売はこれほど単純ではありません。
しかし、
フードコートにおける「取れる客数の幅」を考えるには非常に分かりやすい。
だから「ナポリタン」が意味を持つ
ここでリンガーハットの商品構成に戻ります。
ちゃんぽん。
皿うどん。
これなら当然です。
しかし、
チャーハン。
ナポリタン。
まである。
これを、
「専門店なのに節操なく商品を増やしている」
と見ることもできます。
しかし経営側から見ると、まったく違う解釈ができます。
例えば、
父親はちゃんぽん。
母親は皿うどん。
上の子はチャーハン。
下の子はナポリタン。
こうなれば、
家族4人全員から注文を取れる可能性が生まれる。
だから重要なのは、
ナポリタンがリンガーハットらしいかどうかだけではありません。
ナポリタンがあることで、それまで取れなかった1食を取れるか。
こちらです。
ちゃんぽんを売ることだけが目的ではない
これはかなり重要なところです。
企業としてもちろん、
ちゃんぽんというブランドを大切にする。
商品品質を高める。
専門性を守る。
それは必要です。
しかし、
フードコートという市場で店舗を成立させる目的は、
ちゃんぽんという料理を広めることだけではありません。
店舗経営としては、
目の前にいるお客様から注文を取って、
売上を作り、
利益を残さなければならない。
だから、
「何を専門にしているか」
と、
「誰から注文を取るか」
は分けて考える必要があります。
街場の専門店なら「尖る」ことが武器になる
ここで街場の専門店との違いが出ます。
例えば、
ものすごく美味しいちゃんぽん専門店。
メニューは、
ちゃんぽん。
皿うどん。
以上。
これでも成立する可能性があります。
なぜなら、
その店へ来るお客様は、
ちゃんぽんを食べることを目的に来店する
からです。
むしろメニューを絞ることで、
専門性が高まる。
「あそこはちゃんぽんの店」
という認識が強くなる。
街場では、
専門性が来店理由になります。
ところがフードコートでは、
前章まで見てきたように、
そもそも、
「ちゃんぽんを食べるぞ」
と決めて来る人だけを相手にしているわけではありません。
フードコートでは専門性が「注文を逃す理由」にもなる
例えば、
父親はちゃんぽんが好き。
しかし子どもは嫌い。
この時、
専門性の高い店舗ほど、
子どもが選べる商品がなくなる可能性があります。
すると、
1食逃す。
場合によっては、
「子どもと一緒だから別の店にしよう」
となり、
父親の注文まで逃す可能性もあります。
つまりフードコートでは、
専門性には、
強みと弱みの両方
があります。
専門性が高いから、
目的客には刺さる。
しかし、
専門性が高すぎることで、
一緒に来た人が注文に参加できなくなる。
だから、
「専門店だからメニューを絞ればいい」
とは単純に言えません。
「専門性より注文参加率」という考え方
ここで今回のリンガーハットの例から見えてくる考え方があります。
それが、
専門性より注文参加率
です。
もちろん、
専門性を捨てろという意味ではありません。
ブランドの核は必要です。
リンガーハットなら、
長崎ちゃんぽんという強烈な核があります。
しかし、
フードコート店舗を経営するなら、
その核を守りながら、
一緒に来ている人をどこまで注文に参加させられるか
を考える必要がある。
ちゃんぽんを食べたい父親だけではなく、
ちゃんぽんを食べたくない子どもまで取る。
そのための商品が、
皿うどんかもしれない。
チャーハンかもしれない。
ナポリタンかもしれない。
これは単なるメニュー拡大ではなく、
客数を広げるための業態設計
と見ることができます。
丸亀製麺が強い理由ともつながる
ここで再び丸亀製麺を見ると、
前章までの話ともつながります。
父親は、
肉系のうどん。
母親は、
シンプルなうどん。
子どもは、
小さなうどんと天ぷら。
もう一人は、
うどんとおにぎり。
商品は基本的にうどん業態の範囲内です。
それでも、
家族それぞれに着地点を作りやすい。
だから、
家族4人の中から注文を取れる人数が増える。
リンガーハットのお子さま商品の広さも、
同じ視点で見ることができます。
では蕎麦専門店はどうなのか
そして、この考え方を蕎麦に当てはめてみます。
父親は蕎麦が好き。
母親も蕎麦なら食べる。
しかし、
子どもは蕎麦を選ばない。
もう一人も、
今日は別のものが食べたい。
すると、
家族4人のうち、
蕎麦店が取れるのは1人か2人。
もちろんフードコートなので、
家族全員が同じ店で買う必要はありません。
だから商売としては成立します。
しかし、
前章まで考えてきた、
10坪から最大売上を作る
という視点では、この差が効いてきます。
家族4人のうち1人を取る店。
家族4人のうち3人を取る店。
同じ来館者数なら、
後者の方が圧倒的に客数を作りやすい。
つまり、
蕎麦専門業態の課題は、
「蕎麦好きが少ない」
ことではないのかもしれません。
一つのグループから複数注文を取れる確率が低いこと。
こちらの方が重要なのかもしれません。
「客層の幅」が、ここで数字になる
第5章で、
丸亀製麺と蕎麦専門業態の違いとして、
「取れる客数の幅」
という仮説を出しました。
ここで、それをもう少し経営的に表現できます。
取れる客数の幅とは、
単に、
若者も来る。
高齢者も来る。
女性も来る。
という話だけではありません。
フードコートでは、
一つの来店グループの中から、何人を自店の注文客に変換できるか
でもあります。
これを私は、
注文参加率
と考えています。
例えば4人家族なら、
1人=25%。
2人=50%。
3人=75%。
4人=100%。
この割合が高い業態ほど、
施設が集めた来館者を大量の注文へ変換できます。
そして、
前章まで見てきた、
客単価。
ピーク処理能力。
と組み合わせると、
フードコートの売上構造がかなり見えてきます。
来館者数
× 注文参加率
× 客単価
× 処理能力。
こう考えると、
「なぜ子ども向けにナポリタンまで用意するのか」
という疑問の見え方が変わります。
フードコートでは「専門店」の意味そのものが変わる
街場では、
専門店とは、
一つの商品を深く掘る店
です。
しかしフードコートでは、
専門性だけでは足りない可能性があります。
ブランドの核は明確にする。
しかし、
その核の周囲に、
子ども。
女性。
高齢者。
軽く食べたい人。
しっかり食べたい人。
一緒に来た家族。
が参加できる商品を用意する。
つまり、
「専門性を持ちながら、注文参加率を最大化する」
ことが求められます。
リンガーハットのフードコート向け商品を見ると、
その考え方が非常に分かりやすく見えてきます。
ちゃんぽん専門店なのに、
ちゃんぽんだけを売らない。
なぜなら、
ちゃんぽんを売ることだけが目的ではないからです。
家族4人が目の前にいる。
その時、
何人から注文を取れるか。
フードコートでは、
ここが売上を大きく左右します。
だから私は、
街場の専門店とフードコート業態の違いを、
こう整理したいと思います。
街場では「専門性」が来店理由になる。
フードコートでは「専門性」を残しながら、注文参加率をどこまで上げられるかが勝負になる。
そしてこの視点に立つと、
「蕎麦専門店だから蕎麦を磨く」
だけでは、
フードコートの巨大業態には届かない理由が、さらに見えてきます。
13.蕎麦は「蕎麦を食べる人」の中で商品を増やしている

ここまで蕎麦業態について見てくると、
一つ気になることがあります。
蕎麦業界は、決して商品開発をしていないわけではありません。
むしろ、かなり多くの商品が生まれています。
肉蕎麦。
鴨蕎麦。
天ざる。
ラー油蕎麦。
とろろ蕎麦。
海老天蕎麦。
カレー蕎麦。
丼セット。
大盛。
トッピング。
選択肢はかなり増えています。
一見すると、
「客層を広げるための商品開発をしている」
ように見えます。
しかし、ここで少し立ち止まって考える必要があります。
それらの商品は、
本当に客層を広げているのでしょうか。
商品数は増えている。しかし市場は広がっているのか
例えば、
ざる蕎麦しかなかった店が、
肉蕎麦を作る。
すると、
「普通の蕎麦では物足りない人」
を取れるようになります。
ラー油蕎麦を作る。
すると、
濃い味が好きな若者や男性を取り込める可能性があります。
天ざるを作る。
すると、
少し豪華に食べたい人を取れる。
丼セットを作れば、
ボリュームを求める人も取れます。
これは当然、意味のある商品開発です。
しかし、
ここには共通点があります。
肉蕎麦を選ぶ人も。
鴨蕎麦を選ぶ人も。
ラー油蕎麦を選ぶ人も。
天ざるを選ぶ人も。
丼セットを選ぶ人も。
基本的には、
「今日は蕎麦を食べてもいい」
と思っている人です。
つまり、
商品数は増えている。
しかし、
選択肢を増やしている相手は、基本的に「蕎麦を食べる人」の中にいる。
ここが重要です。
「メニューを増やす」と「市場を広げる」は違う
飲食店経営では、この二つを混同しやすいと思います。
メニューを増やした。
だから客層が広がった。
とは限りません。
例えば、
醤油ラーメンしかなかった店が、
味噌ラーメン。
塩ラーメン。
辛味噌ラーメン。
チャーシューメン。
を追加したとします。
商品数は5倍になりました。
しかし、
ラーメンを食べたくない人にとっては、
選択肢は依然としてゼロです。
これと同じです。
蕎麦専門店が、
10種類の蕎麦を30種類に増やしたとしても、
蕎麦を食べない子どもから見れば、
0は0のままです。
ここが、
フードコートではかなり大きな問題になります。
家族4人で考えると分かりやすい
前章と同じように、
4人家族で考えてみます。
父親は蕎麦が好き。
母親も蕎麦を食べる。
子どもAは蕎麦を食べない。
子どもBも蕎麦より別のものがいい。
この家族に対して、
蕎麦店が商品を増やしたとします。
肉蕎麦。
鴨蕎麦。
ラー油蕎麦。
天ざる。
海老天蕎麦。
丼セット。
確かに、
父親と母親には魅力的です。
父親は肉蕎麦。
母親は天ざる。
と選べるようになります。
しかし、
子どもAと子どもBが、
そもそも蕎麦を選ばないのであれば、
この2人は依然として注文に参加しません。
つまり、
商品バリエーションは増えたのに、注文参加率は50%のまま
ということが起こります。
ここが丸亀製麺との違いになる
丸亀製麺も、
もちろん基本はうどん専門業態です。
しかし、
うどんそのものの間口が広いことに加えて、
天ぷら。
おにぎり。
いなり。
トッピング。
サイズ。
温冷。
様々な選択肢があります。
重要なのは、
商品数が多いことそのものではありません。
家族の中に「自分が食べられるもの」を見つけやすいことです。
つまり、
「何うどんを食べるか」
だけではなく、
「この店で何か食べられるか」
まで選択肢が広がっています。
この差は大きい。
リンガーハットはもっと分かりやすい
前章で取り上げたリンガーハットは、
さらに分かりやすい例です。
ブランドの中心は、
ちゃんぽん。
皿うどん。
です。
しかし、
子ども向けでは、
チャーハン。
ナポリタン。
といった商品まで用意する。
つまり、
「ちゃんぽんを食べる人」の中で商品を増やしているだけではありません。
ちゃんぽんを選ばない人。
麺を食べない人。
子ども。
こうした、
ブランドの外側にいるお客様まで取り込もうとしている。
ここが重要です。
蕎麦業態の多くは「縦」に商品開発している
少し図式化して考えてみます。
蕎麦専門業態の商品開発は、
しばしば、
縦に深くなる
方向です。
ざる蕎麦。
↓
天ざる。
↓
鴨蕎麦。
↓
肉蕎麦。
↓
ラー油蕎麦。
↓
二八。
↓
十割。
↓
石臼挽き。
つまり、
蕎麦というカテゴリーの中で魅力を深くしていく。
これは専門店として非常に正しい戦略です。
蕎麦好きから見れば、
選択肢が増える。
専門性が高まる。
来店理由も強くなります。
しかしフードコートでは、
もう一つ別の方向が必要になる可能性があります。
それが、
横への拡張
です。
フードコートで必要なのは「横に広げる商品開発」
横への拡張とは、
蕎麦の種類を増やすことではありません。
蕎麦を選ばない人にも注文理由を作ることです。
例えば、
子ども。
蕎麦が苦手な人。
もっとガッツリ食べたい人。
軽食だけでいい人。
ご飯ものを食べたい人。
麺類を食べたくない人。
こうした人まで、
同じカウンターから注文できるようにする。
すると、
家族4人の中で、
蕎麦好きの1人だけを取る店から、
2人。
3人。
4人。
と注文参加率を上げられる可能性が出てきます。
これは「蕎麦屋が蕎麦をやめる」という話ではない
もちろん、
何でも売ればいい。
という話ではありません。
ハンバーグ。
パスタ。
カレー。
ラーメン。
寿司。
全部売る。
となれば、
何の店か分からなくなります。
ブランドも弱くなる。
オペレーションも重くなる。
在庫も増える。
だから、
無制限にメニューを増やすのは逆効果です。
大切なのは、
蕎麦というブランドの核を残しながら、ブランドの外側にいる人に注文理由を作ること。
ここです。
「蕎麦の商品開発」と「蕎麦業態の開発」は違う
この違いを整理すると、
かなり分かりやすくなります。
蕎麦の商品開発
肉蕎麦を作る。
鴨蕎麦を作る。
ラー油蕎麦を作る。
天ざるを作る。
丼セットを作る。
これは、
蕎麦を食べる人に、もっと選択肢を提供すること。
一方で、
蕎麦業態の開発
蕎麦を食べない子どもでも注文できる。
ご飯ものだけでも注文できる。
蕎麦が苦手な家族も同じ店で買える。
軽食にも対応できる。
しっかり食べたい人にも対応できる。
これは、
これまで自店のお客様ではなかった人を、注文客に変えること。
まったく違います。
フードコートで必要なのは「客層を増やす商品」
ここまで考えると、
フードコートでの商品開発には、
一つ重要な判断基準が見えてきます。
新商品を作った時、
「売れそうか」
だけではありません。
「この商品によって、今まで注文していなかった誰が注文するようになるのか」
を見る必要があります。
例えば、
肉蕎麦を追加した結果、
ざる蕎麦を食べていた人が肉蕎麦に変わった。
これは商品ミックスが変わっただけです。
客単価が上がるなら意味はあります。
しかし、
客数そのものは増えていないかもしれない。
一方で、
子ども向けの商品を追加した結果、
それまで注文していなかった子どもが注文するようになった。
これは、
注文参加率そのものが上がっています。
フードコートでは、この違いが非常に大きい。
商品開発のKPIが違う
街場の専門店なら、
新商品のKPIは、
販売数。
客単価。
原価率。
リピート率。
などでいいかもしれません。
しかしフードコートなら、
もう一つ見るべき数字があります。
新規注文参加者数です。
つまり、
その商品によって、
これまで注文していなかった客層を何人取れたのか。
子どもが増えたのか。
女性が増えたのか。
若者が増えたのか。
家族内で2食だった注文が3食になったのか。
ここを見る。
すると、
メニュー開発の考え方そのものが変わります。
「売れる蕎麦」ではなく「売上を広げる商品」
例えば、
すでに蕎麦を食べている人向けに、
より高単価な天ざるを作る。
これは、
縦の売上拡大
です。
一方で、
蕎麦を注文しなかった子ども向けの商品を作り、
家族4人のうち1人だった注文を2人にする。
これは、
横の売上拡大
です。
フードコートでは、
両方が必要です。
しかし、
巨大業態になるためには、
後者の影響が非常に大きい可能性があります。
なぜなら、
前章まで見てきたように、
フードコートでは施設が大量の来館者を集めてくれているからです。
その来館者から、
何人を自店の注文客にできるか。
ここが売上を決めます。
蕎麦は「選ばれた後」の商品開発に強い
こう考えると、
蕎麦業界がこれまで行ってきた商品開発の意味も少し違って見えます。
肉蕎麦。
鴨蕎麦。
天ざる。
ラー油蕎麦。
丼セット。
これらは非常に優れた商品です。
しかし多くの場合、
「蕎麦を選んだ後、何を注文するか」
を豊かにしています。
つまり、
選ばれた後の競争には強い。
しかしフードコートでまず必要なのは、
その一つ前です。
そもそも自店を選んでもらうこと。
蕎麦を食べようと思っていなかった人。
蕎麦を選ばない子ども。
別の料理を探している家族。
この人たちを、
どうやって自店の注文客にするか。
フードコートでスパークするなら、必要なのは「業態開発」
ここまでの検証から、
一つの仮説が見えてきます。
蕎麦専門業態がフードコートでさらに大きく伸びるために必要なのは、
もっと強い蕎麦を作ることだけではない。
二八を十割にする。
肉をもっと乗せる。
ラー油を入れる。
天ぷらを増やす。
そうした商品開発だけでは、
「蕎麦を食べる人」の中で競争している可能性があります。
フードコートで本当に必要なのは、
蕎麦を選ばない人まで取る業態開発
ではないでしょうか。
蕎麦の価値を捨てる必要はありません。
むしろ、
蕎麦という明確なブランドを核にする。
そのうえで、
子ども。
家族。
若者。
非蕎麦需要。
軽食需要。
ご飯需要。
をどこまで取り込めるか。
つまり、
蕎麦という専門性を深くするだけではなく、蕎麦の周囲にある需要まで広く取る。
ここまでできた時、
初めて、
「蕎麦の丸亀製麺」
と呼べるような巨大フードコート業態が生まれる可能性があるのかもしれません。
商品を増やすことと、
客を増やすことは違う。
フードコートで求められるのは、
売れる商品を増やすことではなく、注文する人を増やすこと。
私は、この違いが非常に重要だと考えています。
14.蕎麦アレルギーも無視できない

ここまで、
子ども。
ファミリー。
注文参加率。
という視点から、フードコート業態を考えてきました。
その中でもう一つ、蕎麦について無視できない要素があります。
それが、
蕎麦アレルギーです。
もちろん、
「蕎麦アレルギーがあるから、蕎麦業態はフードコートで成功できない」
という単純な話ではありません。
実際に蕎麦店はショッピングセンターにも出店していますし、街場でもロードサイドでも多くの店舗が成立しています。
しかし、
ファミリー比率が高い商業施設という環境では、うどんなどと比較した時の一つのハードルになる可能性がある。
ここは考えておく必要があります。
蕎麦はアレルギー表示でも重要度の高い食品
蕎麦は、食品表示制度においてアレルギー表示が義務付けられている特定原材料の一つです。
つまり、
単なる、
「好き嫌い」
の話ではありません。
人によっては、
安全上、避けなければならない食品
になります。
ここが、
「今日は蕎麦の気分じゃない」
という嗜好の問題とは大きく違います。
食べたくない人なら、
気分次第で蕎麦を選ぶことがあります。
しかし、
食べられない人に対しては、
どれだけ美味しい商品を作っても、
そもそも選択肢になりません。
フードコートでは「一人が食べられない」が家族全体に影響する
ここでも、
家族4人で考えてみます。
父親。
母親。
子ども2人。
父親は蕎麦が好き。
母親も蕎麦を食べる。
しかし、
子どもの一人に蕎麦アレルギーがある。
この場合、
単純に、
「その子だけ別の店で買えばいい」
とも考えられます。
実際、フードコートならそれができます。
しかし家族側から考えると、
必ずしもそれほど単純ではありません。
子どもの安全を考えれば、
原材料だけでなく、
調理器具。
茹で湯。
厨房内での取り扱い。
他商品への混入可能性。
などを気にする保護者もいるでしょう。
そうなると、
「じゃあ今日は家族みんな別の店にしよう」
という判断が起きる可能性があります。
つまり、
一人が食べられないことが、
一食分だけの問題では終わらない可能性がある。
これは「注文参加率」の問題でもある
前章まで、
フードコートでは、
家族4人のうち何人から注文を取れるのか、
という、
注文参加率
が重要だと考えてきました。
蕎麦アレルギーも、
この文脈で見ることができます。
例えば、
4人全員が食べられる業態なら、
最大4注文を取れる可能性があります。
一方で、
一人が安全上選べない業態なら、
最初から最大注文数が減る。
さらに、
その一人に合わせて家族全体が別の店舗を選ぶなら、
失うのは1注文ではなく、
複数注文になる可能性があります。
ここが、
ファミリー比率の高いフードコートでは重要です。
「子ども×食物アレルギー」は街場以上に考える必要がある
街場の蕎麦専門店なら、
そもそも、
「今日は蕎麦を食べよう」
と考えた人が来店します。
家族の中に蕎麦を食べられない人がいれば、
最初からその店を選ばないかもしれません。
つまり、
来店前にある程度、顧客が選別されています。
しかしショッピングモールでは違います。
食事目的ではない家族が大量に集まり、
その場で、
「何を食べようか」
と考えます。
つまり、
蕎麦を食べられる人も、食べられない人も、同じフードコートにいる。
ここでも、
目的来店型店舗と、
未決定客を大量に取るフードコート業態の違いが出ます。
うどんとの比較では無視しにくい
今回の記事では、
丸亀製麺を代表例として、
うどん業態と蕎麦業態を比較してきました。
もちろん、
うどんにも小麦などのアレルゲンがあります。
したがって、
「うどんにはアレルギーの問題がない」
という話ではありません。
ただ、
蕎麦そのものを避けなければならない層が存在する
ことは、
蕎麦専門業態にとって一つの制約になります。
特に、
子ども。
家族。
複数人グループ。
を幅広く取り込みたいフードコートでは、
この制約が注文参加率に影響する可能性があります。
さらに難しいのは「非蕎麦商品を増やせば解決」とも限らないこと
ここで前章の話とつながります。
「では、蕎麦を食べられない人向けに、うどんやご飯ものを売ればいい」
と思うかもしれません。
商品戦略としては考えられます。
しかし、
蕎麦を厨房内で扱っている以上、
アレルギー対応という観点では、
単純に非蕎麦商品を置けば解決するとは限りません。
厨房環境や調理工程によっては、
同じ設備や器具を使う可能性があります。
そのため、
「メニュー上は蕎麦が入っていない」ことと、「安心して注文できる」ことは同じではありません。
ここは、
単なる商品開発では解決しにくい部分です。
フードコートでは「食べられる人の最大公約数」が強い
ここまでの記事を通して見えてきたことがあります。
フードコートでは、
「一部の人に圧倒的に刺さる」
だけでなく、
多くの人が選択肢に入れられること
が非常に重要です。
子どもでも食べられる。
高齢者でも食べられる。
男性でも女性でも選べる。
軽くも食べられる。
しっかり食べることもできる。
家族の中で複数人が注文できる。
そこに、
アレルギーによる選択制限まで加わります。
すると、
フードコートで巨大業態になるためには、
「どれだけ多くの人にとって選択可能な店でいられるか」
という視点がかなり重要になってきます。
これは決定的な原因ではない
ただし、
ここは明確にしておきます。
蕎麦アレルギーだけで、
「蕎麦がフードコートで巨大化しにくい理由」
を説明することはできません。
その影響がどの程度あるのかも、
店舗や商圏によって異なるでしょう。
ですから、
これはあくまで、
複数ある構造的なハードルの一つ
として考えるべきです。
これまで見てきた、
取れる客層の幅。
未決定客を動かす力。
商品の視覚的訴求。
ピーク処理能力。
注文参加率。
そして、
食物アレルギーによる選択制限。
こうした小さな差が積み重なることで、
最終的に、
「同じ10坪から取れる客数」
に差が生まれている可能性があります。
蕎麦が悪いのではなく「最初から取れない客」が存在する
蕎麦アレルギーという問題から見えてくるのは、
蕎麦の商品力の弱さではありません。
どれだけ素晴らしい二八蕎麦を作っても、
どれだけ店内製麺をしても、
どれだけ美味しくても、
安全上、選べない人は存在します。
つまり、
蕎麦専門業態には、
商品力とは無関係に、最初から取り込めない可能性のある客層が存在する。
これが、
幅広い来館者を注文客へ変換する必要があるフードコートでは、
小さいながらも無視できないハードルになるのではないでしょうか。
一つ一つを見れば決定的ではありません。
しかし、
フードコートのように、
10店舗が同時に比較され、わずかな注文参加率の差が月商の大きな差になる市場
では、
こうした小さな不利の積み重ねこそ、重要なのかもしれません。
15.だから「肉つけ蕎麦」でも解決しなかった

ここで、第3章で触れた、
肉つけ蕎麦
の話に戻ります。
蕎麦の商品力を高めるという意味では、
肉つけ蕎麦は非常に分かりやすい成功例です。
従来の蕎麦が持っていた、
あっさり。
高齢者向け。
量が少ない。
少し地味。
といったイメージに対して、
肉。
濃いつゆ。
ボリューム。
太い麺。
ラー油。
大盛。
といった要素を加える。
これによって、
従来の蕎麦店では取りにくかった、
若者。
男性。
ガッツリ食べたい人。
まで客層を広げることができます。
実際、太鼓亭などでは、こうした強い蕎麦商品を使った業態がロードサイドや街場で成立しています。
では、
これだけ強い商品をフードコートへ持っていけば、蕎麦版の丸亀製麺になるのでしょうか。
ここまでこの記事を読んできた人なら、
おそらく、
「それだけでは難しいのではないか」
と感じるはずです。
肉つけ蕎麦は、間違いなく商品として強い
ここは最初に明確にしておきます。
肉つけ蕎麦という商品が弱いわけではありません。
むしろ、
蕎麦という料理の弱点と考えられていた部分を、かなり補っています。
見た目にも肉がある。
ボリュームがある。
味が濃い。
若者にも分かりやすい。
男性にも刺さる。
「蕎麦ではお腹いっぱいにならない」
というイメージも崩せる。
従来の、
ざる蕎麦。
かけ蕎麦。
とは違う客層を取ることができます。
だから、
蕎麦の商品開発としては非常に合理的です。
それでも「蕎麦を食べる人」の中にいる
しかし、
前章までの話を当てはめると、
一つの限界も見えてきます。
肉つけ蕎麦を食べる人は、
基本的には、
「蕎麦を食べてもいい人」
です。
ざる蕎麦では物足りない人を、
肉つけ蕎麦なら取れる。
普通の蕎麦では若者に弱かったところを、
ラー油蕎麦なら取れる。
これは間違いなく客層拡大です。
しかし、
蕎麦そのものを選ばない子ども。
蕎麦を食べたくない人。
蕎麦アレルギーのある人。
今日はご飯ものを食べたい人。
こうした人まで、
肉つけ蕎麦によって取り込めるわけではありません。
つまり、
蕎麦という市場の中では横に広がった。しかし、蕎麦市場の外まで完全に出たわけではない。
ここが重要です。
ロードサイドでは、それでも十分に強い
では、なぜロードサイドでは成立するのでしょうか。
ここまでの記事を逆から考えれば分かります。
ロードサイドでは、
車で走っている。
看板を見る。
「肉つけ蕎麦」
という強い商品が目に入る。
「今日はこれを食べよう」
と思う。
駐車場へ入る。
店に入る。
この時点で、
目的来店が成立します。
つまり、
肉つけ蕎麦そのものが来店理由になります。
これは非常に強い。
さらに一度店内へ入れば、
隣にラーメン店。
その隣にステーキ店。
その隣にハンバーガーショップ。
という状態ではありません。
店に入った時点で、
競争の大部分は終わっています。
フードコートでは「店の前」まで競争が続く
ところがフードコートでは違います。
肉つけ蕎麦を見て、
「美味しそうだな」
と思った。
しかし、
1メートル横を見る。
肉が鉄板で焼けている。
さらに横を見る。
大きなチャーシューのラーメンがある。
反対を見る。
揚げたての天ぷらとうどんがある。
子どもは、
「ハンバーガーがいい」
と言う。
つまり、
購入する直前まで競争が終わりません。
これがロードサイドとの大きな違いです。
「強い商品」の定義が立地によって変わる
ここが飲食店経営として非常に重要です。
ロードサイドで強い商品とは、
車を止めさせる商品
かもしれません。
街場で強い商品とは、
わざわざ店まで歩いて来てもらえる商品
かもしれません。
駅前なら、
短時間で日常利用される商品
が強いかもしれません。
そしてフードコートでは、
複数の競合と横並びになった状態で、その場の未決定客を自店へ変換できる商品・業態
が強い。
つまり、
「強い商品」は絶対的なものではありません。
立地が変われば、
強さの定義も変わります。
ロードサイドとフードコートでは、集客の構造が逆
この違いを整理すると、さらに分かりやすくなります。
ロードサイド
商品を見る。
↓
興味を持つ。
↓
駐車場に入る。
↓
店に入る。
↓
注文する。
つまり、
商品が客を店まで連れてくる。
一方、
フードコート
施設が客を集める。
↓
フードコートまで客を連れてくる。
↓
複数店舗を比較する。
↓
商品を見る。
↓
一店舗を選ぶ。
つまり、
客はすでに目の前にいる。
必要なのは、
集客そのものより、
目の前にいる客を競合から奪う力
です。
ここがまったく違います。
肉つけ蕎麦の成功を、そのまま移植できない理由
だから、
ロードサイドで肉つけ蕎麦が売れた。
↓
商品力が強い。
↓
フードコートでも売れる。
とは単純にはなりません。
立地が変わったことで、
競争相手が変わっています。
お客様の来店目的も違う。
意思決定のタイミングも違う。
家族比率も違う。
視覚競争も違う。
ピーク需要の集中も違う。
必要な処理能力も違う。
つまり、
商品は同じでも、商売そのものが変わっています。
ここまでの話を全部当てはめてみる
例えば、
非常に強い肉つけ蕎麦をフードコートに出したとします。
商品力は高い。
しかし、
① 取れる客数の幅
若者や男性には広がった。
しかし、子どもや非蕎麦需要まで取れるか。
② 未決定客の変換力
肉によって視覚的には強くなった。
しかし、ラーメンや鉄板肉料理と並んだ時にも勝てるか。
③ 注文参加率
家族4人のうち、何人がその店から注文するか。
④ 客単価
肉を乗せることで単価は上げられる。
しかし、サイド商品まで含めてどこまで取れるか。
⑤ ピーク処理能力
注文が集中した時、
茹でる。
洗う。
締める。
水を切る。
盛る。
肉を乗せる。
この工程で1時間何食出せるか。
⑥ 区画生産性
最終的に、
10坪前後の厨房から月商いくらを作れるのか。
ここまでクリアして初めて、
フードコート業態として強い
と言えます。
商品力だけでは、フードコートの壁を越えられない
ここで、
第3章の問いに答えることができます。
「もっと強い蕎麦を作れば解決するのか。」
おそらく、
それだけではありません。
肉つけ蕎麦という強い商品は、すでに存在します。
店内製麺もある。
二八蕎麦もある。
セルフ方式もある。
天ぷらもある。
大盛もある。
つまり、
蕎麦業界は、
商品開発をしてこなかったわけではありません。
それでも、
フードコートで圧倒的な巨大業態が生まれていないのであれば、
問題は、
商品の強さ以外にもある
と考えた方が自然です。
必要なのは「商品移植」ではなく「業態再設計」
ここが、この章で最も重要なところです。
ロードサイドで成功した商品を、
そのままフードコートへ持っていく。
これは、
商品移植
です。
しかし、
戦場が変わるのであれば、
必要なのはそれだけではありません。
フードコートの、
客層。
家族利用。
未決定客。
注文参加率。
視覚競争。
ピーク集中。
厨房面積。
処理能力。
これらを前提として、
商品構成からオペレーションまで作り直す。
つまり、
業態再設計
が必要になります。
料理が同じでも、立地が変われば商売は別物になる
飲食店では、
「あそこで売れているから、ここでも売れる」
という考え方をしてしまうことがあります。
しかし、
商品だけを見ていると危険です。
ロードサイドで月商1,000万円を売る商品が、
フードコートでも月商1,000万円売れるとは限りません。
逆もあります。
フードコートで強い業態が、
街場で同じように強いとも限りません。
なぜなら、
立地が変われば、お客様の行動が変わるからです。
お客様の行動が変われば、
競争相手が変わる。
競争相手が変われば、
勝つための条件も変わります。
だから「肉つけ蕎麦」でも解決しなかった
肉つけ蕎麦は強い。
これは変わりません。
従来の蕎麦のイメージを変え、
若者や男性まで客層を広げた。
街場やロードサイドで結果を出している。
それでも、
強い商品をそのままフードコートへ持っていけば、同じようにスパークするとは限らない。
なぜなら、
ロードサイドとフードコートでは、
競争ルールそのものが違うからです。
ロードサイドでは、
「この商品を食べるために来てもらう力」
が重要です。
フードコートでは、
「すでに目の前にいる大量の未決定客を、競合より多く注文客へ変える力」
が重要になります。
だから、
フードコートで蕎麦をスパークさせるために必要なのは、
さらに強い肉つけ蕎麦を作ることではないのかもしれません。
必要なのは、
蕎麦という商品を磨くことから一段上がって、
フードコートという戦場そのものに合わせて、蕎麦業態をゼロから再設計すること。
ここまで考えて初めて、
「蕎麦の丸亀製麺」がなぜまだ生まれていないのか、
その理由が見えてくるのではないでしょうか。
16.「商品力」と「業態力」は違う

ここまで、
なぜ蕎麦専門業態は、フードコートで圧倒的な勝ち組になりにくいのか。
様々な角度から考えてきました。
商品。
客層。
ファミリー。
視覚的訴求。
坪売上。
ピーク処理能力。
注文参加率。
アレルギー。
そして、
ロードサイドとフードコートの競争ルールの違い。
ここまで考えてくると、
この記事で最も伝えたいことが見えてきます。
それは、
「商品力」と「業態力」は違う。
ということです。
美味しい蕎麦を作る。これは商品開発
二八蕎麦にする。
店内製麺する。
茹でたてを提供する。
冷水でしっかり締める。
香りを出す。
つゆを磨く。
肉を乗せる。
天ぷらを揚げる。
ラー油を使う。
盛り付けを良くする。
こうした取り組みは、
すべて重要です。
そして、
商品力を高めるための努力です。
美味しいものを作る。
他店より品質を上げる。
お客様に、
「また食べたい」
と思ってもらう。
飲食店として当然必要なことです。
しかし、
ここで終わってしまうと、
経営としては一段足りません。
「美味しい商品」と「売れる業態」は同じではない
例えば、
ものすごく美味しい蕎麦を作ったとします。
食べた人の評価は高い。
口コミもいい。
リピート率も高い。
それでも、
フードコートで巨大売上を作れるとは限りません。
なぜなら、
フードコートでは、
料理そのものとは別の条件
が大量に存在するからです。
例えば、
約10坪。
その小さな厨房の中で商売をする。
少人数。
限られた人数でオペレーションを回す。
ピーク集中。
休日12時〜13時に注文が一気に押し寄せる。
ファミリー。
一人客だけでなく、子どもを含めた複数人を相手にする。
競合10店舗。
ラーメン、うどん、肉、ハンバーガー、丼などと同時比較される。
短時間選択。
お客様は数分かけて商品説明を読んでくれるわけではない。
高回転。
限られたピーク時間に大量の注文を処理する必要がある。
これらは、
蕎麦が美味しいかどうかとは、
まったく別の問題です。
商品力と業態力を分けて考える
私は、この二つを分けて考えた方が、
飲食店経営はかなり見えやすくなると思います。
| 商品力 | 業態力 |
|---|---|
| 美味しいか | 大量に売れるか |
| 品質が高いか | 品質を維持して量産できるか |
| また食べたいか | 多くの客層から注文を取れるか |
| 他店の商品より魅力的か | 他業態との比較でも選ばれるか |
| 一皿の完成度 | 店舗全体の生産性 |
| レシピ | 仕組み |
| 商品開発 | 業態開発 |
似ています。
しかし、
考えている対象が違います。
商品開発が、
「何を売るか」
を作る仕事だとすれば、
業態開発は、
「どうすれば、その商品を最大量売れるのか」
を作る仕事です。
100点の商品を作っても、100点の業態にはならない
ここは非常に重要です。
例えば、
100点の蕎麦を作った。
しかし、
店頭から魅力が伝わらない。
子どもが選ばない。
家族4人のうち1人しか注文しない。
ピークになると提供に10分かかる。
厨房が詰まる。
1時間50食しか出せない。
すると、
商品は100点でも、業態として100点とは限りません。
逆に、
商品単体では90点だったとしても、
見れば美味しさが伝わる。
子どもも食べる。
高齢者も食べる。
若者も食べる。
家族4人のうち3人が注文する。
1時間150食を処理できる。
サイド商品まで売れる。
こうなれば、
フードコートでは非常に強い業態になります。
だから、
最高の商品を作ることと、最高の売上を作ることは別の仕事です。
業態開発とは「制約条件の中で最大化すること」
では、
業態開発とは何でしょうか。
私は、
与えられた制約条件の中で、売上と利益を最大化する仕組みを作ること
だと考えています。
今回のフードコートなら、
制約条件はかなり明確です。
10坪。
少人数。
ピーク集中。
ファミリー。
競合10店舗。
短時間選択。
高回転。
この条件は変えられません。
「厨房が狭いから売れません」
ではダメです。
狭いことは最初から分かっています。
「昼に注文が集中するから大変です」
でもありません。
集中することを前提に設計する。
「子どもが蕎麦を食べてくれません」
なら、
どうすれば子どもからも注文を取れるのかを考える。
「隣のラーメンの方が目立ちます」
なら、
どうすれば数秒で商品価値を伝えられるのかを考える。
これが、
業態開発です。
料理人は「一皿」を見る。経営者は「1時間」を見る
少し極端に表現すると、
料理人は、
一皿
を見ます。
どうすればもっと美味しくなるか。
どうすれば香りが良くなるか。
どうすれば食感が良くなるか。
もちろん、
これは非常に重要です。
しかし経営者は、
その一皿だけではなく、
1時間
を見なければなりません。
この一皿を、
1時間に何皿売れるのか。
何人で作れるのか。
何坪必要なのか。
品質は維持できるのか。
いくら売上になるのか。
いくら利益が残るのか。
ここまで考える。
だから、
料理の最適解と、経営の最適解は必ずしも一致しません。
「一番美味しい作り方」が「一番強い業態」とは限らない
例えば、
一食ずつ丁寧に作れば、
最高に美味しくなる。
しかし、
ピーク時に30食しか出せない。
一方で、
工程を標準化し、
設備を工夫し、
複数食を同時処理することで、
品質をほぼ維持したまま、
100食出せる。
フードコートという環境では、
後者の方が強い可能性があります。
これは、
品質を軽視しているわけではありません。
むしろ、
品質を商売として成立する形に変換している
のです。
美味しいものを作れる。
ではなく、
美味しいものを大量に、安定して、利益を残しながら提供できる。
ここまで来て初めて、
業態になります。
丸亀製麺の強さも「うどんが美味しい」だけでは説明できない
この記事で何度も丸亀製麺と比較してきました。
もちろん、
うどんの商品力は重要です。
しかし、
それだけであの業態の強さを説明することはできません。
目の前で調理が見える。
注文方法が分かりやすい。
セルフで流れる。
天ぷらを自分で取れる。
おにぎりもある。
子どもも食べやすい。
一人客でも入りやすい。
高齢者でも利用しやすい。
ファミリーでも使える。
ピーク時に大量のお客様を処理できる。
つまり、
一つ一つの商品だけではなく、
注文から会計までの商売全体が設計されている。
ここが強い。
うどんという商品を売っているように見えて、
実際には、
「うどんを大量に売れる仕組み」
を作っています。
これが業態力です。
強いチェーンは「料理」ではなく「システム」を持っている
これは丸亀製麺だけの話ではありません。
大きくなる飲食チェーンには、
強い商品があります。
しかし、
強い商品だけでは何百店舗にもなりません。
誰が作っても一定品質。
少人数でも回る。
ピークでも崩れない。
仕込みが標準化されている。
厨房が標準化されている。
注文方法が標準化されている。
客単価を作る仕組みがある。
サイド商品が売れる。
幅広い客層が利用できる。
つまり、
商品を売るためのシステム
があります。
だからチェーン化できます。
蕎麦に足りないのは「もっと美味しい蕎麦」なのか
ここまで来ると、
この記事の最初の疑問に対する見え方も変わります。
なぜ、
フードコートに、
「蕎麦の丸亀製麺」
と呼べるような圧倒的業態がまだ見えないのか。
最初は、
蕎麦の商品力に問題があるのではないか。
と思いました。
しかし調べていくと、
違います。
二八蕎麦がある。
店内製麺もある。
茹でたてもある。
肉つけ蕎麦もある。
ラー油蕎麦もある。
天ぷらもある。
セルフ方式もある。
つまり、
商品開発はかなり進んでいる。
だとすれば、
次に疑うべきなのは、
商品ではありません。
業態そのものです。
問題は「何を作るか」から「どう売るか」へ移る
フードコートで考えなければならないのは、
美味しい蕎麦を作れるか。
だけではありません。
その蕎麦を、
10坪で作れるか。
少人数で回せるか。
ピーク1時間に大量提供できるか。
家族4人から何注文取れるか。
子どもから注文を取れるか。
未決定客を振り向かせられるか。
10店舗の中で瞬間的に選ばれるか。
サイド商品で客単価を作れるか。
そして、
同じ10坪に入る他業態以上の売上を作れるか。
ここまでが、
フードコート業態の設計です。
商品力 × 業態力
だから、
飲食店の強さを、
商品力だけで評価してはいけません。
私は、
こう考えた方が分かりやすいと思います。
商品力 × 業態力 = 店舗競争力
商品力が高くても、
業態力が弱ければ、
売上には限界がある。
業態力が高くても、
商品力が弱ければ、
一度は売れてもリピートされない。
両方が必要です。
そして、
大手チェーンが強いのは、
商品開発だけではなく、
業態開発に莫大な時間と資金を使っているから
でもあります。
飲食店経営者が見るべきもの
飲食店を見に行った時、
料理だけを見る人は多いと思います。
美味しい。
安い。
量が多い。
盛り付けがいい。
しかし、
経営者として見るなら、
もう一段深く見ると面白くなります。
何坪なのか。
何人で回しているのか。
何席あるのか。
1時間何食出せるのか。
誰が注文しているのか。
家族4人のうち何人が買っているのか。
何が追加購入されているのか。
どこで行列が止まっているのか。
どの工程がボトルネックなのか。
つまり、
料理を見るのではなく、料理が売れる仕組みを見る。
ここまで見ると、
同じ飲食店でもまったく違って見えてきます。
「商品力」と「業態力」は似ているようで、まったく違う
美味しい蕎麦を作る。
これは、
商品開発です。
しかし、
10坪。
少人数。
ピーク集中。
ファミリー。
競合10店舗。
短時間選択。
高回転。
という環境の中で、
最大売上を作る仕組みを設計する。
これは、
業態開発です。
似ているようで、
まったく違います。
商品開発は、
一皿を強くする仕事。
業態開発は、
その一皿が最大限売れる構造を作る仕事。
そして、
フードコートで圧倒的な業態を作るために必要なのは、
美味しい商品だけではありません。
美味しい商品を、限られた面積・人員・時間の中で、最大量売れる仕組みに変えること。
それが、
業態力です。
私は今回、
「なぜフードコートには、蕎麦の絶対王者がいないのか」
を考えていました。
しかし、
調べれば調べるほど、
これは蕎麦だけの話ではないと感じます。
飲食店経営では、
良い商品を作ることと、良い商売を作ることは違う。
この二つを混同しないこと。
それこそが、
この記事で最も伝えたいことです。
17.飲食店は「何を売るか」だけでは決まらない

ここまで、
蕎麦という一つの商品を通して、
フードコートという市場の特殊性を考えてきました。
しかし、
この話は蕎麦だけに限りません。
飲食店は、
「何を売るか」だけでは決まらない。
同じ商品でも、
どこで売るか。
誰に売るか。
どういう時に選ばれるか。
どうやって提供するか。
それによって、
まったく違う商売になります。
同じ商品でも、立地が変われば勝ち方が変わる
例えば、
同じラーメンを売るとしても、
駅前。
オフィス街。
住宅街。
ロードサイド。
繁華街。
フードコート。
では、
求められるものが違います。
駅前なら、
時間がない。
一人客が多い。
短時間で食べたい。
という需要が強いかもしれません。
オフィス街なら、
ランチタイムに需要が集中する。
12時から13時に大量のお客様を処理する必要がある。
住宅街なら、
地域住民。
家族。
リピーター。
日常使い。
が重要になる。
ロードサイドなら、
車で来る。
駐車場が必要。
家族利用もある。
看板で入店を決める。
繁華街なら、
夜需要。
飲酒。
二軒目。
観光客。
若者。
などが入ってくる。
そしてフードコートなら、
施設が集めた大量の未決定客から、
競合10店舗以上と比較されながら注文を取る。
同じ料理でも、
競争ルールがまったく違います。
「売れる商品」をそのまま持ってきても売れるとは限らない
飲食店をやっていると、
繁盛店を見て、
「あの商品、売れているな」
と思うことがあります。
肉を大量に乗せている。
大盛無料にしている。
価格が安い。
セット商品が強い。
写真映えする。
行列ができている。
そこで、
「うちも真似しよう」
となる。
もちろん、
他店から学ぶことは非常に重要です。
しかし、
商品だけを切り取って真似すると危険です。
なぜなら、
その商品が売れている理由が、
商品そのものとは限らないからです。
売れている理由は「商品以外」にあるかもしれない
例えば、
駅前で500円の商品が爆発的に売れている。
だから、
住宅街でも500円で売ればいい。
とは限りません。
駅前では、
通勤客が毎日大量に通る。
滞在時間が短い。
一人客が多い。
価格感度が高い。
という条件があるかもしれません。
一方、住宅街では、
家族で使う。
ゆっくり食べる。
車で来る。
週末利用が多い。
という条件かもしれない。
同じ商品でも、
お客様がその店を使う理由が違う。
だから、
商品だけをコピーしても、
結果までコピーできるとは限りません。
「何が売れているか」より「なぜそこで売れるのか」
繁盛店を見る時、
見るべきなのは、
何を売っているか
だけではありません。
なぜ、
その商品が、
その場所で、
そのお客様に、
その価格で、
その時間帯に、
売れているのか。
ここまで見る必要があります。
例えば、
肉つけ蕎麦が売れている。
だから肉つけ蕎麦をやる。
ではなく、
なぜ肉つけ蕎麦が、
そのロードサイドで、
その客層に、
その価格で、
選ばれているのか。
そこまで分解する。
これが重要です。
飲食店を見る時の6つの要素
私は、
飲食店を考える時、
少なくとも次の要素をセットで見る必要があると思います。
商品 × 客層 × 利用動機 × オペレーション × 坪数 × 立地
一つずつ見てみます。
1.商品
まず当然、
何を売るのか。
ラーメン。
蕎麦。
うどん。
焼肉。
定食。
ハンバーガー。
商品力は必要です。
しかし、
ここだけ見てはいけません。
2.客層
誰が買うのか。
一人客。
会社員。
学生。
高齢者。
女性。
子ども。
ファミリー。
観光客。
同じ商品でも、
客層が変われば、
量。
味。
価格。
メニュー構成。
全部変わります。
3.利用動機
なぜその店を使うのか。
ここは非常に重要です。
早く食べたい。
安く食べたい。
家族で食事したい。
飲みたい。
デートしたい。
休憩したい。
がっつり食べたい。
健康的なものを食べたい。
「何を食べるか」と同じくらい、
「なぜ食べるのか」
を見る必要があります。
4.オペレーション
どれだけ売れても、
作れなければ意味がありません。
何人必要なのか。
1時間何食出せるのか。
注文から提供まで何分なのか。
仕込みに何時間かかるのか。
ピーク時に詰まらないか。
ここまで含めて、
商品です。
5.坪数
何坪で商売するのか。
10坪。
20坪。
50坪。
100坪。
同じ売上でも、
必要面積が違えば、
経営効率は変わります。
月商1,000万円でも、
100坪必要な業態と、
10坪で作れる業態では、
意味がまったく違います。
だから、
売上だけではなく、面積当たりの生産性
を見る必要があります。
6.立地
そして最後が、
立地です。
駅前。
オフィス街。
住宅街。
ロードサイド。
繁華街。
ショッピングモール。
立地によって、
通行量。
客層。
競合。
利用時間。
交通手段。
滞在時間。
全部変わります。
つまり、
立地は単なる住所ではありません。
商売のルールそのもの
です。
「商品」ではなく「組み合わせ」で勝敗が決まる
飲食店経営で重要なのは、
この6つを単体で見ることではありません。
組み合わせです。
例えば、
素晴らしい商品。
素晴らしい立地。
でも、
客層が合っていない。
売れない。
逆に、
商品はそこまで派手ではない。
しかし、
客層。
利用動機。
価格。
オペレーション。
立地。
がすべて噛み合っている。
すると、
非常に強い店になる。
つまり、
飲食店の競争力は、
一つの強みではなく、複数要素の掛け算
で決まります。
繁盛店は「商品が強い」のではなく「整合性が高い」
私は、
繁盛店を見る時に、
「商品が強い」
だけで評価しない方がいいと思います。
本当に強い店は、
商品。
価格。
客層。
立地。
オペレーション。
店舗サイズ。
これらが、
非常にきれいにつながっています。
例えば、
安い商品。
高回転。
駅前。
一人客。
短時間利用。
この組み合わせ。
あるいは、
高単価。
広い店。
駐車場。
ファミリー。
長時間滞在。
この組み合わせ。
どちらも成立します。
大切なのは、
すべてが同じ方向を向いていること。
「いい商品なのに売れない」の正体
飲食店でよくあるのが、
「商品には自信があるのに売れない」
という悩みです。
本当に商品が美味しい場合もあります。
でも、
売れない。
この時、
さらに商品を改良しようとする。
味を変える。
量を増やす。
価格を下げる。
メニューを増やす。
しかし、
問題が商品ではなかったらどうでしょうか。
客層が違う。
利用動機が違う。
立地が合っていない。
オペレーションが重い。
坪数が大きすぎる。
視認性が弱い。
競合との比較で選ばれていない。
そういう可能性もあります。
だから、
売れない=商品が弱い
とは限りません。
「立地が悪い」で終わるのも違う
逆に、
「立地が悪いから仕方ない」
で終わるのも危険です。
立地には、
それぞれ違う市場があります。
駅前には駅前の客。
住宅街には住宅街の客。
ロードサイドにはロードサイドの客。
問題は、
その場所に、
自分の業態が合っているか
です。
つまり、
「良い立地」か「悪い立地」ではなく、
「業態に合う立地」かどうか
を見るべきです。
強い商品を探すより、強い組み合わせを作る
飲食店経営では、
どうしても、
「売れる商品は何か」
を探したくなります。
ラーメンが伸びている。
焼肉が強い。
蕎麦が来る。
韓国料理が流行っている。
しかし、
商品だけを追いかけると、
本質を見失います。
重要なのは、
その商品を、
誰に。
どこで。
何の目的で。
何人で。
何坪で。
どう売るのか。
です。
つまり、
探すべきなのは、
強い商品ではなく、強い組み合わせ
です。
「あの店が売れているから真似しよう」は危険
他店を研究することは大切です。
むしろ、
飲食店経営者はもっと他店を見るべきだと思います。
しかし、
商品だけを見るのでは足りません。
「あのハンバーグが売れている」
ではなく、
なぜ売れているのか。
「あのランチが安い」
ではなく、
なぜその価格で成立するのか。
「あの店は行列している」
ではなく、
何人で何食処理しているのか。
「あの店は郊外で強い」
ではなく、
どんな家族を取っているのか。
ここまで見る。
そうすると、
真似すべきものも変わります。
飲食店経営者が本当に見るべきもの
だから、
繁盛店を見た時に、
見るべきなのは、
料理だけではありません。
商品 × 客層 × 利用動機 × オペレーション × 坪数 × 立地
この組み合わせです。
そして、
この組み合わせが、
その店の売上。
利益。
回転率。
人件費。
客数。
リピート。
すべてを作っています。
今回、
「なぜフードコートには、蕎麦の絶対的な勝ち組が少ないのか」
という疑問から始まりました。
しかし、
最終的に見えてきたのは、
もっと普遍的な話でした。
商品が売れているのではありません。
その商品が、その客層、その立地、その利用動機、そのオペレーションに合っているから売れている。
だから、
「あの店の商品が売れているから真似しよう」
だけでは危険です。
本当に見るべきなのは、
何を売っているかではなく、なぜその場所でその商品が売れる構造になっているのか。
飲食店経営は、
商品選びではありません。
組み合わせを設計する仕事です。
18.RBRとしての最終見解

ここまで、
なぜフードコートでは、蕎麦の圧倒的な勝ち組が生まれにくいのか。
という疑問から、
商品。
客層。
ファミリー。
注文参加率。
視覚的訴求。
坪売上。
ピーク処理能力。
アレルギー。
そして、立地と業態の関係まで見てきました。
最初に、改めて言いたいことがあります。
蕎麦が弱いのではありません。
蕎麦は、日本人に長く愛されてきた非常に強い商品です。
駅前で成功する蕎麦屋があります。
街場で支持される蕎麦屋があります。
ロードサイドで成功する蕎麦業態があります。
200店舗を超える規模まで成長した蕎麦チェーンもあります。
店内製麺もできる。
セルフサービスにもできる。
天ぷらも売れる。
肉つけ蕎麦のように、若者や男性へ客層を広げることもできる。
つまり、
蕎麦という商品そのものに、決定的な弱さがあるわけではありません。
それでも、
フードコートでは、
「蕎麦といえばこのブランド」
と誰もが思い浮かべるような圧倒的な全国業態が、まだ見えにくい。
私は、
そこに飲食店経営の本質があると思います。
売れる商品と、売れる業態は違う
美味しい蕎麦を作る。
これは商品力です。
しかし、
10坪前後の厨房で。
少人数で。
ピークに大量のお客様を処理し。
子どもから高齢者まで取り込み。
10店舗前後の競合と比較されながら。
短時間で選んでもらい。
客単価を作り。
大量の注文をさばく。
これは、
業態力です。
だから、
売れる商品を持っていることと、売れる業態を持っていることは違います。
どれだけ美味しい料理でも、
業態として大量販売できなければ、
巨大店舗にはなりません。
逆に、
どれだけ効率のいい仕組みでも、
商品そのものに魅力がなければ、
長くは続きません。
商品と業態。
両方が必要です。
そして、売れる業態でも「どこでも売れる」わけではない
さらに重要なのが、
立地です。
駅前。
オフィス街。
住宅街。
ロードサイド。
繁華街。
フードコート。
同じ業態でも、
場所が変われば競争ルールが変わります。
駅前なら、
速さが強さになるかもしれない。
住宅街なら、
地域のリピートが重要になるかもしれない。
ロードサイドなら、
車で来る家族客を取る必要がある。
繁華街なら、
夜需要や目的来店が強い。
フードコートなら、
何を食べるか決めていない大量のお客様から、
競合と横並びで選ばれなければならない。
だから、
売れる業態を持っていることと、その立地で売れることも違います。
飲食店経営者が見るべきもの
飲食店経営者は、
どうしても料理を見ます。
何が美味しいのか。
何が売れているのか。
何が流行っているのか。
もちろん、それは必要です。
しかし、
経営者として見るなら、
もう一段深く見る必要があります。
誰が来るのか。
なぜ来るのか。
何と比較されるのか。
何坪で戦うのか。
何人で回すのか。
ピークに何食出せるのか。
客単価はいくらなのか。
その場所で、最終的にいくら売れるのか。
ここまで見て、
初めて業態が見えてきます。
「あの商品が売れている」は、答えではない
繁盛店を見ると、
「あの商品が売れている」
と思います。
そして、
同じ商品を作る。
同じ価格にする。
同じ盛り付けにする。
同じセットを作る。
しかし、
繁盛店の商品だけを真似しても、
繁盛店にはなれません。
なぜなら、
その商品が売れている背景には、
立地。
客層。
利用動機。
価格。
店舗面積。
席数。
オペレーション。
競合。
ブランド。
が存在するからです。
表面の商品だけをコピーしても、
商品を売っている構造まではコピーできていない。
ここを間違えると、
「同じような商品なのに、なぜうちは売れないのか」
となります。
商品には、勝てる場所がある
肉つけ蕎麦が強い場所があります。
立ち食い蕎麦が強い場所があります。
高級蕎麦が強い場所があります。
セルフ蕎麦が強い場所があります。
つまり、
商品には、
その商品の強さが最も発揮される場所
があります。
だから、
商品には、勝てる場所があります。
重要なのは、
商品単体の強さではありません。
その商品が、その場所で強いか。
です。
そして、立地には勝てる業態がある
逆から見れば、
立地にも特徴があります。
駅前には、
駅前で強い業態がある。
ロードサイドには、
ロードサイドで強い業態がある。
住宅街には、
住宅街で強い業態がある。
フードコートには、
フードコートで強い業態がある。
だから、
「この場所は人通りが多いから良い立地」
というだけでは足りません。
どれだけ人が多くても、
自分の業態と合っていなければ売れない。
逆に、
一見それほど良く見えない立地でも、
業態と客層が合えば強い店になります。
つまり、
立地には、勝てる業態があります。
「良い立地」を探すのではない
飲食店開業では、
よく、
「良い立地を探せ」
と言われます。
もちろん、
立地は重要です。
しかし、
私は少し違う見方をしています。
探すべきなのは、
単純な「良い立地」ではありません。
自分の業態が勝てる立地です。
あるいは逆に、
すでに立地が決まっているなら、
その場所で勝てる業態を作る。
このどちらかです。
ここを外すと、
商品が良くても苦しくなります。
「立地 × 業態」まで設計する
今回の記事は、
「なぜフードコートには蕎麦の絶対王者が少ないのか」
という、かなり限定的な疑問から始まりました。
しかし、
調べていくうちに、
見えてきたのは、
蕎麦だけの話ではありませんでした。
商品には商品力がある。
業態には業態力がある。
そして、
その業態が機能する立地があります。
だから飲食店経営は、
「何を売ろう」
だけでは終わりません。
誰に。
どこで。
なぜ選ばれ。
どう提供し。
何人から注文を取り。
何食処理し。
何坪から、いくら売るのか。
ここまで設計する。
つまり、
「立地 × 業態」まで設計して、初めて飲食店経営になる。
蕎麦が弱いのではありません。
蕎麦には蕎麦が勝てる場所がある。
そしてフードコートには、
フードコートで勝てる業態があります。
料理を作ることと、
商売を作ることは違う。
その違いを見ることができるようになると、
飲食店の見え方は、
大きく変わると思います。
この記事を書いた人 Wrote this article
新田 敏之 RBR合同会社 統括 / 男性
RBR(Restaurant Business Reform)代表。 鉄板焼きの現場で25年。 これまで数多くの飲食店の立て直しを中心とした経営改善に携わり、売上改善、商品開発、人材育成、オペレーション構築、デリバリー事業の立ち上げなど、現場に入りながら支援を行ってきました。 現在は「ガブ飲み食堂」を運営しながら、主力商品の開発・ソースや商品の卸事業、デリバリーFC事業の展開、そして飲食店の経営改善支援を行っています。 このブログで発信するのは、机上の理論ではありません。 すべて現場で試し、失敗し、改善を繰り返してきた実践知です。 料理だけでは、お店は続きません。 利益が残る仕組み、人が育つ環境、お客様に選ばれ続ける理由。 私は、その「経営」を一人でも多くの飲食人に届けたいと考えています。 飲食店を増やしたいわけではありません。 利益が残る飲食店を、一店舗でも増やしたい。 その想いを胸に、今日も現場で挑戦を続けています。